謎の溺死事件を解決するのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者だ。


 やっとまともな自己紹介になったわね。


 え? 普通自分の事を「美少女」って言う奴はいないですって?


 仕方ないじゃない、本当の事なんだから。


 


 今日は、私の住んでいるM市の隣、T市の市営プールに来ている。


 デートではない。霊視の仕事でだ。だから、プールは臨時休業で、私達以外誰もいない。


 一緒にいるのは、エロ兄貴の慶一郎と鑑識課員さん達だ。


「何でえ何でえ。今日は、まーどかちゃんの水着姿を拝めると思って来たのになあ」


 鑑識最古参の宮川さんが恐ろしい事を言った。


 この人、会うたびに「危ない度数」がアップしてる気がする。


「ここが現場だ。被害者の霊はいるか?」


 宮川さんを完全に無視して、兄貴が尋ねる。


 兄貴は宮川さんがいると、私に優しい。


 だから、宮川さんには会いたくないけど、帰りのご褒美のためにはいて欲しいのだ。


 複雑な思いのまどかである。


「ちょっと待って」


 被害者は、二十代の女性。高校時代、水泳の選手だった人だ。

 

 その人が、深さ一メートルのプールで溺死した。


 事件性があると判断され、私にお呼びがかかったのだ。


「一緒に来ていた友人もプールの監視員達も、彼女のそばに不審な人物がいるのを目撃していないんだ」


 兄貴は今日は大真面目だ。何故なら、その被害者の女性は兄貴の同級生の妹さんなのだ。


 被害者が知り合いだから真面目に仕事するって、どうなのよ? まずいんじゃないの、そういうのって?


「だから、被害者の霊に直接訊いて、犯人を割り出したいの」


 私のお姉さん候補確定目前の里見まゆ子さんが付け加えた。


 最近、兄貴とまゆ子さんは、こっそり付き合っているらしい。


 何だか凄く嬉しい。


 おっと。仕事ね。


 辺りを見渡す。いた。


 あれ? どうしてプールサイドの端にいるの?


 水の中にいないって事は、地縛霊にはなっていないのか。


「どうしてそんなところにいるんですか?」


 私は怯えたように身を縮めているその女性の霊に声をかけた。


「わ、私、殺されたの……」


「え?」


 いきなりの展開だ。殺人事件?


「誰に?」


「わからない。突然、凄い力で水の中に引き込まれて……」


 彼女は泣き出してしまった。


 その時、私は別の波動を感じた。


「こっち?」


 私はプールに近づく。そうか。そういう事ね。


「謎は全て解けたわ、お兄ちゃん」

 

 私は胸を張って言った。


「まどかちゃん、いいなあ。そのペッタンコな胸がいい」


 宮川さんのキモい発言を無視して、私は続ける。


「犯人は、プールの中にいるわ」


「え?」


 鑑識さん達が一斉にプールを見た。


 私は摩利支天の真言を唱えた。


「オンマリシエイソワカ!」


「グギャーッ!」


 雄叫びを上げて、プールの底に潜んでいた霊が飛び出して来た。


 三十代後半の男の霊だ。


 こいつも溺死したのだろうか、身体がプヨプヨしている。


 しかも海パン姿なので、キモい。


 宮川さんといい勝負だ。


「どうしたんだ?」


 兄貴が尋ねる。残念な事に、私以外このキモいおっさんの霊が見えない。


「まゆ子さん、離れて下さい。男の霊です。こいつ、若くて奇麗な女性が大好きなんです」


「え?」


 まゆ子さんは、「若くて奇麗な女性」に反応して、赤くなってしまって動かない。


 ああ、言葉の選択を間違えたかな。


「里見さん!」


 兄貴がまゆ子さんをプールから遠ざけてくれた。


「グヘへ、俺の邪魔すんなよ、ガキ! 俺は若い姉ちゃんが大好きなんだよォッ!」


 男の霊は、悪霊になっていた。こうなったら、除霊するしかない。


「ガキで悪かったわね! でも将来、あんたみたいなキモい奴に襲われたら嫌だから、逝かせてあげるわ!」


 私のその言葉を聞き、何故か宮川さんが悶絶したらしいが、そんな事はどうでもいい。


「インダラヤソワカ!」


 バチバチバチッと雷撃が走り、キモいおっさんの霊を直撃した。


「ウギャギャーッ!」


 おっさんの霊は断末魔と共に消失した。


「除霊完了」


 私はホッとして微笑んだ。そして、女性の霊を見る。


「もう大丈夫。だから貴女も、ね?」


 女性の霊は笑顔になった。


「ありがとう。本当にありがとう」


 彼女は光に包まれ、天へと消えた。


 こうして、事件は無事解決した。


 


 そして県警に向かう車の中。


 恒例のおねだりタイムである。


「今日は折角T市まで来たんだから、パスタが食べたいよお、お兄ちゃん」


 私は甘えた声で助手席の兄貴に言った。T市はパスタ料理で有名なのだ。


「宮川さんに頼めば、高級イタリアンレストランで食べさせてくれるぞ」


「やだよお、あの人、キモいんだもん」


 すると運転席のまゆ子さんが、


「この先に人気のお店がありますから、そこでお昼にしませんか?」


と提案してくれた。ああん、大好き、まゆ子さん!


「そ、そうですか。ま、里見さんがそう言うのなら……」


 兄貴は仕方なさそうに言ったが、ホントは嬉しいのだ。


 二人きりの時は、


「慶君」


「まゆりん」


と呼び合っているらしいから。


 いいなあ、職場が一緒の恋人同士って。


 私の彼の江原ッチの場合、お父さんの跡を継ぐのだろうから、一緒に働くって事は、結婚?


 きゃあああ!


 妄想が暴走しそうなまどかだった。

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