瑠希弥さんと手合わせしたのよ!

 私は箕輪まどか。中学二年の霊能者だ。ついでに美少女でもある。


 いろいろ仕掛けて来ているけど、私は動じないわよ。


 もうすぐ十四歳なんだからね。


 え? いずれにしてもお子ちゃまだな、ですって? フンだ!


 


 共に戦った仲間であり、友人でもある小倉冬子さんが、幼馴染の濱口わたるさんと結婚した。


 とは言え、籍を入れただけで、結婚式も披露宴もしていない。


 でも、私はそんな二人にすごく共感した。


 イベントばかりに目を奪われて、真実の愛を誓い合ったカップルが、どれほどいるだろうか?


 コホン。ちょっと偉そうだったかな?


 冬子さんとわたるさんは、わたるさんの生まれ故郷である北海道に行くそうだ。


 何かいいなあ、北海道って。


 食べ物はおいしいし、景色は奇麗だし。


 只、冬が寒いのは辛いけど。


 私は寒いのが毛虫の次に嫌いなのだ。


 え? 比べる相手がおかしい? いいでしょ、別に!


 冬子さんとわたるさんは、わたるさんの四駆車で北海道まで行くそうだ。


 私の彼氏の江原耕司君の邸に皆で集まって、二人の送別会を開いた。


「いつでも遊びに来てね」


 冬子さんが涙ぐみながら言うと、私の親友の近藤明菜の彼である美輪幸治君が、


「新婚さんを邪魔するほど、俺達は野暮じゃありませんよ」


と言ったので、冬子さんは顔を赤くした。美輪君はその後で明菜にこってり説教されたらしい。


 江原ッチのお母さんの菜摘さんと小松崎瑠希弥さんの手料理をみんなで頂いた。


 そして、冬子さんとわたるさんは、私達の祝福の言葉の中、出発した。


 私は知らなかったのだが、エロ兄貴が恋人の里見まゆ子さんに内緒でこっそり見送りに来て、泣いていたらしい。


 全く、バカ兄貴め!


 


 それから数日後、私は瑠希弥さんからメールをもらった。


「まどかさんへ 


  明日、お手合わせいただきたく、お願い申し上げます」


 何だかかしこまったメールに、私はギョッとして瑠希弥さんに電話した。


「メールを見てもらえましたか?」


 瑠希弥さんは電話に出るなり言った。


「はい。びっくりしました。どういう事ですか?」


「書いたままです。まどかさんと手合わせしたいんです」


 えええ!? 無理よ、無理無理。


 瑠希弥さんの力は、あの西園寺蘭子お姉さんに迫るものなのよ。


 私と手合わせなんて、レベルが違い過ぎるわ。


「瑠希弥さん、私なんて相手になりませんよ」


 謙遜ではなく、本気でそう思っている。しかし瑠希弥さんは、


「そんな事ないですよ。この前の気の講義で、まどかさんは十分私と同じだけの実力があると確信しました」


「とんでもないです。そうだ、さやかの方が力がありますよ。さやかと手合わせしたらどうですか?」


 私は綾小路さやかに犠牲になってもらおうと思ってそう言った訳ではない。


「そんなに私と手合わせするのが嫌なんですか、まどかさん?」


 瑠希弥さんは悲しそうな声で言う。そんな風に言われると、断わりにくくなる。


「いえ、決してそういう事では……」


「では、決まりですね」


「は?」


 とうとう私は瑠希弥さんと手合わせする事になってしまった。


 


 そして翌日の土曜日。


 私は江原ッチの邸の道場で、Tシャツ短パン姿で瑠希弥さんと向かい合っていた。


 瑠希弥さんも同じ格好だ。


 立会人は、江原ッチのお父さんの雅功さんと菜摘さん。


 そして見届け人は、さやかと明菜。


 江原ッチと美輪君は、道場の外で待機。入場は禁じられた。


「一本勝負です。どちらかが参ったと言うまで、気をぶつけ合って下さい」


 雅功さんが言う。私と瑠希弥さんは黙って頷く。


「では、始め」


 静かに手合わせの幕が切って落とされた。


 瑠希弥さんはジワジワと気を高めて行く。


 私は、長期戦になると不利だと判断し、一気に気を高めた。


「はい!」


 私は瑠希弥さんに高めた気をぶつけた。しかし、瑠希弥さんはそれを軽くいなした。


「はい、はい!」


 瑠希弥さんの小さい気が続けざまに私に向かって来る。


「は!」

 

 私もそれをいなし、次の攻撃を繰り出そうとした。


「わ!」


 すると更に大きな気が迫っていた。


「うお!」


 私はそれを辛うじていなし、また気を練る。


「はーい!」


 瑠希弥さんは私に休む間を与えないつもりか、次の気を放つ。


 それはフワッと浮き上がり、滝のように私に襲いかかって来た。


「はい!」


 私はそれを練った気で受け止め、弾き飛ばす。


「はい!」


 ところが、次の気が足下に迫っていた。


 私はそれをかわす事ができず、倒れてしまう。


「はい!」


 瑠希弥さんは手を抜かない。倒れた私に次の気を打って来た。


「はあ!」


 私は気を使って身体を跳ね上がらせ、攻撃をかわし、反撃に転じる。


「えーい!」


 右手に集中した気を瑠希弥さんに放った。


 そして間髪入れずに次の気を打つ。


 しかし、瑠希弥さんはそれを完全に予測していたようで、簡単にいなされてしまった。


「は!」


 一瞬の気の緩みが勝敗を分ける。


 私は瑠希弥さんの放った気をまともに食らい、板の間に叩きつけられた。


「ま、参った……」


 私はそのまま板の間にのびた。


 雅功さんがすぐに私に癒しの気を当ててくれる。お陰ですぐに回復した。


「さすがです、瑠希弥さん。全然敵いませんでした」


 私は起き上がると、瑠希弥さんに言った。すると瑠希弥さんは微笑んで、


「そんな事ないですよ、まどかさん。私も、ほら」


と腕と脚にできたあざを見せてくれた。


「貴女の気は重いです。ですから、当たると効くんですよ」


「そうなんですか」


 何だか嬉しい。


「いい手合わせでしたよ、二人共」


 雅功さんが褒めてくれた。私は照れ臭くなって頭を掻いた。


「瑠希弥さん、見事でした。そして、まどかさんもよく返していましたね」


 菜摘さんが言った。


「これからも精進して下さい。世の中には、貴女達の助けを待っている人達がたくさんいるのですから」


「はい」


 瑠希弥さんと私は、汗を拭いながら返事をした。


 


 そして、その後一週間、全身筋肉痛で登下校に支障出まくりになるまどかだった。


 トホホ。

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