受験生は大変なのよ!(前編)

 私は箕輪まどか。高校一年の美少女霊能者だ。


 もう美少女には抵抗はない。そろそろ美人霊能者が似合うお年頃だとは思っている。


 え? その前にその扁平胸を何とかしろですって? う、うるさいわね! セクハラで訴えるわよ!


 先日は、奇怪な事件に遭遇したと思ったのだが、実はシャイな男子と女子のウブな恋だったという何とも微笑ましいオチだったので、ホッとした。


 事件の背後にあのサヨカ会の残党が関与しているのではないかと危惧したからだ。


 ところで、危惧って取り扱い注意なの?


 


 そして今日は、我が父が言うところの「寝て曜日」。言ってるこっちが恥ずかしいのだが、仕方がない。


 父は世代的に駄洒落好きなのだ。もうすぐ父の日だから「肩叩き券」くらいあげようと思う心優しいまどかである。


 え? 幼稚園児の発想だな、ですって? 幼稚園児をバカにしないでよ。違うの?


 おっと、閑話休題。


 今日はお休みなのにG県警霊感課の仕事。


 学校がお休みの日にしか活動できないと言うのが正しい表現だろう。


 もう一度ところでなんだけど、閑話休題って、どこで売ってるの?


「県下で一番の進学校である県立M高校の通学路に幽霊が出ると通報があった。M高校とも連絡を取って、本日現場に行く事になっている」


 霊感課の課長である我が兄慶一郎がキリリとした顔で言う。


 何故なら、本部長が視察に来ているからだ。しかも、県会議員の皆さんを伴って。


 どうやら、監査らしい。


 霊感課が県の予算に見合った活動をしているのか、見に来ているのだ。


 兄貴も緊張しているのだ。いつまで保つのか、少しだけ妹として心配だ。


「美輪君と近藤さんは付近の聞き込み、江原君とまどかは現場の霊視を頼む」


 兄貴が真顔で言うのを見ていると、どうしても笑いがこみ上げて来てしまう。


「それから、靖子さんと卓司君は高校に行き、校長先生達に聞き込みをしてくれ」


 私達は黙って頷き、活動を開始した。


 兄貴の運転する大型パトカーでまずはM高校に行った。


 そこで肉屋の力丸卓司君と私の彼氏の江原耕司君の妹さんの靖子ちゃんを降ろした。


 次にパトカーは現場へと向かった。


「おお、これは本物らしいね、まどかりん」


 早速江原ッチは目標を捉えたようだ。もちろん私も捕捉している。


 今回は本当に所謂いわゆる幽霊の事件のようだ。しかも、まだ現場まで数百メートルはあるのに、はっきりわかるほど霊威を感じるのだ。


 要するに悪霊の可能性が高いという事だ。


「もしかすると、サヨカ会絡みかもね」


 江原ッチが囁いた。


「そうね」


 私もそう思った。だが、まだ他の人には言わない。


 そうでなくても、親友の近藤明菜は臆病なのだ。


 本当は幽霊事件には関わりたくないのだけれど、彼の美輪幸治君が行く気満々なので、我慢しているのだ。


 明菜らしいと言えばそうなのだが、そこまで無理しなくていいと思う。


 まもなく、車は現場に着いた。


「いるね」


 また江原ッチが話しかけて来た。何故か嬉しそうだ。


「じゃあ、行こうか、アッキーナ」


 美輪君は私達の様子を見ていて察したのか、すぐさま明菜を伴って近所に聞き込みに行ってしまった。


 そこはM高校の生徒がよく利用する路地で、見通しの悪い交差点がある。


 そのためどちらから来た車も一時停止するようになっている。


「どうだ、何かいるか?」


 兄貴は情けない事に同行してくれたリッキーのお姉さんのあずささんの後ろに隠れるようにして訊いて来た。


 兄貴には全く霊感はないのだが、長年私を見て来たので、いるのかいないのかくらいは感じられるようになったらしい。


「いますよ」


 江原ッチがニコッとして兄貴に言った。そう思ったのだが、どうやら視線の先にいるのはあずささんらしい。


 後でお説教ね。


「ひっ!」


 思わず兄貴があずささんの背中にしがみつく。


「慶君、しっかりして」


 あずささんも満更ではない顔で言った。嬉しいのか? 恋人の朽木孝太郎さんに言いつけますよ。


 その路地の角にはかなり規模の大きい墓地がある。数百基は墓石があるだろう。


 霊感のない人には心霊スポットだと思われがちだが、墓地に霊がいるケースは珍しいのだ。


 何故なら、人間は多くの場合、墓地以外で亡くなるからだ。簡単な話なのである。


「ひいい!」


 墓地の周囲にあるブロック塀の上を黒猫が歩いているのを見て、兄貴がまた悲鳴をあげた。


 恥ずかしいから帰って欲しいと思ったのだが、パトカーを運転できるのは兄貴だけだから、そういう訳にはいかない。


「おかしいね、まどかりん、いなくなったよ」


 江原ッチが辺りを見渡しながら言った。


「え? そうなの?」


 ホッとした顔で兄貴が言うと、その兄貴の後ろにそいつはいた。


 白い着物を着た若い女性。青白い顔をして、酷く痩せこけている。


 霊威から察するに、悪霊化しかけてはいるが、まだこちらの説得を聞きそうな雰囲気はある。


「ねえ、貴女はどうしてここにいるの? ここで亡くなった訳ではないわよね?」


 私がいきなり自分の背後に話しかけたので、兄貴はそのまま固まってしまった。ホント、情けない。


『貴女は私が見えるの?』


 女性の霊はまだ理性を保っているようだ。悪霊化する前で良かった。


「ええ、見えるわ。教えてください」


 私は固まった兄貴を江原ッチに片づけてもらって、女性の霊に話しかける。


『教えたいんだけど、私自身、どうしてここにいるのかわからないの。私は死んで、霊界に行ったはずなのに』


「え?」


 その言葉は衝撃的だった。私は思わず江原ッチを見た。


「まどかりん、その人の出している霊威はパトカーの中で感じたのとレベルが違うよ。おかしいよ」


 江原ッチが言った。私もそれには同意する。でも、一体どういう事なのだろうか? 


 さっき、一瞬だけど、霊威が消えたのと関係あるのだろうか?


「じゃあ、この世には何のしがらみもありませんね。あちらに帰るお手伝いをしますね」


 私と江原ッチは観音菩薩の真言を唱えて、その女性の霊を天へと帰した。


 これは一体どういう事だろう?


「霊はいなくなったのか、まどか?」


 ようやく解凍された兄貴が戻って来た。


「ええ。でも、まだ完全解決じゃないわ、お兄ちゃん」


 その言葉に兄貴はまた顔を引きつらせた。


「靖子が何か掴んだらしいよ、まどかりん」


 江原ッチが教えてくれた。高校での聞き込みでわかった事があるようだ。


 この事件にはやはり裏がある。


 いよいよ霊感推理っぽくなったと思うまどかだった。

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