まゆ子さんは嫉妬深いのよ!PART2

 私は箕輪まどか。中学二年の美少女霊能者だ。決してFMGのアナウンサーではない。


 意味不明だわ、今回のオープニング。


 


 私は、エロ兄貴の慶一郎に頼まれ(樋口さんで丸め込まれたとも言う)、兄貴の恋人の里見まゆ子さんの実家に向かっている。


 兄貴が、小倉冬子さんという高校の同級生に未練を抱いたために起こった騒動にどうして私が巻き込まれるのか。


 どうにも納得がいかないが、一葉さんの魅力には勝てなかったまどかである。


 途中、男の子の霊を霊界に行かせ、あの黒い着物の少女に出会った。


 本当に怖いんだから!


 見えない人にはわからないと思うけど、首筋にナイフを押し当てられて、耳に吐息をかけられたような感覚なのよ。


 え? 怖いのか、気持ちいいのかわからないですって?


 いいわよ、もう!


 


 やがて、私はまゆ子さんの実家の前に来た。


 凄い豪邸だ。


 もしかすると、私が通っている中学校より大きいかも知れない。


 大袈裟じゃないわよ。


 取り敢えず、門にあるインターフォンを押す。


「はい」


 女の人の声が答える。


「あの、箕輪まどかと言います。まゆ子さんはいらっしゃいますか?」


 私はよそ行きの声で尋ねた。


「ああ、まどかちゃん! 入って」


 声の主はまゆ子さんだった。


 門の扉が自動的に動き出す。すごい!


 ウチのお父さんのお給料では、この門すら買えない。


「失礼します」


 私は自転車を押して門をくぐった。


「げ」


 門から家まで相当な距離あるぞ。


 私は自転車に跨り、漕ぎ出した。


 歩いて行くには遠過ぎるのだ。


 兄貴、でかした! 絶対まゆ子さんと結婚してよ!


 つい黒まどかが出てしまう。


 でも、蘭子お姉さんの「裏蘭子」よりは大人しいものよ。


 あ、ごめんなさい、蘭子お姉さん。


 こうなったら、樋口さんは関係ない。


 兄貴とまゆ子さんの関係改善に全力を注ごうと思う。




「いらっしゃい、まどかちゃん」


 まゆ子さんは玄関のドアを開いて出迎えてくれた。


 こんな背の高いドア、東大寺の大仏殿以来よ。


 うん、それは言い過ぎ。ごめん、認めます。


 私はリヴィングルームに通された。


 フカフカの真っ白な革張りのソファに座り、出されたアイスティをストローで一口飲む。


「慶一郎さんに頼まれたんでしょ?」


 向かいに座って私を見るまゆ子さん。


 笑顔だが、闘気が背後に見える。多分、その凄まじさに世紀末覇王も逃げ出すはずだ。


「はい」


 シラを切る自信がないので、あっさり白状した。


「まどかちゃんに頼むなんて、最低だわ」


 まゆ子さんは闘気を引っ込め、悲しそうに言った。


「慶一郎さんとお付き合いを始める時、こんな事は何度もあるって思ったけど、それにしても多過ぎるのよ」


 まゆ子さんは自分のアイスティをストローでかき回しながら独り言のように言う。


「小倉冬子さんでしょ、小松崎瑠希弥さんでしょ、西園寺蘭子さんでしょ、八木麗華さんでしょ、力丸あずささんでしょ……」


 まゆ子さんは総勢二十名を並べ立てた。


 それだけ気が多い兄貴もとんでもないが、全部暗記しているまゆ子さんも怖い。


「ねえ、まどかちゃん、慶一郎さんに悪い霊が憑いているんじゃないの?」


 まゆ子さんは溜息を吐きながら、真剣な表情で訊いて来た。


 私は苦笑いして、


「特に霊は取り憑いていないようですけど」


「じゃあどうしてなの!?」


 まゆ子さんが立ち上がって叫んだ。私は殺されると思った。


「ごめんなさい、大声出して」


 まゆ子さんは赤面してソファに戻る。


「いえ、大丈夫です」


 あれ? そうか、そういう事か。でも、信じてもらえるだろうか?


「兄貴がまゆ子さんを見てくれないのは、まゆ子さんのせいですよ」


「え?」


 まゆ子さんの目が、スナイパーの目になった気がした。凄い殺気だ。


「まゆ子さんが、お兄ちゃんを遠ざける気を出しているんです。それを改善しない限り、お兄ちゃんはまゆ子さんを見てくれませんよ」


 私は死を覚悟して言った。まあ、それは大袈裟だが、それくらい必死の思いだったのは本当だ。


「そんな……。まどかちゃん、慶一郎さんにいくらで頼まれたの? 私、その十倍出すから、本当の事を教えて」


 まゆ子さんは身を乗り出して私に言った。


 十倍? 福沢さんが五人? ああ、いかん、ジャストミートの変態オジさんが頭の中を駆け巡りそうだ。


「いくら出されても、真実はいつも一つです」


 パクリ覚悟で言い切った。まゆ子さんは目を見開き、ドスンとソファにお尻を落とした。


「そんな……」


 まゆ子さんの奇麗な瞳がジワッと湿りを帯びる。


「難しい事ではないんです。お兄ちゃんを大きな愛で包んであげてください。そうすれば、きっとお兄ちゃんはまゆ子さんだけ見るようになりますよ」


 私は笑顔満開で言い添えた。まゆ子さんは赤くなった瞳を私に向ける。


「どうすればいいの?」


 キュンとしてしまうくらい可愛いまゆ子さん。これがまゆ子さんの本当の姿なのだ。


 あの世紀末覇王も逃げ出すような闘気を出すまゆ子さんの姿は、エロ兄貴のせいなのだ。


 まずは、まゆ子さんの強過ぎる嫉妬心を抑え、その上で兄貴を懲らしめる。


 これで万事解決だ。


「お兄ちゃんに『私、信じてるから』と言ってください。それだけで大丈夫です」


「そうなの?」


 まゆ子さんは課題が簡単なのを知って、ホッとしたようだ。笑顔がこぼれた。


「私のお義姉さんには、いつも笑顔でいて欲しいから」


 私はまた笑顔満開で言った。


「まどかちゃん……」


 まゆ子さんは微笑みながら、瞳から数粒の真珠をポロポロと落とした。


 奇麗だ。まゆ子さん、奇麗。


 


 こうして、私はまゆ子さんの嫉妬心を抑えることに成功した。


 問題はあのバカ兄貴だ。どうしてくれよう?


 いろいろ考えながら、家に帰った。

 


 夜になり、兄貴が帰って来た。私は兄貴を呼び止め、まゆ子さんの事を話した。


「そうか。ありがとな、まどか」


 嬉しそうに言う兄貴に私は樋口さんを突き返す。兄貴はキョトンとした。


「返す。まゆ子さんに悪いから。だから、お兄ちゃんもちゃんとまゆ子さんを見て」


 兄貴も真顔になった。そして、樋口さんを受け取り、


「わかった」


 と言うと、自分の部屋に行ってしまった。


 


 カッコつけて樋口さんを返してしまい、心の中で大号泣のまどかだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る