寒いギャグオヤジの霊を助けたのよ!

 私の名前は箕輪まどか。


 決してお笑い芸人ではない。


 わざと間違えた男子には「お仕置きだべ~」とキツイお灸をすえた。


 私の伯父さんは鍼灸師なのだ。だから本当のお灸をしてあげた。


 え? 何で小学生のお前が「鍼灸師」なんていう難しい言葉知ってるのかですって?


 当たり前じゃない、作者が年配の方なんだから。


 あ、こんな事言わせないでよ。


 この前「中年オババ」呼ばわりしたのがばれて、今日まで干されてたんだから。


 やめてよね。


 最近はライバルのメイドが目立ってるので、非常に不満な美少女なのだ。




 前置きが長くなり過ぎたわ。


 この前私は尊敬する霊能者である西園寺蘭子さんと共に悪霊退治で大活躍した。


 あれ以来蘭子お姉さんからメールもないし、電話もかかって来ない。


 もしかして、私が可愛過ぎるので一緒に仕事したくないのかしら?


 蘭子お姉さんたら、案外気が小さいのね。


 なんて下らない妄想はこのくらいにしてと。




 実は県警の鑑識課に所属しているお兄ちゃんからまた霊視の依頼が来た。


 警察には恩を売っておきたいのだが、どうも全部手柄をお兄ちゃんに横取りされているらしいのだ。


 課長さんに私の携帯の番号教えたのに連絡が来ない。


 必ずお兄ちゃん経由だ。


 これは中間搾取だ。使い方が正しいかどうかはこの際気にしないでと。


「おい、何ブツブツ独り言言ってるんだ、かまど」


 かまど? 誰だ、私の一番嫌いなあだ名を言った奴は!?


 私が鬼の形相で声のした方を見ると、そこには見慣れた顔が。


「何だ、お兄ちゃんか。やめてよね、かまどって呼ぶの」


 私は口をタコのように尖らせて言った。するとお兄ちゃんは、


「お前がいくら呼んでも返事しないからだよ。現場に着いたぞ」


 あ、そうか。警察の車で殺人現場に向かっている途中だった。


 私は妄想が始まると、雷が鳴るまで止まらないのだ。


「ほら、早くして。みんな待ってるんだから」


「わかったわよ、中間搾取さん」


「は?」


 私の精一杯の皮肉も通じない。


 お兄ちゃんは妹の私が言うと「変な関係か?」と疑惑を持たれるのであまり言いたくないのだが、県警一のイケメン警察官だ。


 映画の主役もできるくらいカッコいいのである。


 でも「妹萌え」ではなく、今は「蘭子さんの携帯番号が何よりも知りたい」エロ鑑識課員だ。


 ま、私がこれだけの美少女なのだから、お兄ちゃんがイケメンなのも当たり前だのクラッカーだ。


 う、さぶっ……。




 現場は県境に近い山奥。


 一体何時間車に揺られて来た事か。


 そのせいで妄想タイムが長引いて現実世界に戻るのが遅れてしまった。


 あ。


 早速来た。何だ、この感覚は?


「どうしたの、まどかちゃん?」


と声をかけてくれたのは、鑑識課の紅一点である里見まゆ子さん。奇麗なお姉さんだ。蘭子お姉さんに比べると、ちょっと地味だけどね。仕方ないか、服装が地味だから。


「います。ずっと叫んでる人が」


「聞こえるの?」


 まゆ子さんには霊感は全くない。私と反対で死体は怖くないが霊は怖いようだ。


 しきりに周囲を見渡している。


 でも私には声が聞こえるだけで、姿は見えていない。


 どういう事だろう?


「まどか、どうした?」


 お兄ちゃんも私の異変に気づいた。


「声は聞こえるんだけど、姿が見えないわ」


 お父さんがいなくて良かった。こんな事を言えば、間違いなく、


「まるでお前は屁のような……」


 そうそう、そんな事を聞かされてたはずって、今誰か言った?


 誰も言ってない。


 そうか、霊が言ったのか。昭和ギャグ好きの霊?


「貴方はどこにいるの、寒いギャグ好きの方?」


「失礼な。私はギャグ好きだが、寒くはないぞ」


 霊の声が答えた。


 今回の霊視は、山の斜面を滑落して亡くなった人の遺体の捜索なのだ。


 でも妙だ。


 もし死んでいるのなら、肉体を離れてここまで来られるはず。


「どうして声だけなの? 貴方はどこにいるの?」


「私はここだ。ここにいる」


 霊はそう答えるだけで、どこにいるのかわからない。


「どうして? 何でよ?」


 私は危険をものともせず、崖っぷちに近づいた。


「この辺から落ちたらしいわ」


「ああ。そこまでは現場検証で判明してる。でも、遺体の位置が全く特定できないんだ」


 お兄ちゃんが説明してくれた。


 確かに崖下は鬱蒼とした森が広がるばかりで、その下は見えない。


 森は行く手を阻むように木々が生い茂り、ヘリコプターも近づけないし、下からも登れない。


 唯一残された手段は、この崖からの捜索なのだ。


「わからないか、まどか。遺体がどこにあるのか?」


「わからない。どうしてなんだろう? 声は聞こえるのに……」


 私はもう一度ギャグ好きの霊に声をかけた。


「ねえ、どこにいるの? 私にはわからない。教えて」


「私はここだ。嬢ちゃんのかわゆい顔が良く見える。もう少し前に出てくれれば、スカートの中が」


「おい!」


 私はエロ親父の霊に覗き見されそうだったのか。慌てて下がった。


「私の顔が見える? なのにどうして私からは見えないの? どうしてエロ親父はここに来られないの?」


「私はエロ親父ではないぞ」


「そんな事はどうでもいいわ! ねえ、貴方の周りに何かない?」


「何か? 木があるぞ」


「あんたは天然か!? そんな事を聞いているんじゃないわ。何か特別なモノがない?」


「特別なもの?」


 しばらくエロ親父からの声が聞こえなくなった。探しているのか?


「ねえ、どうしたの?」


 私は堪りかねて尋ねた。


「あったぞ。お札だ。私の周りを取り囲むようにお札がある」


「そういう事だったのね。オジさん、今助けてあげるわ」


 私は帝釈天の印を結んだ。


「インダラヤソワカ」


 真言と共に落雷が起こり、次の瞬間、エロ親父の霊が森から飛び出して来た。


 どうよ、私の実力。ホントは蘭子お姉さんに教えてもらったんだけどね。


「嬢ちゃん!」


 エロ親父は私に抱きつこうとしたようだが、すり抜けてしまった。


 よかった、相手が霊で。




 こうしてエロ親父の霊は開放され、遺体の位置も把握できた。


 そしてさらに凄い事がわかった。


 親父は殺されたのだという。


 しかも奥さんに。


 エロが原因かと思ったら、財産目当てだそうだ。


 奥さんが若い愛人と殺害を計画し、崖から突き落としたのだそうだ。


 そしてお札で結界を作り、遺体を発見できないようにしたらしい。


「そいつらがお札を貼ったのか?」


 お兄ちゃんが尋ねた。


「違うわ。あれは明らかに呪術を知っている者の仕業。素人の仕事じゃないわね」


 私はカッコ良く決めた。


 但し、私の手に負える相手じゃない。


 蘭子お姉さんに助けてもらわないと。


 何かヤバイ感じがする。


 作者の意地悪だろうか?


 そんな力ないな、あいつには。




 とにかく、大変な事になりそうな予感。

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