久しぶりに江原ッチとデートなのよ!

 私は箕輪まどか。中学二年生の美少女。そして優れた霊能者でもある。

 

 しかし、嫉妬深いのが玉に瑕。


 何よ! 昔懐かしい魔法使い○リーのエンディング曲みたいな事言わせないでよ!


 確かに嫉妬深いのは認めるけど……。




 でも、ご機嫌だから、もう許してあげる。


 今日は久しぶりに私の絶対彼氏の江原耕司君と放課後デートなのだ。


 ここ何日か、私は私のお師匠様の小松崎瑠希弥さんと気の特訓をしていたので、江原ッチを放ったらかしにしていたのだ。


 ごめんね、江原ッチ。


 そう言おうと思ったら、江原ッチは親友の美輪幸治君と共に瑠希弥さんが庭の花に水を上げているのをこっそり覗いていた。


 私は速攻で私の親友である近藤明菜に連絡し、二人でダブルコージをお説教した。


 ホントに全く、男って生き物は!


 そりゃあ、瑠希弥さんに比べれば、私も明菜も貧乳だし、腰はくびれてないけど。


「あんたと一緒にしないでよ」


 明菜は自分のウエストを無理矢理引き絞り、そう主張する。


 ブラも全然サイズと違うものを着けて、見栄を張っている。


「あんたに言われたくないわ」


 明菜はムッとして言った。まあね。




 そんなこんなで、私と江原ッチはいつものコンビニで落ち合い、公園まで一緒に歩く。


「やっぱり、まどかりんが一番だよ」


 江原ッチが言ってくれた。


「ありがとう、江原ッチ」


 江原ッチは照れ臭そうに笑って、


「瑠希弥さんや蘭子さんは、俺には過ぎた人だからさ」


 うん? 遠回しに私はけなされているのだろうか?


「それに俺、前にも言ったけど、巨乳は好きじゃないんだ」


 江原ッチはそう言いながらも、通りの反対側を歩くお姉さんをジッと見ている。


 胸の谷間が丸見えの人だ。おまけに太腿も剥き出しのミニスカート。


「江原耕司様、デートは取りやめになさいますか?」


 私はにこやかに提案した。


「ごめーん、まどかりん」


 江原ッチは慌てて土下座した。


「全く、しょうがないんだから」


 そう言いながらも、そんな江原ッチを可愛いと思ってしまうまどかである。


 


 やがて私達は公園に到着した。


 その日は何故かどのベンチもカップルだらけ。


 皆それぞれ、愛を囁き合っている。


 わお! キスしてる人達もいる。


 おお! 中二の私にはちょっと表現できない事をしている人達も……。


「まどかりん、ジロジロ見たら悪いよ」


 江原ッチは私を引き摺るようにして歩く。


「あら?」


 私はその時、一組のカップルに目を引かれた。


「江原ッチ、あれ」


 私はそのカップルを指し示す。江原ッチもそのカップルに気づいたようだ。


「まどかりん、あれは?」


 そう。不思議なカップルなのだ。


 男性は生きているのだが、女性はすでに霊になっている。


 生者と死者のカップルである。年は、二十代前半だろうか。


 霊能力がない人が見ると、男の人がパントマイムをしているように見えるだろう。


 でも実は、二人は愛を確かめ合うようにキスしているのだ。


 何だかロマンチックだ。


「あら?」


 でも妙だ。男の人の影が段々薄れている。


 まさか!?


 私は江原ッチと目配せして、そのカップルの元に駆け寄った。


 二人は私達が近づくのを感じたのか、キスを止めて私達を見た。


「あなた達には、私が見えるのですね?」


 女性の霊が話しかけて来た。


「はい。今、男性の方の影が薄くなったのがわかったので、何が起こったのだろうと思って……」


 江原ッチが説明すると、男性の方がクスッと笑って、


「恥ずかしいなあ。そんなのまで見えていたんですか?」


「どういう事ですか?」


 私は不思議に思って尋ねた。すると女性の霊が、


「私、消えかけているんです。もうすぐ完全に霊界に行かなければならないので」


「そうなんですか」


 江原ッチが女性をジッと見ながら言ったのは取り敢えず見ないふり。


「ですから、僕が彼女に生気を吹き込んで、下界に留まれるようにしているんです」


「そうなん……」


 また江原ッチがデレデレして言ったので、思い切り二の腕をつねった。


 でも、そんな事をしていると、男性の方が……。


「わかっています。霊界の掟を犯しているのは承知の上なんです」


 男性は力強い声で言った。


 私は感動していた。禁じられた愛。何てすごいの!


「だから、僕は自分の寿命を縮めているんです。それが禁忌を犯した者の取るべき道だと思っています」


「そんな……」


 どうやら、男性は、女性が不治の病で亡くなったのを残念に思うあまり、自らの命を絶とうとしているのだ。


 しかし、自殺をすれば、自分は地獄に堕ちてしまう。だから、こんな方法を選んだの?


「でも、それは間違って……」


 江原ッチが正論を説こうとしたので、私は彼の口を塞ぎ、


「お邪魔しました」


とその場を離れた。


「どうしたの、まどかりん? あの男の人の考えは間違っているんだよ」


 江原ッチは真っすぐな目で言う。


 私もそう思う。しかし、その人の人生は、その人が決める事だ。


「江原ッチ、もし、私が江原ッチより先に死んでしまったら、貴方はどうする?」


 私は江原ッチを真っすぐに見て尋ねる。


「そんな事、僕が絶対に防ぐ。まどかりんを先に死なせたりしないよ」


「それは嬉しいんだけど、それじゃ答えになっていないわ。ちゃんと答えて」


 私は江原ッチの目を見つめる。江原ッチは私の目を見つめ返して、


「まどかりんの分まで生きるよ」


「おい!」


 私は全力で突っ込んだ。そこは、


「まどかりんのいない人生なんて意味がないよ」


とか言って欲しいのに!


「僕はそれが正しい道だと信じている。だから、まどかりんも僕が先に死んでも生き続けて欲しい」


「江原ッチ……」


 私は感動して、江原ッチの手を握りしめた。


 あ。こいつ、自分の言った事に酔ってる……。仕方ない奴。


 でも、江原ッチのカッコ良さを再認識した。


 


 そして、デート終わりに久しぶりのチュウをしたまどかだった。ムフフ。

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