第7話 さて

 さて。


 変装盗賊団「マッド☆ハッタ―」といえば、寡聞の店長でも知っている今代一の大悪党で、その名を電話で伝えるとすぐに驚きと共に情報提供された。


 店長曰く、変装盗賊団「マッド☆ハッタ―」とは、主に宝石類を中心とした窃盗を繰り返す劇場型の犯罪集団で、その最たる特徴は変装技術にあるという。数年前から国際指名手配されており、警察のみならず彼らに変装された者たちで組織された二次被害者の会からもその首を狙われていたらしい。

 

 最近では、新しく入った盗賊団員を日本のとある劇団に入団させて演技力を磨かせていたらしく、その一件から彼らが日本入りしていることが知れ渡って警察界隈では警戒されていたそうである。しかし、彼ら「マッド☆ハッタ―」の犯罪手口があまりに珍妙であったため、報道規制が敷かれていて、ネット情報を除いて世間一般に「マッド☆ハッタ―」来日は、知られていなかったということだった。


「なんだそれは」


 随分な珍客だ。それこそ、チョーカー自殺願望者を大いに上回る。

 店長からことの顛末を補完されたときに、俺はそう思った。


 この店の夜間帯勤務を初めて早いことに半年が経つ。前任者から、引き継いだ仕事にもようやく慣れてきたと思ったところであったが、国際指名手配の変態変装集団に襲われるなどということは想定できていなかった。


 どういう訳か、このファミレスには、数多の珍客が訪れる。


 それこそ、自殺願望の酔っぱらいなど可愛いもので、時には己の身の危険を感じるような相手に出くわすことも少なくはなかった。


 珍客万来の機運が立ち込めたファミレス。


 俺に、深夜帯の仕事を教えてくれた恩義ある吉沢先輩は、このファミレスを去る際に、そう言っていた。


 ファミレスの通常業務や閉店作業自体はそれほど大変ではないけれど、珍客の相手は骨が折れる。時給に遭わないと感じることも多い。


 ――けれども、珍客たちを上手く往なした時、きっと君はお金で買えないものを得ているはずだから。


 吉沢先輩の言葉を思い出しつつ、俺は店長に言った。


「いいから、時給あげてくださいって」

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