デートを邪魔されてムカつくのよ!

 私は箕輪まどか。鋭い霊能力を持つ美少女中学生だ。


 ようやくまともそうな自己紹介になって良かった。


 今日は日曜日。現在ラブラブ中の江原耕司君とデート。


 のはずだった。


 それが!


 あのエロバカ空気読めない兄貴のせいで「オジャン」になった。


 え? 霊感少女だけに「死語の世界」が得意だね、ですって?


 ねづっちみたいな事言わないでよ! 「整いました」はこの話ではNGワードにするからね!


 


 私は、エロ兄貴と兄貴のお嫁さん候補にして私のお姉さん候補ナンバーワンの里見まゆ子さんと共に、殺人現場に向かっているところだ。


「いつまで剥れているんだ、かまど」


 兄貴がイラついて助手席から言って来る。


「仕方ないですよ。彼とデートだったのに、私達が無理矢理来てもらったのですから」


 運転席のまゆ子さんが兄貴を宥める。


「そんな事は関係ない。妹はかっこいい兄のために動くのが義務だ」


 エロ兄貴は意味不明な事を口走った。


「名づけて『イモートコントロール』だ」


 何故か「どや顔」の兄貴。車の中に何とも形容しがたい空気が漂う。


 私は珍獣ハンターではないのだ。


 まゆ子さんですら、フォローしてくれない。


「バッカみたい」


 私は追い討ちをかけるつもりで言い放った。


 さすがの兄貴も落ち込んでいた。




 やがて私達は現場に到着した。山奥の河原だ。石がゴロゴロしていて歩きにくい。


 げ。何故か、鑑識課の最古参、宮川さんが来ている。


 宮川さんはあの世界の住人なので、できるだけ接触したくないのに。


「おおお、まーどかちゃん。来てくれたねえ」


 私は不二子じゃありません! そんな事を言うと、更に接近されそうなので、


「ども」


と会釈して、サッサと兄貴の後ろに隠れる。


「箕輪あ、まーどかちゃんはブラコンなのかあ? 問題だぞお」


 宮川さんは兄貴に近づくフリをして、私に近づいて来る。


「ワハハ、そうなんですよ、宮川さん。まだ一緒にお風呂に入りたいとか言われて、困ってます」


 えええ!? バカな事言わないでよ、エロ兄貴!


 あれ? でも、宮川さんのテンションがガタ落ちになったぞ。


「そ、そうなのか……」


 宮川さんは可哀相なくらい暗くなり、離れて行った。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 私は兄貴が助けてくれたと思い、お礼を言った。


「何だ、ホントに一緒に入りたかったのか、風呂?」


 兄貴は照れ隠しなのか、またとんでもない事を言う。


「違うわよ!」


 そんな私達のバカ会話を、まゆ子さんは驚愕の眼差しで見ていた。


 気を取り直して現場に向かう。


「ここが遺体があったところだ。何か感じるか、まどか?」


 兄貴はすっかり鑑識課の顔になっていた。まゆ子さんも現場付近を這いずり回って調べている。


「えーと……」


 ギクッとした。


 被害者の霊がいた。二十代前半の女性だ。奇麗だったが、顔をボコボコにされて殺されている。


 酷い殺され方だ。でも、どうしてあんなところにいるのだろう?


 彼女は、捜査一課の刑事さんの一人の頭の上にいる。つまり、浮いているのだ。


 どういう事? あの人が殺人犯?


 でも違う。取り憑いている訳ではないようだ。


 あれえ? 刑事さんが移動したら、地面に降りて来たぞ。


「ねえ、どうしてそこにいるの?」


 私はその女性の霊に話しかけた。


「え?」


 女性の霊は私が見えている事に驚いたようだ。死にたての人は、こんな感じなのが多い。


「ここに、私を殴ったものが埋まっているからなの」


 その人は地面を指差した。


 確かに良く見ると石が動かされた形跡がある。


「お兄ちゃん、ちょっと!」


「何だ?」


 私の声にみんなが集まって来た。


「この石の下に凶器が埋まっているわ。探してみて」


「わかった」


 兄貴はまゆ子さんと目配せし、石をどかした。


 それを心配そうに女性の霊が見守っている。


「おお!」


 土を掘り起こすと、そこから血塗れのスパナが出て来た。


「うわああ、それ、それよ! それが私を!」


 霊が興奮し出した。


「落ち着いて!」


 私は女性の霊を宥める。


「貴女を殺したのは誰なの? 教えて」


 でも女性の霊は興奮が収まらず、喚き散らし続けた。


「私は、私は、私はああああ!」


 私は仕方なく、観世音菩薩の真言を唱えた。


「オンアロリキヤソワカ」


 女性の霊は観音様の慈悲の力で、やっと落ち着きを取り戻した。


「貴女はもう大丈夫よ。安心して、向こうの世界に行きなさい」


 彼女は自分の顔が元に戻っている事に気づいてくれたようだ。


「ありがとう」


 微笑んで天に昇って行く。私はそれを黙って見送った。


「犯人は被害者の女性の兄。妹可愛さに、殺してしまったの」


 ギョッとする兄貴。そして、


「許せない。自分の妹を殺すなんて、外道だ」


「え?」


 何か今キュンと来た。涙が出そう。


「そうですよね。妹を殺すなんて、酷いですよね」


 まゆ子さんが同調した。すると兄貴は私を見て、


「可愛い妹を殺すなんて本当に考えられない。幸い俺には可愛い妹はいないが」


と言って、ニヤリとした。


 このバカ兄貴! ちょっとキュンとした私がバカだった!


 本当に散々な一日のまどかだった。

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