女と女の戦いなのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者。


 今、私達は、復活の会という邪教集団の宗主である神田原明鈴と戦っている。


 私達がG県を駆けずり回って身に着けた七福神の力は、想像以上だった。


 明鈴を吹き飛ばし、彼女の放った黒魔術の魔物すら寄せつけないほどの力を真言に与えてくれた。


 寄せ集めとか悪口言われているけど、決してそんな事はなかったのだ。


「神様の力は、信じる力。信じる人の力が発現するの。そして、この子達に宿った七福神の力は日本中の七福神の力を集結しつつあるわ。覚悟しなさい!」


 私の彼氏の江原ッチのお母さんであり、将来私のお姑さんになる菜摘さんがビシッと決めてくれた。


「おのれ、小癪な……」


 明鈴は歯が折れてしまうのではないかというくらい悔しそうにしている。


「貴方が黒魔術をどこまで修得しているのかは知らないけど、もう勝敗は見えたわ。観念しなさい」


 菜摘さんは明鈴に近づきながら言った。


「菜摘先生、危険です。母はまだ本気を出していません!」


 明鈴の娘でありながら、その考えに反対し、私達の味方になってくれた明蘭さんが叫んだ。


「おお!」


 親友の近藤明菜の彼氏の美輪幸治君と江原ッチが嬉しそうに叫ぶ。


 肉屋の御曹司の力丸卓司君は彼女である江原ッチの妹さんの靖子ちゃんが怖いのか、俯いていた。


 全く、男って奴は!


「明蘭の言う事が正しいぞ、江原菜摘!」


 明鈴はニヤリとして菜摘さんを睨んだ。しかし、菜摘さんは怯まない。


「貴女の力がどれほどであろうと、ここで戦う限り、勝ち目はないわよ、明鈴」


 菜摘さんも負けず睨み返している。怖い。


「何!?」


 明鈴はハッとして周囲を見回した。江原邸の庭には、二羽にわとりがいる、ではなくて、私達を取り囲むように七福神の像が建っていた。


「この七福神像は、かつて貴女の祖父である神田原明丞が私の師匠である名倉英賢と戦った時、その力を封じるために造られたもの。その時集められた力はまだそれぞれの中に蓄えられたままよ」


 菜摘さんは七福神像を見渡しながら言う。


「凄いわ。私達が授かったものの数倍の力が宿っている」


 靖子ちゃんはその感応力を駆使して感じ取ったらしく、目を見開いて呟いた。


「なるほど、我が祖父明丞には通じたであろう。だが、この私を、神田原明鈴を舐めるでないわ!」


 明鈴は仁王立ちになると天を仰ぐようにして両手を高く掲げた。


「来ます、先生、備えてください!」


 明蘭さんが私達を庇うように立ち、菜摘さんに呼びかけた。菜摘さんは明蘭さんを見て、


「承知しています。心配しないで」


 余裕の表情だ。私は一瞬不安になったが、菜摘さんの顔を見てホッとした。


「エロイムエッサイム、我が神よ、我に御力みちからを授けたまえ!」


 明鈴はどこかで聞いた事がありそうでないような呪文を唱えた。


 すると明鈴の両手のほんの少し上に黒い渦ができ、激しく回り始めた。


「魔界とこの世を繋ごうとしています。離れて」


 明蘭さんが私達をグイと押した。江原ッチと美輪君は明蘭さんに押されてニヤついている。


 私は明菜と目配せして、二人の二の腕を思い切り抓った。


「七福神の力がどんなに大きくなろうと、我が神の前では無力だと知れ!」


 明鈴の顔が凶悪になった。さっきまでその巨乳にヘラヘラしていた江原ッチと美輪君はその顔を見てギョッとしたようだ。


「人でなくなってしまうわよ、明鈴!」


 菜摘さんが怒鳴ったが、明鈴はそれをあざけるように笑った。


「私は人間などという下等な生き物でいるつもりはない。ワンステージ上の存在になるんだよ」


 明鈴の顔はワンステージ上というより、ツーステージ下という感じだ。


 魔物以外の何者でもない。ふと明蘭さんを見ると、悲しそうに自分の母親の変わり果てた姿を見ていた。


「ならば、私は貴女を滅します、明鈴」


 菜摘さんはチラッと明蘭さんを見てから明鈴を見た。明蘭さんは黙って頷いた。


 滅するって、殺しちゃうって事?


「いえ、違います。母を封じるのです。曽祖父と同じように」


 明蘭さんは涙を堪えて教えてくれた。


「力を貸して、まどかさん、耕司、靖子!」


 菜摘さんは気を高めながら私達に叫んだ。


「はい!」


 私と江原ッチと靖子ちゃんは大声で応じた。


 明菜と美輪君とリッキーと坂野義男君は頷き合って手を繋ぎ、目を閉じた。


 私達に七福神の力を送るつもりのようだ。誰が言った訳でもなく、皆が自分の役割をきちんと理解していた。


「おう、そうだよ。あんたらが全員まとめてかかって来ないと、一瞬で勝負はついちゃうからね。それでいい。全員一気にかかって来な!」


 明鈴は目を血走らせ、歯を剥き出しにして雄叫びを上げるかのように言い放った。


 彼女の身体を黒い霧状のものが包み始めた。


「妖気です。母はすでに人である事を放棄しました」


 明蘭さんは涙を拭って言った。母親を封じる決心が着いたのだ。


「む?」


 菜摘さんの表情が変わった。靖子ちゃんの気の流れもそれに呼応するように乱れ始めた。


「どうしたんだ、靖子?」


 江原ッチが尋ねた。靖子ちゃんは明鈴を見て、


「今あの人に何かが降りて来たわ。ここは強力な結界が張られているのにそれをものともしないような強烈な何かが……」


 声が震えている。靖子ちゃんは顔色も悪い。私と江原ッチは何も感じられないのをもどかしく思っていた。


「何てものを降ろしたの、貴女は!?」


 菜摘さんの声は悲鳴のように凄まじかった。対する明鈴は余裕の表情になっている。


「気づいたようだな? さすがだ。だが、気づいたところでお前達に勝ち目はないぞ」


 その時ようやく、私と江原ッチは明鈴に何が降りて来たのかわかった。


「悪魔?」


 江原ッチは顔中に汗を噴き出して呟いた。私も身体の震えを止められなかった。


 


 人生最大のピンチのまどかだった。

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