受験生は大変なのよ!(後編)
私は箕輪まどか。
G県一の進学校である県立M高校の通学路に幽霊が現れると通報があり、私達G県警霊感課が出動した。
現場に行くと、女性の霊がいたが、どうやら霊界から何者かに呼び寄せられて彷徨っていただけのようだった。
私は、彼氏の江原耕司君と共にその霊を霊界に送ってあげた。
江原ッチの妹さんの靖子ちゃんとその彼である同級生の力丸卓司君の二人がM高校に聞き込みに行き、何かを掴んだらしい。
私達はM高校まで大型パトカーで戻った。
校門の前で靖子ちゃん達を待っていると、親友の近藤明菜とその彼の美輪幸治君が戻って来た。
「妙なんだよね。目撃者は大勢いるんだけど、幽霊の姿が一致しないんだよ」
美輪君は目撃者に書いてもらった似顔絵を見せてくれた。
確かにバラバラだ。ある人はお爺さんの幽霊を書き、ある人は幼い女の子の霊を書いている。
怒っているような幽霊もいれば、泣いている霊もいた。
「共通点がないのよね」
明菜も腕組みをし、不満そうに呟いた。しかし、私と江原ッチには共通点が見えていた。
「目撃者って、全員M高校の生徒じゃないか、美輪?」
江原ッチの指摘に美輪君と明菜はビクッとした。
「そ、そうだけど」
美輪君は明菜と顔を見合わせてから江原ッチを見た。
「やっぱりね。目的はM高校の生徒って事ね」
私は確信を持った。やはり、何者かが意図的に霊を呼び寄せ、特定の人間だけを狙っていると。
「お待たせしました」
そこへ靖子ちゃんとリッキーが戻って来た。
「靖子、何がわかったのか、教えてくれ」
江原ッチが靖子ちゃんに言った。靖子ちゃんは大きく頷いて、
「校長先生ははっきり言ってくれなかったんだけど、幽霊を目撃しているのは特Aクラスの生徒がほとんどらしいわ」
「特Aクラス?」
私はキョトンとした。すると江原ッチが、
「入学当初から、東大とか京大とかを志望校として考えている成績が上位三十人から構成されている特別なクラスの事だよ、まどかりん」
「そうなんですか」
すかさず唱えるお題目。江原ッチと明菜は言うに及ばず、靖子ちゃんの視線まで痛い。でも、負けないんだから。
「目撃した生徒さん達のほとんどが、授業に集中できなくなり、成績が落ちてしまったらしいの」
靖子ちゃんはリッキーに差し出されたコロッケを断わりながら言った。
なるほど。目的は成績の悪化か。一体誰がそんな事を企んだのかしら?
「この学校の関係者にサヨカ会に関わっている人がいないか探ってみたけど、該当するような気は感じ取れなかったわ。リッキーの布袋様の力と私の弁天様の力を使っても見つからなかったから、間違いないと思うの」
靖子ちゃんのあまりに完璧な答えに私は一抹の不安を隠し切れなくなりそうだった。
ところで、一抹の不安て、お薬なの?
「特Aクラスに入れなかった奴の逆恨みの犯行の線は消えたのか」
江原ッチはいつになく真面目な顔で言う。と思ったら、リッキーのお姉さんのあずささんが見ていたのだ。
全く! 仕事が終わったら、お説教ね。
「学校関係者にはいないという事は、M高校に現在はいない人達も全て含んで、という事よね、靖子ちゃん?」
肝心な事なので確認してみた。すると靖子ちゃんは微笑んで、
「もちろんです。学校全体に微かに残る気と、各教室にある机や椅子に染み付いている残留思念も全部調べましたから、間違いないです」
うおお! 更に予想を超えた完璧な答えだ。更に焦ってしまうまどかである。
「という事は、ますます連中の可能性が高くなって来たね、まどかりん」
江原ッチは私がムッとしているのに気づいたのか、苦笑いをしながら言う。
「ええ、そうね。だけど、もし連中が関わっているのだとしたら、何が目的かしら? 特Aクラスの生徒の成績を下げて、どうしようというの?」
私は疑問をぶつけてみた。江原ッチは顔を引きつらせた。答えは用意していないらしい。
「靖子ちゃんはどう思う?」
すると靖子ちゃんは、
「確かに動機が不明ですね。何のためにそんな事をするのか。とにかく、彼等に繋がるような気を全く感じられないのですから、彼等が関わっているのかも実証できませんが」
ここにいる誰よりも大人びた言葉遣いで応じてくれた。更に危機感が増すまどかである。
「結局どういう事なんだ、まどか?」
痺れを切らせたのか、霊感課の課長である我が兄の慶一郎が口を挟んだ。
「あ、お兄ちゃんの後ろに!」
「ひいい!」
話の邪魔なので、驚かせてまた固まらせた。江原ッチ達は唖然としていたが、私は構わずに続けた。
「サヨカ会はボランティアの団体じゃないわ。メリットがなければ、動いたりしないはず。何か私達が知らない事がはずよ」
私は江原ッチと靖子ちゃんを見た。
「メリットがあるとすれば、特Aクラスに入れなかった人達ね。上位の成績の人達がランクを落とせば、確か入れ替わるシステムのはずよ」
明菜が言った。私はハッとして明菜を見た。
「確かにその線は可能性としてはあります。でも、M高校には霊能者はいませんでした。特Aクラスに入りたくて仕組んだ事だとしたら、外部に協力者がいると思われます」
靖子ちゃんのその言葉に私は更にハッとした。ある噂を思い出したのだ。
「ねえ、江原ッチ、確か、生徒会長の上田博行さんて、M高校を受験しようとしたけど、進路指導の先生と担任の先生に止められて、仕方なく第一高校に替えたって話だったわよね?」
江原ッチは兄貴を気遣うあずささんに見とれていたらしく、ビクッとして私を見た。バカめ!
「あ、ああ、そんな噂を聞いた事があるね」
顔を引きつらせて応じる江原ッチ。すると靖子ちゃんが、
「この人ですか?」
持っていたデジカメに念写をして見せてくれた。そこに写っていたのは、紛れもなく上田さんだった。
黒縁眼鏡をかけた知的なイケメンで、生徒会長を務める人望もある人だ。
「ああ、その人だよ、靖子。何か感じるのか?」
江原ッチが眉をひそめて尋ねる。靖子ちゃんは大きく頷いて、
「その人の想念が、この学校全体を取り巻いているんです」
「何ですって?」
私と江原ッチばかりではなく、美輪君も明菜もあずささんも驚いていた。
コロッケに夢中のリッキーと固まっている兄貴だけは無反応だったが。
上田さん。やはり、あの人が私と江原ッチの異常人気を作り出した影の主役だったの?
思わぬ展開に胸が高鳴るまどかだった。
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