奇麗なお姉さんと出会ったのよ!

 私の名前は神村律子。


 じゃなかった、箕輪まどか。


 何であんな中年オババと言い間違えたんだろ?


 まだ小学校六年生の美少女なのに。


 この前、ハリセン○ンの死神に似てる奴だろ、と言った他校の男子をフルボッコにした。


 話し方が大人び過ぎていて、とても小学生には見えないという誉められてるんだか、貶されてるんだかわからない事を言われた事もある。




 そんな私は、あまり大きな声では言えない能力がある。


 霊能力だ。


 誰、今「ゼロ能力」って言ったの?


 後で酷いわよ。覚えてなさいよ。




 で、話を戻すけど、私は霊感が強い。


 県警の鑑識課にいるお兄ちゃんの依頼で、時々霊視もしている。


 将来は県警本部長を目指している訳ではないが、警察に恩を売っておけば、いざという時何か良い事があるだろう。


 


 そんな優れた能力の持ち主である私だから、普段から浮遊霊が近づいて来てウザい事この上ない。


 追い払うのに一苦労なのだ。


 昨日もたくさんの浮遊霊に寄り付かれ、ようやく逃げ切った。


 最近までお付き合いをしていた牧野君とは、そのせいで別れてしまった。

 

 男の子のビビリはカッコ悪い。


 もう興味なし。消えて下さいって感じ。


「また今日もウザいんだろうな」


 学校へ出かける。


 あれ?


 いつも現れる幼稚園児の浮遊霊がいない。


 園児バスに轢かれて死んでしまった子で、私に霊感があるのを良い事に接近して来た。


 享年五歳のくせに、やたらエロくて何度もお尻やおっぱいを触られた。


 えっ? お前におっぱいなんかない?

 

 ホント、怒るよ、いい加減にしないと。


「あ」


 私はそのエロ園児の霊が何故私によって来なかったのかわかった。


 数メートル先に奴はいた。


 そこには、二十代くらいの美人がいたのだ。


 しかも、その美人は私と同じく霊感があるらしい。


 園児のエロエロ攻撃を受けて困っているようだ。


 具体的にどんな事をしているのかは、読者の皆さんのエロ度に応じて想像して欲しい。


「大丈夫、お姉さん?」


 私は駆け寄って声をかけた。するとお姉さんは私を見て、


「ええ、大丈夫よ、箕輪まどかさん」


「へっ?」


 私はビックリした。


 そのお姉さんとはどう考えても初対面なのに、フルネームで呼ばれたからだ。


「ど、とうして私の名前を?」


「貴女の守護霊様が教えて下さったわ」


「守護霊?」


 私にはまだ自分の守護霊と話す力はない。ビックリだ。


 お姉さんは近くで見ると、また一段と美しかった。エロ園児が私に寄って来なかったのも納得してしまった。


 私にはあの色気はない。完全敗北だ。


「さ、もういいでしょ、ケンジ君。お帰りなさい」


 お姉さんは諭すようにエロ園児の霊に言った。


「はーい」


 園児の霊は素直に応じて消えた。


 私が怒鳴っても言う事聞かないのに。


 これだから男は嫌だ。


「自己紹介してなかったわね。私は西園寺蘭子。霊能者よ」


 神々しいと言う言葉はこのお姉さんのためにあるのだと確信した。


 女の私も惚れ惚れしてしまう。


 もしかして、これってお姉さんの能力なのかな?


「貴女を待っていたの」


「えっ? 私を? どうしてですか?」


 私は思わぬ展開に、ドキドキした。


「力を貸して欲しいの」


「えっ? ほしのあき?」


 私のボケは軽く流されてしまい、蘭子お姉さんは何もリアクションしてくれない。


「学校が終わったら、校門のところで落ち合いましょう。一緒に行ってもらいたいところがあるの」


「は、はい」


 何があるのかわからないが、とにかく面白そうだ。


 しかも蘭子お姉さんは、相当な力の持ち主だ。


 それがわかる。


 そしてそういう事が出来てしまう私も相当な力の持ち主……と言いたいところだが、蘭子お姉さんには全然敵わない。




 私は授業も上の空、先生のお説教もどこ吹く風で一日を過ごし、下校時間になるとダッシュで校門に向かった。


「あれ?」


 するとすでにエロ男子共が蘭子お姉さんを取り囲んでいた。


「お姉さん、いくつ?」


「彼氏いるの?」


「今度一緒にプール行こうよ」


 男子共のバカさ加減に私は呆れ果てたが、


「蘭子さん、お待たせ」


と声をかけると、まるでクモの子を散らすようにバカ共は走り去った。


 私は学校で一番強いのだ。


「悪いわね、まどかちゃん。行きましょうか」


「はい」


 


 蘭子お姉さんは私と共に近くに乗りつけられたメーカー不明のスポーツカーに乗り込んだ。


 霊能者が乗るイメージがまるでないような真っ赤な車だ。


 もしかして、蘭子お姉さんは山口百恵のファンなのだろうか?




 などと下らない妄想を膨らませていると、車は目的地に到着した。


「ここは?」


 酷く田舎な感じのするところ。


「こ、ここ……」


 私は途端にたくさんの霊気を感じた。


「ここは以前小学校だったの。でも、市の財政事情と子供の数のせいで、廃校になったわ」


 蘭子お姉さんは悲しそうに言った。


 私にも感じられた。


 その建物から、すすり泣く声が聞こえる。


 私と同年代くらいで命を落とした女の子達。


 何だろう?


 死に方がよくわからない。


「彼女達は、この場所を清めるために人柱になったの。彼女達の家の宿命なのよ」


「ああ…」


 私はもどかしい感じが解けて行くのを感じた。


 自分の意志で命を落としたのに、自殺とは違う波動を出しているのはそのせいなのね。


「封じている怨霊は私が除霊します。貴女は彼女達を解き放ってあげて。もう役目を終えても良いはずだから」


「わかりました」


 何があったのかは私には難しくてよくわからないが、女の子達が封じている霊が凄まじい悪意を放っている事は感じ取れた。


「貴女達はもう楽になって良いのよ。もう、ここにいなくてもいいの」


 私は女の子達の霊に語りかけた。


「ホント?」


「もちろん。もう大丈夫。私達に任せて」


「わかった。ありがとう、まどかちゃん」


 霊に礼を言われると何となく恥ずかしい。ってか、何で私の名前知ってんのよ?


 


 私が彼女達を開放している時、蘭子お姉さんは壮絶な戦いを始めていた。


「貴方達ももうここには留まらなくていいのよ。そろそろ行くべきところにお行きなさい」


 蘭子お姉さんは数珠を取り出して振るった。


「オレタチハ マダマダココニイル マダタリナイ マダコロス」


 怨霊達の叫び声が聞こえた。しかし蘭子お姉さんは怯まない。


「ここに留まっても何も解決しないわ。私は貴方達を除霊しに来たのではないわ。助けに来たのよ」


「ソンナコト シンジラレルカ」


 霊達は抵抗した。蘭子お姉さんは、文字通り菩薩のような顔になり、


「オンアロキヤソワカ」


と唱えた。


 後で調べて知った事だが、観音菩薩の真言だ。


 あらゆる者に救いの手を差し伸べる観音様の力で、怨霊達は鎮まり、悪意は消滅して行った。


「お姉さん」


 私は女の子達を開放して、蘭子お姉さんに駆け寄った。


「終わったわ。あの人達も救えた」


 蘭子お姉さんはホッと溜息を吐き、私を見るとニコッと微笑んだ。


 私も微笑み返した。




「ずっと気になっていたの。何とかならないかと思っていたの」


 帰り道、蘭子お姉さんは、どうしてあの廃校に行ったのか話してくれた。


 以前、除霊を依頼され、訪れた事があるのだそうだ。


 その時はどうする事も出来ず、帰った。


 そんな時、私という天才美少女霊能者を知ったとの事。


 二人で力を合わせれば、何とかなると考えたのだそうだ。


「でも私なんかより、ずっと力がある人、たくさんいますよ。それなのにどうして?」


 謙遜の意味も含めて、私は尋ねた。すると蘭子お姉さんは、


「小学生の貴女でなければ、彼女達は開放できないわ。いくら能力が高くても、大人では無理なの」


「そうなんですか」


 難しい話になりそうだったので、私はわかったフリをした。




 しばらくして、蘭子お姉さんの車は私の家の前に着いた。


「また声をかけてもいい?」


「もちろん。メアドと携帯の番号交換しましょう」


 私が言うと、蘭子お姉さんは、


「まァ、小学生なのに、携帯持っているの?」


「当たり前だのクラッカーです」


 お父さんが得意のギャグをかましたが、また受け流されてしまった。


「またね、まどかちゃん」


「はい、蘭子お姉さん」


 真っ赤なスポーツカーは爆音を轟かせて走り去った。




 その後、蘭子お姉さんをチラッと見かけたお兄ちゃんから、


「紹介しろ」


としつこく言われた。


 その話はまたの機会という事で。


 今日は疲れた。


 もう寝よっと。

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