G県警刑事部霊感課始動なのよ!
私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者。
霊感系のお師匠様は、小松崎瑠希弥さん。
え? 相変わらず、「長いものには巻かれる」タイプだな、ですって?
違うわよ。長いものには自分から積極的に巻かれていくタイプなのよ!
ところで、長いものって、何?
G県M市の中学校も夏休み。
いろいろあったけど、それなりに充実した一学期だった。
それより、心配なのは瑠希弥さん。
年内で、西園寺蘭子お姉さんのところに戻ってしまうらしい。
「親父達に頼んでみたんだけど、瑠希弥さんの意志を尊重するって言われた」
私の彼の江原耕司君は寂しそうだ。ちょっとだけムカつく。
「瑠希弥さんも誘ったんだけど、水着持ってないらしいんだよね」
更に残念そうな江原ッチ。私は当社比二百パーセント増しでムカついた。
「今日は、明菜達とダブルプールデートのはずなのに、どうして瑠希弥さんを誘うのよ、江原耕司君?」
私の怒りを感じたのか、江原ッチはビクッとした。
「あ、いや、その、瑠希弥さん、寂しそうだったから。ほっとけなくてさ」
そう言われてしまうと、何も言えなくなる。
小倉冬子さんが北海道に行ってしまって、親しい友人がいない瑠希弥さんは、確かに寂しそうなのだ。
「まあね」
私も何となく悲しくなって同意した。その時だ。
私の携帯の妙な着メロが鳴る。このスチャラカなメロディは……。
「何の用なの、お兄ちゃん!?」
私は携帯に出るなり、怒鳴った。
「仕事だ、まどか」
変に気取った声で兄貴が答えた。
「今日はプールデートなの!」
私はそう言って通話を切ろうとしたが、
「お願いします、まどかさん。来てください」
と瑠希弥さんの声がした。私と江原ッチは思わず顔を見合わせた。
エロ兄貴と瑠希弥さんが一緒なんて、子羊と狼が一緒以上に危険だ。
ってか、兄貴、懲りてないの!? また恋人の里見まゆ子さんを泣かせる気?
「まどかちゃん、私からもお願い」
「へ?」
おおお! まゆ子さんもいる。どういう事だ? 何が起こっているの?
これこそまさしく「呉越同舟」。
ところで、「呉越同舟」って何? え? 訊いてばかりいないで、自分で調べろ?
フンだ!
私は一通り内容を聞き、携帯を切った。
「よし、すぐに行こう、まどかりん」
何故か一緒に行く気満々の江原ッチ。
「残念ね、江原ッチ。今回は、霊感課のお仕事なの」
私の非情な言葉に江原ッチは硬直した。
ごめんね。
そうだ、親友の近藤明菜にも謝っとかないと。
「あ、そう。そうなんだ。残念だなあ」
明菜は全然残念そうでないトーンで応じた。
きっと、美輪幸治君と二人っきりになれるからだろう。
あの二人の場合、明菜の方がずっと積極的だから。
硬直した江原ッチを置き去りにして、私は国道に面したコンビニの前で兄貴達の迎えを待った。
兄貴達は大型の黒塗りのワゴン車で現れた。
何故か、あのちょっとエロい本部長も一緒だ。
「急いでくれ。事は急を要する」
本部長は、私が乗り込んだのを確認すると、運転する刑事さんに言った。
「は!」
刑事さんは敬礼して、サイレンを点灯させた。
おお! これ、初体験だ。え? どうして悶絶してるのよ? 変なの。
ワゴン車は停止した車をすり抜け、やがてG県警本部に到着した。
そして、私達は、本部長の先導で県警本部の地下へとエレベーターで降りて行った。
「何なの、一体?」
私は小声で兄貴に訊いたが、
「俺達も何も聞かされていないんだ。ね、まゆりん?」
「ええ」
兄貴の「まゆりん」発言に、まゆ子さんは真っ赤になっている。
「さあ、ここが君達の新しい部署だよ」
本部長が誇らしそうに言って、目の前の扉を開いた。
そこにはたくさんのパソコンとプリンター、そして何だかわからない機械が並んでいて、机も四つあった。
「箕輪君、今日から君がこの霊感課の課長だ。そして、里見さん、君が課長補佐だ」
本部長の言葉に、兄貴とまゆ子さんは目を見開いて何も言わない。
「それから、小松崎さんとまどかさんが、この課の活動担当だ」
「え?」
私と瑠希弥さんも顔を見合わせた。
本部長の手招きで、私達は部屋の中に入る。
「ここには、最新のコンピュータと最先端の霊感対応システムを導入した。世界中のあらゆる霊現象のデータを瞬時に検索し、解析する」
本部長の説明は続く。
「そして、一番適正な対処法を割り出す。どうかね?」
何だか、嫌な感じ。霊感と電磁波って、相性が悪いはずだけど。
「すばらしいですね」
瑠希弥さんを見ると、目を輝かせている。そうだ。
瑠希弥さん、こう見えて、メカに強いんだよね。
蘭子お姉さんのメカ音痴を補っていたらしいし。
「そうだろう? 霊感課はこれから捜査の要になる。難事件を次々に解決していく。そう信じているのだ」
本部長は自分の言葉に酔いしれている感じだ。
「ですが、私に務まるかどうか……」
瑠希弥さんはメカには興味津々だが、仕事には消極的みたいだ。
「そこを何とか頼みます、小松崎さん、まどかさん!」
本部長はいきなり土下座をした。
その途端、本部長の本心が見えた。
本部長は幼い頃に両親を殺人事件で喪っている。
結局、その事件は迷宮入りした。
それがきっかけで、本部長は警察官を目指した。
しかし、下っ端で終わってしまっては、自分の目指す警察は作れない。
だから、猛勉強した。なるほどね。
最初に会った時とイメージが変わった。
エロオヤジかと思ったんだけど。
「瑠希弥さん」
私は瑠希弥さんを見た。瑠希弥さんは頷き、
「微力ですが、努めさせていただきます」
と言った。本部長は顔を上げて、
「ありがとう、小松崎さん、まどかさん!」
と言いながら、机の上にあったアタッシュケースを開き、
「制服を改良したんだ。着てみてくれたまえ」
私はそれを見て、また考えが変わった。
瑠希弥さん用の制服、今度は襟元が開き過ぎな気がする。
大丈夫なのだろうか、この人の言葉に従って。
まだまだ不安なまどかだった。
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