二 雨が降ったら、地が崩れ平らになり、川がそれを削る

○ 公会堂 一室 日替わり 7月


ハル  「十五歳になったので、生まれた街を見に行きました・・

    今日は皆さんに、帰還困難区域の現状を報告させていただ

    きます・・」

     薄暗い会場、何人かの老人や若者らが椅子に座り、映像

    を見ている。

     プロジェクターに映し出される絵。

     立入禁止のゲートが開き、進行するバスの窓越しの映像。

     そのガラスに映るハルの顔。

      XXX

     無人の街に動物たちの姿、舞い踊る紙くず。

     アスファルトを突き破り咲く花。道路の逃げ水、蝉の声

    が響く。

      XXX

     草の玄関を開け、家の中に入ると、動物のフンなどが

    散乱している室内。

      XXX

     海岸に残された瓦礫、カメラが振るえ嗚咽する声。

      XXX

ハル  「まだ私たちは街に帰ることが出来ません・・でもいつか

    ・・時間が経てば解除させ、戻ることが出来るでしょ・・

    それは私達が望んたこと?それとも役人が決めたこと?

    ・・・どれだけの人が戻るのでしょうか・・失った物、

    失った時・・亡くした記録も記憶も・・また新しく

    創っていくのです」

     映像が止まると、晴心が部屋の明かりが点灯する。

     礼をするハル。

     聴衆がポツポツと拍手する。

      XXX

     ハルと晴心が片付けをする。

     君星 らんぶ(15)が話しかけてくる。

らんぶ 「悲しい話だね・・」

ハル  「そうでもないよ」

晴心  「悲しいって言うか・・むなしいかな?」

    ハルと晴心が手を止める。

らんぶ 「私は、事故で母を亡くしたんだけど・・」

ハル  「重い話?」

晴心  「結構ハードな話を、聞いたばかりだけど・・」

らんぶ 「ゴメンね・・どうしても聞いて欲しくて」

    らんぶが話し始める。

    ハルと晴心、椅子に腰掛け、話を聞く。


○ (らんぶの回想)らんぶの家 過去 


    肩を寄せ合うらんぶ(13)と、君星 蘭人(弟10)。

豊   「今日から、新しい家族・・お母さんと呼ぶこと」

    君星 豊(父45)、隣に、君星 イセリ(義母38)。

    らんぶが蘭人の肩を掴んで抱き締める。

イセリ 「・・急には、無理だよね・・でも」

豊   「大丈夫!・・なぁ、らんぶ!」

らんぶ 「・・・」

蘭人  「・・・」


○ (らんぶの回想の回想) 小学校正門前

     電話するらんぶ。

らんぶ  「ママ!、塾!、遅れちゃうよ、早く来て!」

     いらだって怖い顔で、電話を閉じる小学生のらんぶ。


○ (らんぶの回想の回想) らんぶの家 日替わり

     骨箱の前に、母の遺影。らんぶと豊。

     無邪気に遺影に話しかける、蘭人を見る。

      XXX

     (回想)フラッシュバック

     走る母の車、逆走した対向車が目の前に・・・

      XXX

らんぶ 「ママ、ゴメンね・・らんぶが、急がせなきゃ・・」

豊   「お前のせいじゃないんだ・・・運命だから」

蘭人  「ママ、お星様になっちゃった・・」

らんぶ 「誰がそんなこと・・死んだんだよ、ママは(号泣)・・」

豊   「らんぶ・・・」

    らんぶが背中を丸めて伏せ泣く。


○ (らんぶの回想の回想 戻り)らんぶの家

     

らんぶ 「パパは、もうママの事、忘れた?」

豊   「いや、もちろん忘れては居ない・・ただ・・」

    イセリを見る豊。

イセリ 「私の事はいいから・・」

豊   「・・パパも恋することは忘れたくなくて・・」

らんぶ 「・・・娘の前で・・」

イセリ 「よく言うわよね・・はずかしい」

豊   「忘れないと次の恋を始められないことはない!」

    顔を赤らめる豊とイセリ。

らんぶ 「・・・」


○ (らんぶの回想 戻り) 公会堂 一室 7月


    ハルと晴心は、片づけを終え、らんぶが飲み物を二人に渡す。

晴心  「・・・ありがと」

ハル  「・・・サンクス」

らんぶ 「でもね、やっぱりママって呼べなくて・」

    飲み物を一気に口に入れる。

ハル  「苦しいね・・」

晴心  「受け入れられないか・・」

らいぶ 「・・・うん」

    その顔は前を向いているように見える。

ハル  「一緒に暮らせない?」

らんぶ 「弟は、ママって呼べたけど・・私は・・」

ハル  「・・ねぇ私と一緒は?」

らんぶ 「一緒?」

ハル  「私に任せて・・ねぇ!」

晴心  「・・えぇ!」


○ 晴心の部屋 その後 7月


     机に並んで座り、勉強する晴心とハル。

ハル  「ねぇ、やばいょ、英語って何で勉強するの?」

晴心  「・・うぅ・・今更?」

    ノートに筆記用具を投げる。

ハル  「遠い街に行くため?」

晴心  「・・地球の裏側に行くため・・いつか行きたいね」

ハル  「そこには何があるの?」

    教科書を裏返してみる。

晴心  「何かがあるからって、ことじゃなくて・・」

ハル  「・・あぁ~っ」

    ベッドを背もたれにして、背伸びする。

ハル  「そこって、綺麗な所?」

晴心  「どうだろう?ジャングルがあるよ」

ハル  「ジャン・・グル?」

晴心  「人間が誰もいない所」

ハル  「私の生まれたところもジャングルになるのかな?」

晴心  「いつか必ず戻れるよ・・だぶん」

    ベッドに寝ていた、らんぶが起き上がる・・。

らんぶ 「・・あ~、寝ちゃってた・・」

ハル  「・・・起きた」

晴心  「結構寝てたぞ!」

らんぶ 「(あくび)はぁ・・ねぇ悪戯してないよね?」

    と、胸元を整える。

晴心  「鏡・・・見てみれば」

らんぶ 「・・・えっ!」

ハル  「(含み笑い)・・」

晴心  「・・・(笑い)」

らんぶ 「・・ヒぃ~ゲ!」

    らんぶの顔にヒゲが書かれている。


○ 高校 教室 日替わり 7月


    晴心、ハル、そして、らんぶ。

    机を囲む。

晴心  「ハル?・・らんぶさんって、このクラスだった?」

ハル  「そうだよ、なぜ?」

晴心  「この前、会ったばかりな気が・・」

    らんぶが包みを開ける。

らんぶ 「今日は、私がお弁当係です、二人は黙って食べること」

晴心  「・・味が微妙だから?」

ハル  「これはリハビリだから・・」

    らんぶがふたを開けると、微妙な空気が流れる。

晴心  「・・・リハビリになってるの?」

ハル  「恋人が出来れば・・」

らんぶ 「きっと勇気が産まれるかも・・でも」

    フォークでゆで卵を突き刺して。

ハル  「怖い?愛されるのに慣れてないと、愛するのも・・」

晴心  「・・・」

らんぶ 「分らない・・」

    敬と英治、大迫紗子(15)ら同級生が集まってくる

敬   「わぁ、すげぇ・・」

英治  「なんで!晴心だけ」

紗子  「女子力高すぎ!・・私のお母さんになって欲しい」

晴心  「・・・(目を細め)」

紗子  「あぁ、ゴメン・・盗らないよ」

らんぶ 「・・・」

ハル  「・・みんなでシェアしようよ!」

    指を立て、提案する。

紗子  「!、ピクニック!夏休みはキャンプ!」

敬   「おぅ!いいね」

英治  「よっし、決まりだね」

らんぶ 「・・・」

ハル  「男子もなにか持ってるくんだよ」

晴心  「・・俺は、団子!」

敬   「ズル・・・英治・・何にする?」

英治  「食い物?・・だったら・・バナナかな」

紗子  「BBQだろが!」

    栄治の胸に平手で突っ込みを。

晴心  「あぁ・・炭・・」

敬   「あぁ・・コンロ・・」

栄治  「・・あぁ、肉・・だね」

    納得する栄治。


○ 晴心の家 居間 日替わり 8月


    居間でくつろぐ誠一郎と晴心とニイノ、らんぶ、

   のいん(妹12)。

ニイノ 「・・・そうなの、来たのよね・・のいん!」

のいん 「・・・うん(恥ず)」

誠一郎 「そうかい、早いもんだな・・大人になるのわ」

晴心  「・・・あんなちびが・・」

ニイノ 「それがさ、急だったからハルちゅんに借りようとしたん

    だけど・・持ってないって・・生理用品」

らんぶ 「で、私が・・ね」

晴心  「・・・」

ニイノ 「生理も知らないって・・」

晴心  「生々しいな・・」

らんぶ 「・・・生きるのは痛いよ」

ニイノ 「ハルちゃん、時々そういう時?痛い時?、あるよね」

のいん 「・・スマホをゲーム機?って・・」

晴心  「そう言えば、ハル、スマホ持ってないね・・・」

ニイノ 「あれ、晴心と一緒に買ったでしょ!」

晴心  「・・・だったっけ?」

らんぶ 「私・・まだガラケー(泣き)」

     スマホを見ると着信。

晴心  「・・あぅ!、ハルから・・」

のいん 「補習終わったって?」

ニイノ 「夏休みなのに大変ね・・」

晴心  「じゃ、迎えに行ってくる」

誠一郎 「晴心は、補習しなくていいのか?」

らんぶ 「ギリだけどね」

晴心  「余裕ショ!」

誠一郎 「義理堅いのう!」

らんぶ 「・・・」

のいん 「・・・?」

晴心  「?」

ニイノ 「ハァハァ・・やだ」


○ 湖沿い 日替わり 夏休みの割と初めの日 8月

     雨の湖畔、晴心、ハル、らんぶ、敬と英治、紗子

敬   「あぁ~雨・・テンション下がるぜ」

紗子  「予報だと、晴れだったのに」

ハル  「雨の香りも好き・・」

    傘をさして、湖の方を見る、かすみが漂っている。

晴心  「どんな香り?」

らんぶ 「わかる・・・けど、なんだろ?」

英治  「湿気・・?」

音   (ごろごろ~)

    遠く、雷鳴が聞こえる。

紗子  「きゃ~!」

ハル  「・・・」

    ハルの晴心の手を握る力が強く感じられると、黒い雲が流れ、

   晴れ間が射しだす。

     XXX

    山歩きを終えて、到着する六人」。

紗子  「・・ピクニックなのに、ハードだったょ・・・」

敬   「もっとキツくてもいいぞ!」

    辺りを走り回る敬。

栄治  「・・・歩いた歩いた・・」

晴心  「・・・着いたぁ」

ハル  「ねぇ、晴心!向こうの松の下にする?」

    晴心の肩に寄りかかる。

らんぶ 「東屋にしようよ、日焼けしちゃう・・」

    晴心の腕を、つかんで引く。

紗子  「そう、UVキツイし」

ハル  「UV?・・あぁ紫外線」

英治  「日焼けした女子も好きだな、夏だし」

ハル  「ガングロ!」

紗子  「やだ、そんなの死に絶えたょ」

    胸の前で腕を組む。

らんぶ 「・・・」

ハル  「・・・」

晴心  「・・・あぁ・・じゃ東屋で・・」

    二人に挟まれて、移動する晴心。

     XXX

    東屋で、お弁当などを食べる六人。

紗子  「夜は、カレーとBBQだねぇ!」

らんぶ 「良かったね、手ぶらでキャンプ出来る所で」

ハル  「私、キャンプ初めて・・」

紗子  「高学年でやらなかった?」

らんぶ 「フォークダンス・・最悪だよね」

ハル  「スプーン曲げじゃなくて?」

紗子  「ぽっか~んだねぇ!、意味不明」

らんぶ 「フォークダンスは・・・待て・・操作慣れないな・・」

    スマホを操作するらんぶ。

らんぶ 「フォークダンス!」

    スマホに話しかける。

らんぶ 「これこれ!」

    ハルに画面を見せる。

ハル  「・・楽しそう、男子と手つないでる!」

晴心  「行こう、テントで、しよう」

ハル  「うん・・」

晴心  「早く・・・虫除け!、あぁ~蚊が・・すごい!!」

     XXX

     (夜、キャンプファイヤーの前)

     スマホで音を流しながら、フォークダンスを踊る六人の

    点描。

     XXX

     手持ち花火をする六人の点描。

     XXX

     湖畔の桟橋に、晴心とハル。

ハル  「ここ・・怖い」

晴心  「大丈夫だよ・・気持ちいいじゃん」

ハル  「嫌!」

    走り出すハル、林に入っていく。

晴心  「・・・待って」

    林の中、ハルを捕まえる晴心。

ハル  「・・(泣き)・・・」

晴心  「ここに・・」

    切り株に座る二人。

     XXX

ハル  「重力って不思議だよね」

晴心  「重力?」

ハル  「そう、地球が回ってるから、重力があるんだって」

晴心  「・・だね、周ってる感じしないけどな」

ハル  「でしょ、でもそうなんだって・・もしなかったら、

    すべて宇宙に飛んでいくのかな?・・・そしたら」

晴心  「そしたら・・・」

ハル  「世界が終わるね・・(微笑)」

晴心  「・・・だね、見て夏の三角、七夕だね」

    銀河に流れる天の川を見つめて。

ハル  「織姫と彦星は1年に一度しか会えないんだ、でも、宇宙

    からしたら、人間の1年なんて一瞬だよ、そしたら、

    いつも会っているのと同じだね」

晴心  「夢をつぶすなぁ・・」

     XXX

    ハルの手の平に蛍光(ホタル)が一つ、留まって瞬く。

    そしてハルの周りに数えくれない蛍光が・・

    眩しくて直視できない程の輝きの中に、神々しい光明。

晴心の声「・・・なんて眩しんだ!まるで星が降りてきたみたいだ

    ・・」

     XXX

    やがて、輝星が天に帰っていく。

ハル  「ねぇ、星に、願って・・」

晴心  「・・ぅ何を」

ハル  「願い・・あなたの願い」

晴心  「・・それは・・ハルと・・」

ハル  「私と・・」

晴心  「永遠に・・織姫と彦星のように」

ハル  「それは・・どうかな?」

晴心  「・・・夢潰し」

    左手で鎖骨あたりを擦る。

     XXX

    カノーブスが湖面に赤い龍燈を映す。


○ 和菓子店 晴心の部屋 日替わり 深夜


    (晴心の夢)

女   「うぐぐ・・」

晴心  「・・・」

    女の体、その胸を揉む晴心。

晴心  「うぁ・・ぁ・・」

    夢精してしまう晴心。

    (洗面所)

    洗面台、下着を洗う晴心。

らんぶ 「晴心君・・どうしたの?」

晴心  「あっ、ぇ・・何でない」

    下着を隠す晴心。

らんぶ 「・・・」

晴心  「お前こそ、何?」

らんぶ 「眠れなくて・・それに・・」

晴心  「バイト?」

らんぶ 「うん、五時からだから・・」

晴心  「コンビニって・・」

らんぶ 「ハルちゃんを起こしたくないから・・」

晴心  「・・ハルは爆睡だから」

らんぶ 「そうね」

    手の中の下着を洗濯機に入れる。

晴心  「色んな人来るでしょ?」

らんぶ 「朝弱そう・・、コンビニに来る人って、大抵一人だね」

晴心  「だね・・・夜は若い女性のバイトは辞めて欲しい・・」

    洗濯機のボタンを操作する。

らんぶ 「シャイなのね」

晴心  「普通みんな、そうだけど・・・」

らんぶ 「パンツ・・汚すのも・・」

晴心  「・・・」

    洗剤を投入する。

らんぶ 「そう言う事って、親に相談する?」

晴心  「・・イヤ、しない」

らんぶ 「そっか・・・だよね」

晴心  「・・・見られた」

    廻りだす洗濯機。


○ 川辺 橋の上 灯籠流し、花火大会 8月お盆 夜


    橋の上、晴心、敬と英治、ハル、らんぶ、紗子は浴衣姿。

    小さな子供が、大人の手を引いている。

    恋人達が一つの綿菓子をちぎる。

敬   「晴心!朝ぶり」

英治  「朝れん、てか早朝練習って辛いな」

紗子  「熱中症予防?」

ハル  「熱中?」

紗子  「昼間暑いでしょ、だから、のぼせるってゆうか・・

    そんな感じぃ」

らんぶ 「地球が熱くなってるから」

    湿った空気と、川風が交互に行きかう。

ハル  「生きてるんだ、ちっぽけな・・人間は」

紗子  「傍若無人な振る舞いを・・なんてねぇ」

晴心  「・・・あぁゴメン聞いてなかった」

    団扇を、高速で振動させる敬。

敬   「要は、・・暑い・・なんせ暑い」

英治  「更新!更新!・・記録更新!」

紗子  「ぼやくな、暗くなっても、この暑さだけどぉ」

     灯籠が流されてくる、所々で岩に引っかかったりしている。

     水面の危うい亡霊に映る槐夢。

ハル  「なぜ流すのか」

晴心  「霊を送るため・・」

らんぶ 「どこへ・・」

紗子  「キレイだよねぇ」

敬   「幻想的って奴」

英治  「幽幻・・本当に霊がいるみたい・・」

ハル  「・・・」

    流れた灯篭が橋下に、消えていく。

晴心  「ちゃんと下流で回収するから」

紗子  「回収されちゃうんだょ・・」

敬   「・・・打ち上げ花火、始まる前に焼きそば・・なぁ」

英治  「イカ焼きがいいな」

紗子  「私!たこ焼きぃ、晴心はぁ?」

晴心  「俺、団子持ってきたから・・」

    プラスチックバッグを持ち上げて示す。

紗子  「おぉ、相変わらずの自前かぁ」

らんぶ 「おばさんが無理に渡すんだよね」

晴心  「バイト代・・・なのだ」

ハル  「・・・(ハァ)」

    流れ星の龍が垂直に登っていく。

音   (バァ~ン)

    夜空に花が咲く。

    見上げる人々の、驚嘆の声。

    花火の一瞬の煌き、その体中を震わせる振動。

    耳を塞ぐハル、しかしその瞳に映る光のページェント。


○ 和菓子店 店内 9月


    誠一郎から、和菓子の作り方を教わる晴心、手伝うハル。

    割った栗から、身を取り出す晴心とハル。

ハル  「栗から、作るんですね」

誠一郎 「そりゃそうだよ、地物だから」

晴心  「栗は始末が大変だ」

ハル  「晴心は、この店を継ぐの?」

誠一郎 「早くしないと、俺ももう年だから・・」

晴心  「大丈夫だよ、まだ10年は・・」

誠一郎 「あっと言う間だよ、10年なんて・・」

ハル  「ですね・・」

    栗を裏ごしする誠一郎。

誠一郎 「ハルちゃんみたいな、看板娘が居るから、繁盛するぞ!」

ニイノ 「はいはい、私のボロ看板では、お客さん逃げますよね」

    と、顔を見せる。

誠一郎 「いやいや、ニイノさんが嫁いで来てくれたから、この店は保ってるんだよ」

ニイノ 「いやいや、お義父さんの腕ですよ・・腕!」

    腕を叩く。

ハル  「そうやって、傷を舐め合って、テンション保つんですね、勉強になります」

晴心  「傷を舐めあっているって・・なんか違う?」

誠一郎 「渋皮が入りすぎだ、もっと丁寧に・・」

    栗の身を確認しながら。

ハル  「は~い!」

晴心  「・・・難しいな」


○ 和菓子店 店頭 9月


    和菓子を買いに、店にレイ(10)と峰雄(39)が来る。

    ショーケースの中を覗き込みながら。

レイ  「栗きんとん?」

峰雄  「そうだね・・えっと!」

ハル  「お決まりですか?」

峰雄  「・・・ぁ」

ハル  「(笑み)」

レイ  「!・・・」

    ハルの笑顔を、見つめるレイ。

誠一郎 「あぁ!・・良かったって言うか、その・・」

    悔やみの言葉を捜す誠一郎。

峰雄  「まぁ、良かったでいいです」

誠一郎 「行かれてます?避難区域」

峰雄  「はい・・まだ見つからない方のお手伝いでもあり」

レイ  「栗きんとん?」

    峰雄のひじを引くレイ。

峰雄  「・・栗きんとん・・二箱」

ハル  「はい・・栗きんとんですね」

レイ  「・・・あぁの・・」

ハル  「・・えぇっと・・袋は・・一つで良いですか?」

レイ  「良いよね・・・お父さん?」

     誠一郎と峰雄がテーブルに、ニイノがお茶を出す、

ハル  「レイ・・ちゃん、いつもありがとう」

レイ  「・・私の名前を?・・お父さん・・・」

ハル  「(微笑み)」

ニイノ 「・・・うぅ?」

誠一郎 「そうですか、お葬式を?」

峰雄  「えぇ、家族だけで、ですけど・・」

誠一郎 「見つけてもらって、喜んでるでしょうね」

    レイにお菓子を食べさせるハル。

ハル  「・・・美味しい?レイちゃん」

レイ  「美味しい、ここのお菓子」

ハル  「良かったね」

レイ  「・・・」

峰雄  「・・・現地に祭壇も作ったんですよ」

    誠一郎に写真を見せる。

レイ  「私はまだ行けないんだよ・・」

ハル  「私は行ける・・必ず行くんだ」

峰雄  「ハルさんも来てくれたら・・・きっと・・」

ハル  「・・・」


○ 晴心の部屋 その後

     勉強する晴心とハル、らんぶ。

     テーブルの上には、スナック菓子の袋とノート。

晴心  「英語が全く?」

らんぶ 「よく高校合格できたね?」

ハル  「・・・」

晴心  「・・・中学の教科書は・・」

     ダンボール箱を探す晴心。

らんぶ 「全教科だよ!」

ハル  「社会とか算数とか・・」

晴心  「・・あった!もう捨てようとしてたんぞ」

ハル  「何だこれ?ちんぷんかんぷんまんぷんこんぷんだよ」

らんぶ 「やっぱり不思議ちゃん・・」

    やや、体を引き気味のらんぶ。

ハル  「こんなに・・あっ!落書き!」

    テーブルに教科書を置くため、スナック菓子を排除する晴心。

らんぶ 「パラパラだね、こうやってめくってくと・・」

ハル  「わぁ、動いてく!すごい」

晴心  「勉強しないなら出てってくれる」

    教科書が積まれていく。

らんぶ 「するする・・・ねぇ・お・と・なの勉強もしようよ」

ハル  「・・へぇ?」

晴心  「What it?」

らんぶ 「はっきりしてよ・・」

    教科書の間に挟まる紙、広げて慌てて丸める晴心。

晴心  「・・・はい?」

らんぶ 「どっちが好きか?」

晴心  「・・・はぁ?」

らんぶ 「好きな方にキスして・・私達、眼つぶってるから・・ね」

ハル  「・・うぅ~ん」

     目を瞑るらんぶ、慌ててハルも目をつむる。

晴心  「・・・あのね、ふたりにはそうゆう感情ないから・・」

    でこを指で突くと払いのけるらんぶ。

らんぶ 「良いのかな?ここはドロドロした三角関係が有ったほうが

    ・・よろしんじゃ?」

晴心  「すでに、かなり混沌としてる」

ハル  「混沌?・・・」

晴心  「混乱!パニック!」

ハル  「パニック!・・・頭の中が煮えてるよん」

    髪の毛を乱していくハル。

らんぶ 「この公式は三角関数だよ!三・角・・・」

ハル  「三角?・・・」

らんぶ 「また、零点取るつもり」

ハル  「満点がほしい!」

らんぶ 「恋に満点は無い!」

ハル  「?」

らんぶ 「私はいつも平均点・・」

ハル  「私は・・・」

晴心  「あっ、ごめん寝てた・・」

らんぶ 「・・・」

ハル  「・・・」

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