第二十話・眩き朝の……。
※BLネタ注意!!
「シグルドく~ん。君の友達が朝のモーニングコールに来てやったぞ~」
「お邪魔いたします~」
自分専属のメイドであるプリシアを伴い、シャルロットは翌日の朝一番で彼の部屋を訪れた。
驚かしてやろうと企んで、部屋の鍵を器用に開錠して二人で中へと忍び込む。
客人専用に用意された部屋のひとつ。必要な物は全て揃っており、この部屋は青を基調とした、落ち着いた内装となっている。寝台横のサイドテーブルには、清楚な白百合が一輪。
「ん? 窓が……」
「閉めわちゅれたのでしょうかねぇ?」
小声でプリシアと話しながら、シャルロットは窓の方に奇妙な違和感を覚える。
……誰か、シグルド以外がこの部屋に入った形跡がある。
魔界の者ではなく、これは。
「というか、寝台からも感じるな。この気配は……」
室内に争った形跡はなし。シグルドも……、寝台でぐーすか眠っているようだ。
シャルロットは気配を消して寝台に乗り上がり、そぉ~っと……、毛布の上の方を剥がしてみる。
「……おぉ~、可愛い寝顔だなぁ」
美形に、隙はなし、といったところか。
完璧な美で、あどけない寝顔を見せるシグルドに母性を擽られるシャルロットだったが、背後から小さな可愛らしい悲鳴が上がったのでそちらを見てみると。
「ひ、姫しゃま~っ、シグルドしゃまってば、下……、何も履いてましぇんっ!!」
「……うん、とりあえず、そこは隠してやれ。繊細な男心というものがあるからな」
ついでに、シグルドは上半身も裸のようだ。大事な部分も赤裸々なのかはあえて暴かずにおこう。
……それに、問題は彼の全裸疑惑ではなくて。
「……いるな、もう一人」
「いましゅね~」
シグルドの……、すぐ、隣に。がばりと彼に抱き着いて、健やかな寝息を零している、……黒髪の眼鏡美形。
どちらも戦士としての傷痕を刻んでいるが、その精悍な美しさが損なわれる事はない。
あぁ、なんだろう。すっごくキラキラした光が見える。薔薇が、薔薇が見えるぞぉおおおおおおっ!!
「姫しゃま……、これって」
「プリシア。見なかった事にしよう。……ふふ、ふふふふふふふふっ」
毛布を中途半端に剥いだまま、シャルロットは具現化の能力でスケッチブックとシャーペンを呼び出し、目の前の二人をじっと見つめながら集中し始める。あまりに美しい組み合わせ過ぎて、記念に残しておかねばと、萌えの心が滾るのだ!!
「うわぁ~。流石姫しゃまっ。相変わらず、絵がお上手でしゅね~」
「昔とった杵柄というやつだ」
前世の『彼女』は、読むだけでなく、自分でも萌えを作り上げる趣味を持っていた。
そして、シャルロットも美術系の腕は良い方で、今世でも気に入ったものを描き留めたり、想像して描くという時がある。まぁ、……前回、警備兵のランヴェルクを犠牲にしようとしたシグルドに目撃されれば、
『生BLは求めていないと言っていたはずだが……』
と、冷たい視線を貰いそうな気もするが。
今回は状況が違う。これは無理矢理ではない。
まるでそう在る事が当然のように寄り添っている二人。まさに、芸術作品!!
決して邪な心で描いているわけでは、……ふふ、ふふふふふふふっ。
シャルロットのノリにのった作品はすぐに完成し、プリシアを喜ばせた。
だが、流石に萌えを求める邪一直線の気配に気付かれたのか、シグルドではない、もう一人の男が目を覚ましてしまい……。
「……誰だ?」
「心地良い就寝中にすまない。私はシャルロット。魔界の王女だ。よろしく頼む」
「……王女殿下か。こちらこそ、こんな姿で失礼する。私は天界の精鋭軍、第三部隊の隊長を拝命している、名を、エクレツィオ、と。……ところで、王女殿下は何をしているのだろうか?」
「芸術を形に残していた」
「芸術……」
眠そうな目を何度か瞬くと、新しい天使は上半身を起こして際どい裸体を晒すと、シャルロットのスケッチブックを見たいと言ってきた。
勝手に生BLにも見える二人の姿をスケッチしてしまったが……、シャルロットは怖いもの見たさで描いた物を差し出してみる事に。すると。
「――素晴らしいっ!!」
(怒られるかと思ったら、褒められた!?)
「王女殿下、貴女は美というものを正しく理解し、それを引き出す力を持っておられるのだな! あぁ、美しい……。この、――眼鏡の角度っ!!」
「は?」
そういえば、この男は就寝状態でも眼鏡を掛けっぱなしだな、と、今、疑問が湧いた。
普通は、眼鏡を壊したり曲げたりしないように外して寝るものじゃないのか?
いや、そんな事よりも……。
シャルロットの描いた、『二人の天使、朝の悩ましき魅惑』と命名した絵をうっとりと見ているこの眼鏡天使は、一体……。
「心からの感謝を捧げよう、王女殿下。私でさえ気付かなかった、新たな眼鏡の魅力を描きとめて下さるとは……っ。あぁっ、魔界に来て良かった!! 是非、この絵を譲って頂きたいのだが」
「あぁ、なら、後で複写してからでもいいだろうか? せっかくの貴重な」
シグルドの寝顔だからな。とは、口に出さなかった。
描いている間、どちらかといえば……、シグルドを描く方に熱意を注いでしまった事も。
エクレツィオは口ごもったシャルロットに怪訝な顔をする事なく、承諾してくれた。
「だが……、何故君は、真っ裸でシグルド君の寝台にいたんだ? 夜這いか?」
「いや、徹夜続きのせいか……、ふあぁぁぁ。魔王陛下への挨拶の後」
与えられた部屋ではなく、その隣のシグルドの部屋に入ってしまい、面倒なのでそのまま寝台に潜り込んでしまった、と。……随分と自由な天使殿だ。
彼はその場で伸びをして息を吐くと、また、バタリッ。ぐーすかと寝入ってしまった。
「シグルド君の友達は……、結構濃いのが多いんだな」
フレンドリーなハイテンション男、全裸で友達の寝床に入り込み、眼鏡を掛けたまま眠る男。
そして、当の本人は、無自覚猛攻ストーカー、と。
魔界も個性派揃いだが、天界側もなかなかのようだ。
「姫しゃま、どうしましゅ~?」
「う~ん。丁度良くエクレツィオ君が体勢を変えてくれたから、別バージョンをスケッチする事にしよう」
「ん……」
「「おや」」
エリート軍人のくせに、まったく起きる様子のなかったわんこ天使がお目覚めのようだ。
朝の光に照らされながら開いた双眸。ぼんやりと彷徨う青の双眸が陽の光によって煌めく。
これが女性だったら、美の女神の誕生と評したくなるほどだ。
シグルドはぼんやりとしながら視線をシャルロット達に向け、そして。
「うわっ!!」
「姫しゃま~!!」
鍛えられた筋肉質な両腕が迷わずにシャルロットを捕らえ、がばり!! と、彼女の身体を抱き締めにかかってきた!! ひぃいいいいいっ!! 全裸の男と密着なんて、罰ゲーム以上の拷問だぁあああああ!!
プリシアと一緒に喚くシャルロットだが、相手はエリート軍人!! 数々の戦いを制してきた男の中の男!!
あぁっ、逞しい胸板がっ、顔がっ、顔がっ!!
「うぐぐぐぐぐぅううううううっ!!」
「……シャルロット。良い匂いだ……、すりすり」
「ひぃいいいいいっ!! や、やめっ、やめろっ!! うきゃぁっ、顔にキスをしまくるなぁあああああっ!!」
大事な部分は死守出来ているが、このわんこ……!!
寝惚けているように見えるが、本当にそうなのか!? 寝惚け者を装えば、許されるとでも思ってるんじゃないのか!? ってか、とにかくキス乱舞はやめろぉおおおおおおおおおお!!
そう叫びまくるシャルロットをむぎゅむぎゅと抱き締め、数分が経過した後。
「んっ……? 重い」
「失礼な!! 君が勝手に放さないだけじゃないかぁああっ!!」
「シャルロット……? 何をやってるんだ?」
「そ、それは!! い、今君がやってる事にこそ言いたい!!」
「……あったかいな。もう少しこのままでいよう」
むぎゅううううううううううううううっ!!
ハッキリと目を覚ましても、シグルドはこの状態に疑問も不思議も抱かず、シャルロットを愛でる選択をした。
流石無自覚わんこ!! 今朝も変わらず、本能は大変正直のご様子だ!! ――この馬鹿!!
「くっ!! やめっ、――だぁあああああっ!! 目を覚まさんかぁあああああっ!!」
「姫しゃま~!!」
必殺!! 乙女の全力平手打ち猛連撃!!!!!!!!!!!!!
寝惚けているなら、強制起床だ!! シャルロットの恐ろしい全力制裁がシグルドの両頬に唸る!!
流石に真っ赤っかになった頬と、その痛みに意識を覚醒させない者はいないだろう。
ようやくハッキリと自我を覚醒させたシグルドが、ゆっくりと起き上がり、首を傾げる。
「いひゃい……」
「はぁ、はぁ……っ! デリカシーのない君が悪い!!」
いや、男二人の寄り添う姿をスケッチしていた側もどうかと思うのだが。
シャルロットは自分の事を棚上げにしてシグルドから離れると、スケッチブックを紐でグルグル巻きにして背中に隠した。
「起こしに来てやったんだ。……友達、だからな」
「シャルロット……」
照れ臭そうにするシャルロットの目に、はにゃ~んと嬉しそうに笑うシグルドの姿が映る。
ようやく認めて貰えた事が、友として受け入れて貰えた事が嬉しくて仕方がないと叫ばんばかりの幸せオーラが溢れ返っているわんこ天使に、……きゅん、と、危険な感覚がっ。
いやいやっ!! 無意識生BLもどきを目撃したせいだろう!! その萌えが続いているだけだ!!
シャルロットは自分の胸を押さえ、無理矢理に彼の意識を別方向に向けさせる事にした。
「そ、そういえばっ、き、君達天使はっ、その、……、と、とても仲が良いんだな!! は、一緒の寝台でくっついて寝る習慣があるとは思わなかった!!」
「……何の事だ?」
ちらり。シグルドの視線がすぐ斜め下に向かう。――と。
「――っ!!」
「すぅー、すぅー。……眼鏡との美的融合の、……角度、が」
BL本を見た時でさえ、シグルドのこんな青ざめきった顔は拝めなかったというのに。
彼は隣ですやすやと眠っている同族の姿を認識した瞬間、漢らしく毛布を跳ねのけて立ち上がった!
――あ。
「ぎあぁああああっ!! な、何をやってるんだっ!!」
「きゃぁあっ!! 姫しゃま~!! 男性の生全裸でしゅ~!!」
「何を喜んでるんだ!! 流石に真っ裸の姿なんぞ楽しむ趣味はっ、――あれ?」
息を荒げてその美しい裸体を晒したわんこ天使だったが、安堵すれば良いのか、残念に思うべきなのか。
彼の大事な部分は、黒い……、あぁ、そうだ。
地球の男性達が履いていた、まさにトランクス!! あれと同じような布に守られていた。
だが……。
「そっちは、全」
「目を閉じていろ、シャルロット」
「い、いやっ、あのっ、エクレツィオ君をどうする気なんだっ、シグルド君!!」
「捨てる」
「捨てる!?」
まだまだぐっすりお休み中の眼鏡天使の腕を掴み、窓を開けたシグルドが取った行動。
それは、本当にゴミ出しの日の主婦のように、エクレツィオを、――ポイッ!!
……バタンっ。
「エクレツィオくぅううううううううううううううううん!!」
「あんな奴の音など呼ばなくていい。俺の名を呼んでくれ、シャルロット」
「このド阿呆ぉおおおおおお!! ここは三階だぞ!! 寝てる奴をポイ捨てなんかしたらっ!!」
「戦場では、寝ている時に魔物や敵から襲われる事もある。大丈夫だ。……ふっ」
「今なんか黒いニヤリ顔したぁああああああああああああっ!! 黒いっ、黒いぞっ!! シグルド君っ!!」」
そうだった。このわんこは純粋培養かと思ったら、たまに黒い面も見せる奴だった!!
あぁ、哀れエクレツィオ……。三階から落ちただけでなく、まさかの全裸で。
『きゃあああああああああああああっ!!』
「……公然猥褻罪もかっ。くっ」
涙を禁じえないシャルロットであった。
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