第2話

 最初に飛び込んできたのは、うすぼんやりと明るい部屋の天井。ついで枕元の時計を見れば、時刻は朝の5時。起き出すにはいささか早い。

 「……夢、か……」

 俺は時計を放り出すと、乱れた前髪を雑にかき上げた。それから、その手のひらをまじまじと見る。

 「……久しぶりに見たなぁ……」

 寝起きでかすれた聞き取りにくい声も、一人暮らしの部屋にはやけに大きく響く。俺はため息をひとつつくと、ぼんやりと天井を眺めた。

 俺には初恋の人がいる。

 顔は知らない。憶えていない。でも、たしかに俺は、あの人に恋をしている。

 そんな話あるわけないと思うだろう。

 だが、出会ったのが夢の中なら?

 幼いころに夢の中で会った人を俺は今でも忘れられないでいるし、あまつさえ恋心を抱いている。ロマンチストだと笑うかもしれないが、小さかった俺はいつか絶対会えると信じて疑わなかった。今も、さすがに昔ほどではないが、どこかでその叶うはずもない夢を捨てきれずにいるのだから、我ながら大概だと思う。

 (だいたい、顔もわからない相手なのにどうやって見つけるっていうんだか……)

 ため息をついて、俺はベッドから起き上がった。数歩で部屋を横切り、カーテンを開ける。ワンルームの飾り気のない部屋が朝ぼらけにぼんやりと照らされた。

 俺は日の昇る直前の、この時間帯がことさら好きだ。鮮烈な朝日がビル群の稜線を越えて差し込む直前、世界が薄青に染まっているかのように見えるこの時間が。

 (……きた)

 そうこうしているうちに、朝日が一筋。黄金色の光が部屋にまばゆく差し込む。その光を一身に浴びながら背伸びをして、俺はよし、とひとつ気合いを入れた。

 「さて、頑張りますか」

 きっと今日も良い一日になる。そんな予感がした。

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