小倉冬子さんが結婚するのよ!
私は箕輪まどか。中学二年生の霊能者。それなりに美少女である。
だーかーら、突っ込まないって言ってるでしょ!
今日は日曜日。お父さんに言わせると、
「ねてようび」
なのだそうだ。メモメモ。
私も、先日の新潟での戦いと、綾小路さやかと受けた小松崎瑠希弥さんの集中講座が効いて、今日は惰眠を貪っている。
だからといって、某漫画の兄貴の方ではない。
「おい、かまど、冬子さんが来てるぞ」
相変わらず、エロ兄貴は常識がない。
いくら妹とは言え、ノックなしでの来室は固くお断わりしたいのだ。
「何よ、お兄ちゃん! いきなり部屋に入って来ないでよ!」
私は脱ぎかけたTシャツを慌てて着直した。
「心配するな。お前の裸なんか見たくもないから」
よく見ると、兄貴は何故か涙ぐんでいる。
「いいから出てって!」
疑問が残る展開だが、今は叩き出すのが先決だ。
そして、無事可愛い服に着替えた私は階段を駆け下り、玄関に行った。
「今日は、まどかちゃん。ごめんなさいね、お休みの日に」
そこには、「誰?」と訊きたくなるほど奇麗になった小倉冬子さんと、冬子さんの幼馴染の濱口わたるさんが並んで立っていた。
何だろう、一体?
「ここでは何ですから、リビングにどうぞ」
私が言うと、冬子さんはわたるさんと顔を見合わせてから、
「江原先生のところにも行かなくてはならないので、ここでいいわ」
「そうなんですか」
取り敢えず笑顔全開で応じた。
「僕達、結婚する事になったんです」
わたるさんが爽やかな笑顔で言う。エロ兄貴にはない表情だ。
え? 結婚? えええ!?
私は思わず二人をジッと見てしまった。そして、言葉を失った。
「まどかさんとは、僕はほとんど話した事なかったけど、冬子がたくさんお世話になったって聞いたから、是非挨拶にと思って」
「そ、そうでございましたか」
私は顔を引きつらせて言った。
「式は挙げないで、籍だけ入れるので、お世話になった人達に挨拶に回っているんです」
わたるさんは冬子さんと顔を見合わせ、微笑む。
何て爽やかなカップルなのだろう。
「おめでとうございます、お二人共」
私はハッとなって、お辞儀をした。
「ありがとう、まどかちゃん」
冬子さんは照れ臭そうに言った。
冬子さんと初めて会った時こんな事になるなんて全然思わなかった。
本当に驚きだ。八木麗華さんが知ったら、腰を抜かすかも知れない。
「では、これで失礼します」
冬子さんとわたるさんはしっかりと手を繋いで、玄関を出て行った。
「行ったか?」
後ろで声がした。
振り返ると、血の涙を流しそうな顔の兄貴がいる。
「冬子さん、どうしてあんなに奇麗になったんだあ!」
兄貴は絶叫し、階段を駆け上がった。
何考えてるのよ、全く。
兄貴には、里見まゆ子さんていう、可愛らしい恋人がいるじゃないの。
どこまで女好きなのよ。まゆ子さんが知ったら、どうなると思ってるの?
少しは考えて欲しいわ。
そして、私はエロ兄貴をそのまま放置し、遅めの朝食を採ると、彼氏の江原耕司君が待つコンビニへと出かける。
「まどかりん」
私がコンビニに入ると、悲しそうな江原ッチがいた。
「どうしたの、江原ッチ?」
私は
すると江原ッチは、
「冬子さんが結婚しちゃうんだよお」
とヌケヌケと言ってのけた。
「はあ!?」
私の笑顔は途端に
「わわ、ごめんなさい!」
江原ッチは私の闘気を感じたのか、すぐに謝った。
「まあ、いいわよ」
私ももうあと数ヶ月で十四歳になるのだから、広い心を持たないとね。
え? 誕生日いつだって? 九月よ。何かくれるの?
訊いてみただけ? フンだ!
私と江原ッチはコンビニを出て、駅に向かう。
久しぶりにT市の遊園地に行くのだ。
「冬子さんがいなくなるって知って、瑠希弥さんが寂しそうなんだ」
江原ッチは恐る恐る言う。そこまで怖がられると、その方がムカつくわ。
「瑠希弥さん、こっちではまだ親しい友人がいないから、冬子さんとは仲良くしててさ」
「そうなんだ」
瑠希弥さんも、蘭子お姉さんに会って、蘭子お姉さんがまだ戻れないって言ったから、最近元気なかったし。
多分、瑠希弥さんを元気付かせるために、江原ッチのお母さんの菜摘さんが、集中講座を開かせたのね。
「さやかに連絡して、もう一度瑠希弥さんに気の講義をしてもらおうかな」
私が言うと、江原ッチはニコニコして、
「いいねえ。今度は僕と牧野君も一緒に」
「断わる」
光速で却下した。江原ッチは落ち込んだが、こればかりは譲れない。
結局それが目的なんじゃないの? ホントに、男って奴は!
牧野君まで巻き込まないでよ。
彼とは終わった仲だけど、あれはいつまでも「いい思い出」にしておきたいんだから。
なんて、さやかに悪いか。
私は予定を変更して、瑠希弥さんの講義を受ける事にした。
さやかに連絡しようと思ったけど、私は連絡先を知らなかった。
「俺、知ってるよ」
江原ッチが携帯を取り出し、さやかに電話する。
「何で知ってるのよ!?」
私が鬼の形相で尋ねると、
「瑠希弥さんと教え合っているところに居合わせたからだよお。訊いた訳じゃないよお」
江原ッチは泣きながら言い訳した。仕方ない。信じてあげよう。
そして、さやかも江原ッチの邸にやって来て、集中講座を受ける。
瑠希弥さんはよほど嬉しかったのか、前回より気合が入りまくり、私とさやかは燃え尽きそうになった。
いずれにしても、今日もG県は平和だったと思うまどかである。
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