#3 それが死神さんの優しさです
あれから何時間が経っただろう。窓はついさっきまであんなに騒がしかったのに、今ではもうただの囁き声だ。
「……死神さん。まだいますか……?」
下を向いたまま、そう投げかけた。返事はすぐに返ってきた。
「ああ、俺はいるぞ」
顔を上げてみると、すぐそこに立っていた。
「まだいるんですね……」
私がそう言うと、すぐに死神さんは言った。
「お前の最終的な決断をまだ聞いてないからな」
死神さんの後ろの壁にかけてある時計を見てみると、お昼の時間帯はとっくに過ぎていた。朝ごはんも食べていなかったけど、お腹は全然空いていなかった。
「死神さんってお腹が空いたりしないんですか?」
私はふと浮かんだ疑問を死神さんに投げかけた。
「見て分からないか? 俺の体に肉はない。だからそもそも食事の必要がないのだ」
「へえ」
よく考えれば簡単なことだった。見た限り内臓もないのだからお腹が空かないのも当然だった。そしてさっきからずっと思っていたことを言った。
「じゃあ、そんなところにずっと立ってて疲れないんですか? 座ったっていいんですよ」
死神さんの表情が少し和らいだ感じがした。
「確かに足は疲れているな。肉体も食欲もないのに足の疲れがあるとは、困ったものだな」
何だろう。感情なんて見えるはずもないのに、少し笑顔が見えた気がした。
「では遠慮なく、座らせてもらおう」
そう言いながら、死神さんは私の方へ歩き始めた。そしてそのまま私の横に座る。
「なあ、俺の話を聞いてくれないか」
突然死神さんはそう言った。私はすぐに返事を返した。
「もちろんいいですよ。さっきは私の話を聞いてもらいましたし」
「そうか、ありがとう。だがお前の話を聞いたのは、単にそれが『義務』だったからだ」
死神さんはそう言った。でも私は、
「そんなことはどうだっていいんですよ。私は話を聞いてもらえて、満足しているんです」
私は続けて言った。
「それに私、私の死の理由をしょうもなくないって言ってもらえて、立派だって言ってもらえて、なんだか嬉しかったんです。だから、」
私は死神さんの顔を、その空っぽな目を見つめて言った。
「だから、『義務』だなんだとかは関係ありません。それが死神さんの優しさです」
「……」
数瞬の沈黙の後、死神さんは口を開いた。
「人間にそこまで言ってもらえるとは、光栄だな」
そう言った死神さんはなんだか嬉しそうだった。そして、
「褒められるなんてことは初めてだ」
少し恥ずかしそうだった。
「死神さんにもそういう感情ってあるんですね」
「ああ、死神といえども『心』というものはある。お前たち人間となんら変わらない『心』がな」
死神さんはそう言った。
「それじゃあ、話を戻しましょう」
私は言った。
「死神さんの話、聞かせてください」
窓から少しずつ太陽の光が差し込み始めていたことに、私はまだ気づいていなかった。
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