ファイルツー 消えたアタッシュケース

第1話 本日もやってきたサパーの時間

 本日もやってきたサパーの時間。


 いつも通りに閉店作業を進めつつ、時折やってくる注文をさばく。

 平日の夜ということもあってか、午前零時を過ぎるころには客もまばらだった。注文も少ないから、週に一度の厨房の床掃除も捗るというもの。


 これなら、今日は午前二時の閉店時間通りに店を閉めてタイムカードが切れそうだ、と思って額の汗を袖口で拭った矢先のことだった。


 叫び声とガラスの割れる音、二つの音がホールから聞こえた。

にわかに嫌な予感がして、キッチンとホールをつなぐ観音開きの戸に設えられた、のぞき窓からそっと、ホールの様子を覗った。


 ホールでは、四人の男女が立ち尽くしていた。

何やら小太りの男が若い女を指さして唾を飛ばしていた。若い女の方は、小太りの男へ顔も向けずに腕組みして知らんぷりをしており、その二人の傍らにあって、苛々と足踏みをするいかつい顔の男がいた。


すると、いかつい顔の男が突然、小太りの男と、若い女の間に入って何やら喚き散らし始めた。いかつい男に触発されたのか、若い女はそれまでのだんまりを一転させ、小太りの男といかつい男へ向かって参戦を表明するがごとく、筆舌に尽くしがたい暴言を捲し立てていた。


 三者の間に渦巻く不穏な気配はさしずめ、核戦争へ突入する間際に小競り合いをしているようであって一瞬即発の機運は、彼らから遠く離れたキッチンからでも感じることが出来た。


 なんなんだいったい。


 折角今日は早く帰れると思った矢先にこれだ。厄介ごとは勘弁願いたいから、さっさと警察を呼んでお開きにしようかとも思ったが、その前に。

 小太りの男、若い女、いかつい男から一寸距離を置いたところに、もう一人。

膨らませたほっぺたに人差し指を当てて遊んでいる女がいた。


「何やってるんだ、中林のやつ」


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