蘭子お姉さん大活躍よ! 私は出ていないけど(泣)
私は霊能者の西園寺蘭子。
箕輪まどかちゃんのお兄さんである慶一郎さんと共にある殺人事件の現場に向かっています。
慶一郎さんの話によると、その事件に陰陽道が関わっているらしいのです。
私は急遽親友八木麗華に連絡を取り、こちらに来てくれるように頼みました。
「すぐ行くで。それまで死ぬんやないで」
麗華からの返事はそれでした。
私と麗華が追っている宗教法人を隠れ蓑にした霊感商法と、今回の事件が繋がろうとしていました。
「ここです」
私は慶一郎さんの案内で、崖の近くに到着しました。
「お札はそのままなんですね?」
「ええ。妹が触らないでと指示していましたので。そのままの形で残っています」
慶一郎さんは何故か片時も私から視線を外さずに言いました。
「わかりました。ちょっと確認します」
「は?」
慶一郎さんが唖然とするのを横目に、私は崖を飛び降りました。
「危ないですよ!」
ついて来ようとする慶一郎さんに声をかけ、私は下に降り立ちました。
慶一郎さんは完全に固まっています。
その方が静かで仕事がやり易くて助かりますが。
「ここね」
私は陰陽道の波動を探り、すぐにそのお札を見つけ出しました。
「何をするつもりだ?」
突然男の声がしました。
「どこ?」
私は身構えて周囲を見回します。でも誰もいません。
「もしかして?」
私はお札に近づきました。どうやらそのお札を媒体にして、何者かが声を発したようです。
「貴方は誰?」
私はお札に話しかけました。
「私は陰陽師の
「嘘をつかないで下さい。晴明の末裔が、殺人事件の片棒を担いだりする訳がありません」
私が強い調子で言い返すと、
「理屈だな。確かに私は陰陽師ではあるが、晴明の子孫ではない」
「あっさり認めるのね」
私はちょっと拍子抜けしました。
「ああ、認めるさ。もうすぐ死ぬお前に何を話しても何の支障もない」
「何ですって?」
周囲がざわつき始めました。
「何?」
私は強烈な霊気を感じました。何かが近づいて来ます。
「お前は私の資金源を潰そうとしている。だから殺す」
「もしかして、ここでこんな子供じみた仕掛けをしたのも、私と麗華を誘い出すための罠?」
「今頃気づいたか。あんな小便臭いガキが来るとは思わなかったが、お前達に繋がってくれてホッとしている。計画は成功した」
「酷い事を言うわね。まどかちゃんを侮辱するのは許せないわ。彼女は私の友達なのよ」
私は数珠を取り出して言いました。
「ならば後であのガキも始末するさ。お前の仇を討ちに来るだろうからな」
「私の仇を討ちに来る事はないわ」
私は数珠を振り上げてから印を結びました。
「何故だ? 友達ではないのか、そのガキは?」
「私は貴方達に負けたりしないから、仇を討ってもらう必要がないのよ」
「それはどうかな?」
私の背後に悪意に満ちた霊気が迫りました。
「式神?」
陰陽師が操る物の怪です。神などとは程遠い存在です。
「グオオオッ!」
黒い塊が襲いかかって来ます。私は数珠を手首にかけ、印を結びました。
「オンマリシエイソワカ」
摩利支天の真言です。あらゆる邪を防ぐものです。
「グオオオン!」
黒い塊は私に近づく事ができず、空へと上がりました。
「やるな。しかし、その程度では防ぎ切れんぞ」
もう一度黒い塊が私に接近して来ました。
「えっ?」
数が増えています。
「きゃっ!」
私はその中の一つを防ぎ切れず、数珠を切られてしまいました。
「くっ……」
「次で終わりだ、女!」
私は再び襲いかかって来る黒の集団を見て、終わったと思いました。
「諦めるんやない、蘭子ォッ!」
麗華の声が轟きます。
まさか? こんなに早く?
「ナウマクサマンダバザラダンカン」
不動明王の真言が響き、黒の集団は全て燃え尽きてしまいました。
「そこや!」
麗華は私のすぐそばに降り立ちました。
彼女は不動明王真言で、お札を全て炎に包み、焼き尽くしました。
「くそう、相棒が来ていたのかァッ!」
「逃がさへんで、偽陰陽師! ここで退治したる!」
麗華は別の印を結びました。私はギョッとして、
「麗華、それはいけない!」
と止めましたが、
「関係ないわい!」
麗華は私の制止を振り切り、真言を唱えました。
「オンマカキャラヤソワカ!」
それは大黒天の真言です。あまりにも強力な真言なので、余程の事がない限り慎むべき秘法なのです。
「バ、バカなーっ!」
お札の向こうにいる安倍利明にその真言が到達したようです。辺りに漂っていた利明の気配がかき消され、結界も消失しました。
「ざまあ見さらせ!」
麗華は得意の絶頂で言い放ちました。
こうして、宗教法人の事件と、まどかちゃんに頼まれた事件の二つが一気に解決しました。
麗華は私がまどかちゃんのところに向かったのを知り、すぐに後を追ったのだそうです。
そして私の気を辿りながら毘沙門天の真言で高速移動をし、現場に到着しました。
「どや、ウチのフットワーク。大したもんやろ?」
麗華は私の車の助手席で大威張りです。
「はいはい。さすが麗華ね。ありがとう」
私はお座なりに礼を言いました。麗華はそれが気に入らないらしく、
「それが命を助けてくれた人に対する態度かいな? ホンマに蘭子は、礼儀っちゅうもんを知らんで困るわ」
「……」
麗華にだけは礼儀の事で説教されたくありません。
「いやァ、今日はついてるなァ。こんな美人お二人と一緒にドライブできるなんて」
後部座席で、一体何のために現場に行ったのかわからない慶一郎さんが言いました。
「そやろ? 嬉しいやろ、
麗華はますます調子に乗って来ました。ガハハと笑う麗華と一緒にされたくはないです。
「そや、今回の退魔料の五千万円、県警に請求すればええんかな、兄ちゃん?」
麗華は真顔で慶一郎さんに言いました。
「は?」
仰天する慶一郎さん。
「麗華、それ、恐喝罪になるわよ」
私がたしなめると、
「冗談や、冗談。今日はオマケにしたる」
「そ、そうですか、良かった」
慶一郎さんはそれでも顔を引きつらせていました。私は苦笑いするしかありません。
しばらくして車はまどかちゃんの家の前に着きました。
「今日は楽しかったです。また今度ドライブしましょう、蘭子さん、麗華さん」
全く懲りていない慶一郎さんが笑顔で言いました。
「兄ちゃん、ええ男やから、ウチの彼氏にしたるわ。今度デートしよか?」
麗華が何か裏がありそうな顔で言うと、慶一郎さんは、
「はい、喜んで」
と何も考えていないような顔で答えました。
本当に知りませんよ、慶一郎さん。麗華はもの凄くお金がかかる子なんですからね。
「それじゃ」
私達はG県を後にして、東京へと走り出しました。
「麗華、本当にありがとう。嬉しかったわ」
私が真剣な顔でそう言うと、麗華は何故か顔を赤らめて、
「や、やめんかい、蘭子。あんたにそない言われると、恥ずかしいわ」
「フフフ」
私はそんな麗華を可愛いと思います。でも、お金への執着心だけは何とかして欲しいと思っています。
ではまた。
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