G県警刑事部霊感課最大のピンチなのよ!
私は箕輪まどか。中学二年の霊能者だ。
この前、G県議会議員選挙の時、危険な霊能集団である復活の会が暗躍しているのを追いつめたG県警刑事部霊感課は、あと一歩のところで手を引かざるを得なくなってしまった。
復活の会のせいで受験生の息子さんをノイローゼ寸前にまで追い込まれた議員候補の朽木泰蔵氏の要請を受けて、その黒幕である荒船善次郎氏の企みを見抜き、復活の会のメンバーの霊体が憑依しているご遺体を発見した。
そして、見事事件を解決したかに見えたのだが、後日思ってもみない反撃を荒船氏側から受けた。
特定の選挙の候補者に警察が加担していいのかと指摘されたのだ。
そのせいで私達は手を引き、せっかく捕縛したメンバーの霊体も解放した。
「今回は私達の作戦負けですね。次はこうならないように対策を考えましょう」
霊感課の中心人物であり、私のクラスの副担任でもある椿直美先生は言った。
恐ろしい事に、それからしばらくして行われた投票で朽木氏は落選し、荒船氏が当選してしまったらしい。
選挙権がない私にしてみると、どうしようもない悔しさが込み上げて来る結果だった。
そして、今日、私と私の彼の江原耕司君と霊感親友の綾小路さやかは、放課後G県警に呼ばれた。
県警本部の霊感課がある地下室に行くと、エロ兄貴の慶一郎とその恋人の里見まゆ子さん、椿先生がいた。
三人共沈痛な面持ちで私達を出迎えてくれた。
ところで、沈痛ってどんな感じ?
「椿先生」
江原ッチは久しぶりに顔を合わせた椿先生に駆け寄るとその手を取った。
あまりの素早さに、私は何もできなかった。
「何があったんですか?」
江原ッチは至って真面目な顔で尋ねる。
「江原耕司君、後でゆっくりお話ししましょう」
私は江原ッチの背後に立って囁いた。
「ひいい!」
江原ッチはビクッとした。
「荒船議員が霊感課の廃止条例案を議会に提出したらしい」
兄貴がムスッとした顔で言った。
「ええ?」
私とさやかは異口同音に叫んだ。
「そんな、酷い」
江原ッチは尚も椿先生の手を握って言う。
「インダラヤソワカ」
一度警告したのにやめない場合は、制裁を加えるのが私の流儀だ。
「ぐげげ……」
江原ッチに微弱な雷撃を見舞った。江原ッチは痙攣して床に倒れた。
「復活の会が本格的に動き出したようです。私達と正面切っての戦いをせず、
椿先生はすがりつこうとする江原ッチを無視して、私とさやかを見た。
それで、搦め手って何?
「私達が注意していない方面の事よ」
またさやかが私の心を読んで言った。
さやかって結構頭がいいのよね。だから好き。
「やめてよ」
さやかは顔を赤らめた。可愛いんだから。
「もう!」
さやかは誉められるのが苦手なのだ。
「それで、霊感課はなくなっちゃうの?」
私は心配になって兄貴に尋ねた。すると兄貴はいつになく真剣な表情で、
「荒船氏は議会工作を着々と進行させているらしい。このままだと、間違いなく霊感課は消滅する」
事態の重大さに危機感を抱いているのかと思ったが、椿先生がいるからカッコつけてるだけのようだ。
隣に立っているまゆ子さんは白い目で兄貴を見ていた。
「そうなる前に荒船氏と復活の会の繋がりを断ち切ります」
椿先生は凛々しい顔で言った。江原ッチが復活してデレッとしている。
兄貴もデレッとしかけたが、まゆ子さんの闘気を感じて我慢したようだ。
「それは霊感課のためだけでなく、荒船氏自身のためでもあります。復活の会は利用価値がなくなった人には容赦がありませんから」
椿先生の言葉に私達はゾッとした。
恐らく、荒船氏はそんな事は夢にも思っていないはずだ。
それこそが復活の会の恐ろしいところなのだ。
「江原先生に協力を仰ぎましょう、椿先生」
兄貴が言った。すると椿先生は、
「江原先生はお忙しいでしょうから、それはできません。私達だけで何とかします」
意外だった。椿先生は江原ッチのお父さんである雅功さんに好意を寄せている。
だから協力をしてもらうと思ったのだ。
「バカね、まどかは。好きな人だからこそ、助けて欲しくないのよ」
さやかが小声で言った。
「そうなんですか」
私はここぞとばかりにお題目を唱えた。これで今日一日も穏やかに過ごせる。
さやかは白い目で私を見た。
椿先生は兄貴とまゆ子さんに議会の様子を調べて欲しいと言った。
私達は復活の会の動きを探る事になり、霊感課の会議は終了した。
「まどかさん、さやかさん」
G県警を出て駐車場に向かう途中で、椿先生に声をかけられた。
「何でしょうか、先生?」
私とさやかは、椿先生がどうして声をかけて来たのか、何となくわかっていた。
「耕司君、ちょっと外してくれますか?」
「え?」
江原ッチは思ってもみない先生の発言にショックを受けたようだったが、椿先生が悲しそうな目で見ているので、
「はい」
江原ッチも悲しそうに応じ、私達から離れた。先生はそれを見届けてから、
「前にも言いましたけど、私は江原先生にはそういう感情はありませんから」
ちょっと頬を赤らめて言い訳する椿先生、何か可愛い。
「はい、わかりました」
私とさやかはクスクス笑いながら応じた。すると先生はプウッとほっぺを膨らませて、
「耕司君、まどかさんとさやかさんは歩いて帰るそうです」
と言い、江原ッチと二人で車に乗ろうとした。
「ああ、ごめんなさい、先生!」
私とさやかは慌てて謝り、先生を追いかけた。
椿先生、本気なんだ。
今度こそ、復活の会をやっつけるつもりだ。
私とさやかも黙って頷き合い、決意を新にした。
今日は何となく嫌な予感に襲われたまどかだった。
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