綾小路さやかが転校するのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者。人は私の事を「霊感美少女」と呼ぶ。


 何か変よ、今日の自己紹介。


 まァ、いいわ。


 


 夏休みも終わり、新学期が始まった。


 クラスのみんなと再会するのは嬉しいんだけど、私の絶対彼氏の江原耕司君は学校が違うから、また放課後しか会えなくなってしまう。


「転校してよ」


 江原ッチにそう言いたかったが、さすがにそんな身勝手な言動は許されない。


 何より、江原ッチのご両親に呆れられる。


 そんな事になれば、玉の輿を逃してしまいかねないのだ。


 コホン。そんな野望は抱いてないから。


 ホントよ。


 


 校庭に入ると、いきなり嫌な奴と目が合った。


 悪役商会からスカウトが来るんじゃないかと思う綾小路さやかが、こっちを見ていたのだ。


「何、何か用?」


 私は警戒しながら尋ねた。するとさやかは、


「今日でお別れね」


「えっ?」


 さやかは寂しそうに笑い、


「私、転校するの」


「天候?」


「違うわよ、転校!」


 さすがさやか、私の発したボケを霊感で読み取ってくれた。


「今までいろいろとあったけど、貴女の事は忘れないわ、箕輪さん。ありがとう」


「え、うん」


 突然切れ出された転校話に、私はすっかり面食らった。


 さやかの気を探ったが、私をからかっている様子もない。


 嘘を吐いている訳でもないようだ。


 この前の一件が響いて、この学校に居辛くなったのだろうか?


 何となく悲しくなった。


 嫌な奴だったけど、お互いが理解し合える者同士だとも思っていたから。


 私達は出会うのが遅過ぎたのよ。そんな名セリフが浮かんで来た。




「まどかーっ!」


 廊下を歩いていると、親友の近藤明菜が走って来た。


「廊下を走るな、アッキーナ」


 私はいつも明菜に言われている事を、ここぞとばかりに言い返した。


 すると明菜は息を切らせたまま、


「それどころじゃないわよ! 早く教室に来て!」


「どうしたの?」


 明菜は私の手を掴んでまた走り出す。


 教室に入って、私はその理由を知った。


 どうした事か、そこでは、肉屋の力丸卓司君と、私の元彼の牧野徹君が取っ組み合いの喧嘩をしていたのだ。


 似合わない。リッキーにもマッキー(この呼び方超久しぶり)にも、肉弾戦は。


「やめなさいよ、喧嘩なんて!」


 みんなが遠巻きに見ているのを尻目に、私は二人に近づいて言った。


 その途端、霊の波動を感じた。


「うるさいよ、まどか! お前、関係ないだろ!」

 

 リッキーとマッキーが声を揃えて私に怒鳴る。この言葉も、二人には似合わない。


「何ですってェッ!?」


 私は切れた。こうなったら、「月に代わってお仕置き」よ!


「インダラヤソワカ!」


 私は帝釈天の真言でリッキーとマッキーを叩きのめした。


「グヒャッ!」


 二人は感電して、気を失った。


 私は微かに残る黒幕の気を感じ、教室を駆け出した。


「さやか、あんたねェッ!」


 私はさやかがいる教室に飛び込んで怒鳴った。


「あーら、箕輪さん。どうしたの? 私に会いたくなったのかしら?」


 さやかは相変わらずの憎々しさで言った。


「ふざけるんじゃないわよ。どうしてあんな事を!?」


 するとさやかはニヤリとした。悪代官か、お前は!?


「お別れの挨拶代わりよ。牧野君はもう貴女にお返しするわ」


「えっ?」


 私は意外な答えにギョッとした。牧野君を返す? どういう意味?


 その時、始業のチャイムが鳴った。


「話はまた後で!」


 私は自分の教室へと走った。


「こらァッ、廊下を走るな、箕輪!」


 顔の大きい藤本先生が大声で叫ぶ。


「はーい!」


 私は空返事をしてそのまま走り続けた。




 そして結局、私はさやかと対決する事なく、放課後を迎えてしまった。


「さーやーかーっ!」


 私は授業が終わると、先生より早く教室を飛び出し、さやかがいる教室を目指す。


「待っていたわ、箕輪さん」


 廊下の先でさやかが言った。心なしか、彼女は寂しそうだった。


「最後まで仲良くなれなかったけど、貴女と出会えて良かったわ。元気でね」


「あ、うん」


 何だが拍子抜してしまった。


 さやかはニコッとして廊下を歩いて行った。


 うーん。確かに仲良くなれなかったのは残念な気がする。


 私達は、「わかり合える」はずだったのに。


 


 そして私は家路に着いた。


 って言うより、愛しの江原ッチの待つコンビニへと向かった。


 長い一日だった気がする。疲れた……。


 しかし、それは始まりでしかなかったのだ。


 


 翌々日の朝。衝撃が走った。江原ッチからのメール。


「まどかりん、綾小路さやかがウチの中学に転校して来たよ」


 うわあああっ! あの女ァッ!


 超不安なまどかだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る