復活の会の罠なのよ!
私は箕輪まどか。中学二年の霊能者。もうすぐ三年になる。
受験地獄が始まるのだ。どうしよう?
などと
あの恐るべき邪教集団である復活の会がG県警刑事部霊感課を潰そうと画策しているのだ。
県議会議員の荒船善次郎氏を抱き込んだ復活の会は、霊感課を廃止する条例案を議会に提出させるつもりらしい。
荒船氏は議会に顔が利く古株だ。
対立候補だった朽木泰蔵氏を破り、返り咲き当選を果たした荒船氏の鼻息は荒い。
しかし、その荒船氏でさえ、用済みになれば切り捨てるのが復活の会。
荒船氏はその事に気づいていない。
ある日の放課後。
私は霊感課仲間の綾小路さやか、そして私の彼氏の江原耕司君と待ち合わせし、コンビニで対策会議を開く事にした。
「私もマッキーを呼んでいい?」
コンビニに着くと、さやかがそう言って来た。
私と江原ッチのラブラブぶりに触発されたのだ。
ところで、触発って何?
「いいよ。呼べば」
私は江原ッチと顔を見合わせてから応じた。
「ありがとう、どかりん」
さやかが言った。
「何よ、それ?」
私はキョトンとして尋ねた。するとさやかはニヤッとして、
「まどかだから、まどかりん。でもそれだと江原君と同じになっちゃうから、どかりんにしたの」
「語感が悪いからやめてよ」
ムッとして抗議すると、
「じゃあ、サーヤもやめてよね」
さやかは口を尖らせて言い返して来た。
「わかったわよ」
折角可愛い呼び方を考えたのになあ。でも、「どかりん」て呼ばれるのは嫌だから応じるしかない。
肩を震わせて笑いを堪えている江原ッチを一睨みしてから、私はレジでコーヒーを注文した。
「あ、俺も」
江原ッチも慌ててレジに並び、注文をしようとした。その時、江原ッチの前に立っていた女子高生が、
「きゃっ!」
と叫んだ。
「え?」
私とさやかは嫌な気が漂ったのを感じ、その女子高生を見た。
「まずいわ、まどか、あの女子高生、復活の会のメンバーよ」
さやかが囁いた。私も頷いて、
「そうみたいね。でも、何かしら?」
女子高生が復活の会のメンバーだという事はその人の発する気でわかった。でも何をするつもりなのかはわからない。
「ちょっと、君、今私のお尻触ったでしょ?」
女子高生は目を吊り上げて江原ッチを睨んだ。
「え? 触ってませんけど」
江原ッチはキョトンとした顔で応じる。
しまった!
私はさやかと顔を見合わせた。
「嘘吐かないでよ。触ったわよ。私の後ろにいるの、君だけでしょ! 他に誰が触るって言うのよ!?」
女子高生の剣幕が凄くなったので、江原ッチはびっくりして私に救いを求めるように目を向けた。
江原ッチが触っていないのははっきりしている。しかし、江原ッチは完全に罠に嵌められてしまったのだ。
「私見てましたよ。確かにその子が貴女のお尻を撫でるのを」
奥から現れた品の良さそうなお婆さんが言った。
江原ッチはギョッとしてお婆さんを見た。
「私も見ました。君、もう言い逃れはできないよ」
入口から入って来たオジさんが口を挟んだ。絶対見ていないと思うけど、この場では通用しない。
「このコンビニ、復活の会の気で満たされてるわ。全員が敵だわ」
さやかが呟いた。
「もう観念しなさい」
更に奥からお爺さんが杖を突いて現れた。
たちまち江原ッチは復活の会に操られた人々に取り囲まれてしまった。
「まどかりん!」
江原ッチは泣きそうだった。
「どうしよう、さやか?」
私も動揺してしまって、いつもの機転が利かない。
「あんた、機転が利いた事あったっけ?」
さやかがこんな時に冷静な突込みをして来る。
「さやか!」
「冗談よ。摩利支天の真言で吹き飛ばしましょう」
さやかは苦笑いして言った。私達は印を結び、
「オンマリシエイソワカ」
と唱えた。
「ギャッ!」
真言がコンビニ全体に広がり、操られていた人達が倒れた。
「江原ッチ、出るわよ」
私は呆然としている江原ッチの手を取り、コンビニを脱出した。
しばらく走って、公園のベンチで休憩。
「何だったんだ、あれ? 全然気づかなかったよ」
江原ッチはゼイゼイ息をしながら言う。私もだ。
女子高生が江原ッチに絡むまで、復活の会の気を感じなかった。
「椿先生に連絡しよう」
嬉しそうに携帯を取り出そうとする江原ッチの脇をつねり、私はさやかを見た。
「今までと全然違う感じがしたんだけど、さやかはどう思う?」
「私もそう感じた。復活の会の幹部だった神田原兄弟はもう力を失っているはずだから、別の幹部が動いているという事ね」
さやかは腕組みをして真顔で言った。
「思い当たる人物はいないの?」
さやかのお父さんはかつて復活の会で強制的に働かされていたのだ。
「わからないわ。私が知っているのは、明徹と明正の兄弟だけよ」
さやかは残念そうに教えてくれた。
「そうかあ」
私もがっかりした。すると江原ッチが脇を摩りながら、
「だから、椿先生に訊いてみようよ」
仕方ない。そうするしかないか。
「では江原耕司君、お帰りください」
「えええ!?」
私の無情な一言に江原ッチはまた泣きそうになった。
椿先生に連絡をして事情を説明するとまだ学校にいるからと言われ、私達は私の通う中学校に向かった。
校門の前まで行くと、椿先生が紙を握り締めて走って来た。
しかもかなり慌てているようだ。
「どうしたんですか、椿先生?」
私が変に思って尋ねると、椿先生は手に持っていた紙を私に差し出した。
「やられたわ。復活の会の二重の罠にね」
私は差し出された紙を見た。それは何かの画像だった。
「G新聞の明日の朝刊の一面よ。記事を読んで」
椿先生は息を整えながら告げた。私と江原ッチとさやかはその記事に目を通した。
そして、驚愕した。
その記事の見出しは、
「G県警刑事部霊感課の補助をしている中学生の乱行」
と題され、私とさやかが真言を唱えて復活の会に操られていた人達を倒している写真が載っていた。
当然の事ながら、私とさやかの顔は黒い線が入っていて、個人の識別はつかない。
ただ、この撮られ方だと私達が悪い事をしているように見えてしまう。
G新聞はその背後に荒船氏がいるという噂を聞いた事がある。
大人の事情が激しく絡み合っているようだ。
「私達の対応次第では、これを掲載するって言って来たようよ」
椿先生は苦々しそうに言った。
「そんな……」
私とさやかと江原ッチは唖然としてしまった。
何て事だ。罠に嵌められたのは、私達三人だったのだ。
人生始まって以来のピンチだと思うまどかだった。
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