決戦! 江原邸なのよ!
私は箕輪まどか。中学三年の霊能者だ。
復活の会と言う邪教集団が現世と霊界の破壊を画策しているという情報を得た私達は、七福神の力を得るため、初詣から帰ったその足で、G県各地にあるお寺を巡り、七福神の力を手に入れた。
まずはS仁田町のR山寺では、布袋様の力を手に入れた。
布袋様の力はその風貌とよく似たクラスメートの力丸卓司君に宿った。
そして、その次は、S村のR澤寺の毘沙門天の力を手に入れた。
その力を宿したのは、親友の近藤明菜の彼の美輪幸治君。
腕っ節が強い彼にはお似合いの力だ。
そして、その次のY町のT松寺の寿老人。
その力は私に彼の江原耕司君が宿した。
更にその次のS川市のA城町にあるK禅寺の弁財天の力は、私と明菜の醜い争いを嘲笑うかのように、江原ッチの妹さんの靖子ちゃんに宿った。
欲望剥き出しは良くないと悟った瞬間だった。
そして、その次はM市のH士見町のS瑚寺の恵比寿様。
その力は、最近友達になった一年生の坂野義男君が手に入れた。
次のM市のH之下町のS圓寺には、地味目の神様である福禄寿の力があったが、意外にもその力の根源が幸福、すなわち血のつながった実の子に恵まれる事、封禄、すなわち財産、健康を伴う長寿の三徳だと知った明菜が素早く動き、手に入れた。
最期に残ったのは、O田市のZ宗寺の大黒天。
私が唱えられる真言の中で最強なのが大黒天真言なので、ある意味運命を感じた。
こうして、七福神の力を全て手に入れた私達の前に復活の会の宗主である神田原明鈴が現れた。
戦いになるかと思われたが、
「そんな紛い物の神の力が如何ほどのものか、知れているさ!」
明鈴は七福神の力を見下して姿を消した。
明鈴の娘でありながら、彼女と敵対する立場の明蘭さんは、
「母のハッタリです。さあ、菜摘先生の所に帰りましょう」
そう言って、私達を励ましてくれた。
明蘭さんの運転するミニバンはK関東道を西へと走り、たちまちM市まで戻った。
明鈴の狙いは江原ッチの邸のはず。
私達は急いで江原邸に向かった。
「お帰りなさい。早かったわね」
江原ッチのお母さんの菜摘さんが出迎えてくれた。
「実はさ」
江原ッチが明鈴の事を菜摘さんに話すと、菜摘さんは真剣な表情になり、
「なるほど。思い上がった考え方ね。その方がこちらとしてはやり易いからいいかも知れないわ」
私は思わず明菜と顔を見合わせてしまった。
「でも、七福神の力って、本当にそんなに強いんですか?」
明菜が不安そうな顔で菜摘さんに尋ねた。坂野君も心配そうに耳を傾けている。
「何故そう思うの?」
菜摘さんは微笑んで尋ね返した。明菜はその言葉にビクッとした。
「何故って、あのオバさんが言ってたから……」
菜摘さんは明菜に近づいて彼女の肩にそっと右手を置いた。
「心配しなくて大丈夫よ、明菜さん。私を信じて」
そう言われてしまうと、明菜には頷く事しかできない。私もそうだ。
七福神は確かにいろいろな国の神様が集まったものだ。
その力を結集すると言ってもピンと来ない。
江原ッチが言っていたように「寄せ集めの神様だから、ご利益なんかない」という考えもあるようだ。
私はそうは思いたくはないんだけど……。
するとそんな私達の動揺を見透かすかのように笑い声が聞こえた。
「母上ですか!?」
いつもはおっとりとした声と仕草の明蘭さんが目を吊り上げて辺りを見回した。
「そうだよ、裏切り者」
明鈴は前回と同じく、屋根の上に現れた。江原ッチと美輪君とリッキーがどよめいた。
全く、三バカトリオめ! 後でトリプルお説教よ!
「相変わらず、年相応の服装ができないのね、貴女は」
菜摘さんがキッとして明鈴を睨みつけた。
あの明鈴のアジトでの戦いの続きが始まったような気がした。
「私はあんたと違って若いんだよ、江原菜摘。オバさんは引っ込んでな」
明鈴が命知らずな事を言ってのけた。
「年上の貴女にオバさん呼ばわりはされたくないわ!」
菜摘さんの身体から闘気が噴き出すのがはっきり見て取れた。
多分、世紀末霸王も逃げ出すくらいのレベルだ。
「うるさいんだよ!」
明鈴は屋根から飛び降りて来た。そして、二人の壮絶な戦いがいきなり開始された。
「うへ!」
格闘系の美輪君がビビるくらいそれは凄まじかった。
何しろ二人の姿が全く見えないのだ。固まりそうになった。
「凄い、母さん……」
江原ッチですら息を呑んでいる。坂野君と明菜は唖然とし、リッキーは手にしたコロッケを食べるのを忘れるほどだった。
「江原ッチ、菜摘さんを援護するわよ」
私は我に返って江原ッチに言った。
「お、おう!」
私と江原ッチは印を結び、真言を唱えた。
「オンマリシエイソワカ」
浄化真言の摩利支天真言だ。明鈴は黒魔術を使っているので、これが有効だと考えた。
「ぐわああ!」
風よりも速く動いていた明鈴が絶叫して転げ回った。どういう事?
「な、何だ、今のは……? お前達の仕業なのか!?」
明鈴は苦痛に顔を歪めながらも怒りの目を私と江原ッチに向けて来た。
明鈴も驚いたのだろうが、私と江原ッチも驚いていた。
明鈴が転げ回るほど効果があるとは思わなかったからだ。
「おのれ、この私をよくも地べたに這いずらせてくれたな!」
明鈴は立ち上がると何かの呪文を唱え始めた。
彼女の身体から黒い煙のようなものが漂い始めた。
「あれは何だ?」
江原ッチが眉をひそめた。私は警戒して
どういう事?
「腐れ落ちろ、小便臭いガキめ!」
明鈴は口汚い言葉を吐き、その煙を私と江原ッチに向けて放った。煙はカラスのような形状になり、襲いかかって来た。
「もう一度摩利支天真言よ、まどかさん、耕司」
菜摘さんが笑顔で言った。私と江原ッチは印を結んで、
「オンマリシエイソワカ」
再び摩利支天真言を唱えた。
「そんなものが効くか!」
明鈴が高笑いをした。ところが、煙は摩利支天真言に消し飛ばされ、もう一度明鈴に当たった。
「ぐはああ!」
明鈴は跳ね飛ばされ、邸の門まで飛んでぶつかった。
「どういう事だ……?」
明鈴はずり落ちながら呟いた。すると菜摘さんが、
「それが貴女が見下した七福神の力よ」
その言葉に私と江原ッチも驚いた。
「何だと!?」
明鈴はもっと驚いている。信じられないという顔だ。
菜摘さんは明鈴を見て、
「確かに七福神は寄せ集めの神様かも知れない。でもね、その力は絶大なのよ」
明鈴はそれを身を以て経験したので悔しそうに歯を食いしばっている。
「七福神の力は祈りの力。祈りを捧げた人達の力が集まってできているの。貴女が考えているような力ではないのよ、明鈴」
菜摘さんは私達を見渡した。そして、
「神様の力は、信じる力。信じる人の力が発現するの。そして、この子達に宿った七福神の力は日本中の七福神の力を集結しつつあるわ。覚悟しなさい!」
菜摘さんは明鈴を指差し、ビシッと決めた。
いよいよ最終決戦だと思うまどかだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます