うららか槐夢(かいむ)
@thukikage
一 始まりの時は、いつもどこにでも訪れるものである
○ (回想)浜辺から見える高台の公園 3月
浜辺から見える高台の公園。
人々が手に手にスコップを持って、桜の木を植えている。
誠一郎と晴心、らんぶと光一も桜の木を植え、そこに札を
縛り付ける。
札に書いた言葉(約束通り、桜の木を植えます。晴心)
(鳥瞰)
穏やかな波間に、小島。砂浜に打ち寄せる白い波、陸地に
更地が広がる風景。
晴心の声「僕らが出会ったのは、偶然なのか、必然なのか・・・
今はわからない・・・」
○ 古い家の座敷 朝 4月
朝の食卓、新聞を見る上下白い服、頭髪はさっぱりしている
神呂木 誠一郎(祖父74)。
食事する、神呂木 のいん(妹12)中学生の制服姿。
流し台にエプロンの 神呂木 ニイノ(母42)。
Gパンにトレーナーの、神呂木 晴心(15)が慌てて
行こうとする。
ニイノ 「行ってらしゃい!お弁当持ったよね」
晴心の背中に呼びかける。
晴心 「あぁ・・これ?」
寝ぼけ顔で、テーブルの小さなピンクの布バックを持つ。
のいん 「お兄ちゃん!・・それ私の宿題!」
晴心 「・・・あそっ」
ニイノ 「やだ・・もう5月病?(笑い)、ほらこっち!」
青い布の包みを、晴心のスポーツバックに押し込む。
食卓から、声をかける誠一郎。
誠一郎 「晴心、やっぱりそうだったって・・」
新聞の紙面を指差し、老眼鏡を額にずらす。
晴心 「なに?、学校だから、急ぐんだけど」
ブレザーの上着に腕を通しつつ。
誠一郎 「避難区域で見つかった骨、あの少女だって」
新聞を晴心に見せつつ。
晴心 「行方不明の子供を探してたお客さんの?」
紙面を覗き込んで。
誠一郎 「その人が探していた娘さんの骨だって確認されたそうだ」
晴心 「立ち入りが制限されて・・それでも毎週何時間もかけて
通って、探しててんたよね」
誠一郎 「最初は独りでな」
晴心 「そのうち仲間が増えたんだよね。じいさんも一度行った
よね」
XXX
(回想)フラッシュバック
海岸で砂を掘っている数人の防護服姿。
その中に誠一郎の姿。
のどかに煌めく波のせせらぎ、優しく吹風。
XXX
誠一郎 「あそこには年寄りが行くの方がいい」
晴心 「そうかな・・」
食卓の漬物を口に入れて。
誠一郎 「探しに行くのに、桜餅を買っていって供えてくれてた」
晴心 「・・あの日の数日前の節句に食べた桜餅なんだよね」
誠一郎 「その娘さんが好きだった桜餅とは違うけど、オレの作る
桜餅も、きっと好きになったはず」
晴心 「あぁ、じいさん・・もう行かなきゃ」
玄関で急ぎ靴を履く晴心。
晴心の声「その人の奥さんと娘さんが亡くなったんだ、確か娘さん
は小学生だった、奥さんは直ぐ見つかったけど、娘さんは、
中々見つからなかった、そこは避難指示区域だったから、
見つけに行けなかったのだ」
○ 高校 講堂 その日 朝 4月
その日、高校の講堂、生徒集会に登壇する男性、子供が
見つかったことを報告している。感謝の言葉とともに深々頭
を下げる。
神妙に聞き入る生徒達。
女生徒の何人かが泣いている。
晴心、左手で鎖骨あたりを擦る。
校長と握手する男性。
○ 高校 正門前 日替わり 5月
「強歩大会」の横断幕の下、歩いたり走ったりして、校門
を出て行く生徒達の集団。
教師 「隣県の公園に6時までに着くように・・」
教師が、叫んで指示している。
敬 「なんで男子は隣の県まで・・、なあ、差別だぞ!」
英治 「そうだ!そうだ!」
晴心 「・・・」
晴心、前田 敬(15)、小泉 英治(15)が何となく
歩き出す。
紗子 「君たち!間に合わないぞぉ」
三人を追い越して走っていく、大迫 紗子(15)と数名
の女子達。
女生徒 「紗子、あの三人と仲いいの?」
紗子 「違うよぅ・・」
笑いながら走って行く。
敬 「はいはい、転ぶなよ」
手を振る敬。
英治 「転んだ所に・・大丈夫かい!お嬢さん・・的な」
腕を引き抱き上げるしぐさ。
敬 「それより、沿道で応援する美少女の・・・何かが、
こう飛んできて・・みたいな」
天を掴むポーズ。
晴心 「・・・」
英治 「美少女なんて居るかよ・・・」
がっくりしながら、追い越す生徒を見送る三人。
XXX
校舎が見えなくなる辺りまで来る三人。
敬 「よしっ!そろそろ本気モードで行くぜ!」
英治 「じゃ僕、100番以内目指すんで!」
晴心 「・・・えぇ・・おぉおい!」
敬と英治が猛烈に走り始める。
晴心 「・・・」
晴心、鉢巻を頭に巻く。
晴心 「キャップ忘れた・・」
晴心も何となく走り出す。
○ 国道 歩道 その後 5月
まばらに通過する車両、薄曇りの空。
うつむいて、歩道を歩く晴心。
晴心 「あぁ・・、かったるい」
顔を上げて、ふと風の吹くほうを見る。
晴心 「・・あぁ桜だ」
コースの途中、道から果樹園の木の間に見える一本の桜。
その気に引き寄せられ、向かって歩く晴心。
XXX
桜の下に着くと花を見上げる。
晴心 「八重桜だな、遅咲きなんだ」
枝に掛かっている白いスカーフに気付く。
そばの土手に、菜の花に飛び回る白い蝶と戯れる白い服の
少女。
少女 「待って・・アハハ・・」
蝶をつかもうとしている。
晴心 「あれ・・・スカーフ?」
何気なく白いスカーフを手にした晴心。
晴心 「これ・・・キレイ・・」
気配に気付いた少女が振り返る。
少女 「誰?・・」
とっさにしゃがみ込みスカーフをポケットに隠すと、慌てて
後退りする。
晴心 「ヤバっ!」
ターンして走り出す晴心。
○ 橋の歩道上 その後 5月
晴心 「・・ハァハァ、ウグゥ・・」
かなり離れた橋の入り口の歩道で息を切らせ立ち止まる。
橋の欄干に手を付きながら。
橋の中央の展望スペースに、敬と英治が休んでいる。
父兄だろうか、沿道の住人なのか、ペットボトルを渡して
いる。
栄治 「おおぉい!晴心!」
手を振る栄治と敬。
敬 「追いついてるし・・、晴心!何急にやる気出してんだ!」
晴心を待つ敬と英治。
XXX
二人に合流する晴心。
晴心 「やる気出してるんじゃないけど・・」
栄治 「ほら、水・水!」
ペットボトルを渡す。
敬 「どうした?デコのたんこぶ?」
英治 「転んだとか?」
ペットボトルを飲む晴心の前髪を跳ね避ける敬。
晴心 「あぁ・・・それは」
XXX
(回想)フラッシュ
走り出し木の枝に頭をぶつける晴心、落ちる鉢巻。
XXX
晴心の声「落としてきた・・このスカーフの代わりに・・」
○ 高校 廊下 日替わり 夕方
数日後、高校の廊下、歩く晴心とすれ違う制服の少女。
晴心振り返って少女の背中を見る。
晴心の声「誰だろう?・・」
教室の戻ると、入口の側に立っている、先程の少女。
少女 「晴心(セイン」君?」
晴心 「あれ?・・うん・・」
少女 「私、ハル・・・、ちょっといいかな?」
晴心の腕を、掴み拉致する少女。
敬 「おい!あれ・・」
英治 「晴心!どこ行く・・部活は?」
晴心が振り向きつつ、微笑む。
敬 「マジで・・」
栄治 「誰?可愛かった」
顔を見合わせ、にやける。
○ 高校 空き教室 その後
ハルに引っ張られて、突き飛ばされ、床に倒れる晴心。
晴心 「いっ、痛っ!」
顔を上げて、ハルをにらむ晴心。
晴心 「・・・なんだよ」
ハル 「一緒に探して欲しいんだ、スカーフ!」
腕組みで威圧するハル。
晴心 「・・ス・スカーフ?」
ハル 「風で飛ばされてしまったのかも・・、探してる時これを
見つけて」
ハルの手に鉢巻、それを晴心の目の前に。
晴心の名前が書かれている。
ハル 「何か知ってる?よね!」
首を振る晴心、左手で鎖骨あたりを擦る。
晴心 「知らない・・」
ハル 「・・・」
XXX
椅子に座る二人。
晴心 「そんなに大事なもの?」
ハル 「・・・ええ、命より・・」
晴心 「・・・命よりって」
ハル 「生命です」
晴心 「・・・ハル・・さん」
ハル 「はい」
晴心 「部活が始まるんだけど・・」
ハルの艶やかな唇を見つめる晴心。
その唇の下、右あごに、姉御ほくろ。
ハル 「部活?・・」
晴心 「テニス・・やってるんだ」
ラケットバックを見せる晴心。
ハル 「外?」
晴心 「・・あぁ、テニスコート・・」
ハル 「見学していい?」
晴心 「あぁ・・どうぞ」
左手で鎖骨あたりを擦る。
○ テニスコート その後
テニスをするウエア姿の男女。
その側、ラケットの素振りをする晴心と栄治。
栄治 「誰なんだ!」
晴心 「知らないっての」
ネットの向こうで腕組みして、睨んでいるハル。
その長い髪が風になびいている。
○ 路上 その後
歩く晴心、後ろについて歩くハル。
晴心 「あの?何でついて来る?」
ハル 「・・・」
立ち止まる晴心、ハルも止まる。
晴心 「テニス・・やりたくなった?・・とか」
ハル 「別に、素振り・・ばっかじゃね」
腕を振る仕草のハル。
晴心 「やあっ、打てるんだぜ・・」
ハル 「経験・・あるんだ」
晴心 「・・う~ん、無い」
ハル 「でしょうね、ラケットに振り回されてる感じ」
薄ら笑みのハル。
晴心 「でもさ・・」
ハル 「怒った?」
晴心 「家どこ?もうすぐ、俺の家につくけど、近所じゃないよね
・・」
ハル 「まだ先」
XXX
歩き出す晴心、ついて歩くハル。
晴心 「最近、越してきた?」
ハル 「前からだけど」
晴心 「・・・」
再び歩き出す二人。
○ 和菓子屋 店舗 その日夕方 5月
和菓子屋、入ってくる晴心とハル。
母ニイノが奥から出て来る。
ニイノ 「何だぁ~、二人共、ただいまも言わないで!」
晴心黙って、家の中に入っていく。
ハルも続いて入っていく。
XXX
居間で、新聞を読み休憩している誠一郎。
晴心 「じいさん・・この子の事見えてる?」
誠一郎 「?見えてるさぁ!」
老眼鏡をでこにずらしながら、けげんそうな顔。
晴心 「このハルって娘」
誠一郎 「?・・ハルちゃんは、ここに来て何年も経つぞ」
再び、新聞に目をやり、老眼鏡を戻す。
晴心 「どういうこと?」
XXX
黙って、桜餅を食べるハル。
誠一郎 「いつも余りで悪いね、ハルちゃん」
ハル 「いいえ、おじいさんのお菓子美味しいんで、嬉しいです」
そう言って、さくらの葉の芯を取り食べる。
晴心 「・・・」
誠一郎 「あの時は日本も終わったって思ったよ、でも、もっと
辛い思いして、強制的に避難させられて、遠く離れた
この街に来なきゃいけなかったんだよ、ハルちゃんは・・」
晴心 「・・・?」
ニイノ 「まだ小学生だったよね、小さかったな・・ランドセルに
背負られて」
ハル 「・・・!」
晴心 「・・・ランドセルに!」
ランドセルに背負われるハルを妄想して苦笑する晴心。
○ 晴心の部屋 その後 5月
晴心がベッドで仰向けで頭に腕を組み、横になって天井
をみている。
晴心 「どうゆうこと?・・分からないな?」
戸を開け入ってくるバスタオルを巻いただけのハル。
晴心起き上がりベッドに座る。
ハル 「お風呂、お先・・」
濡れた髪をタオルで拭きながら、晴心の横に座る。
晴心 「・・・なんで?、今日始めて会ったのに・・」
ハル 「・・・」
晴心 「夕飯食べたりして、家族みたいなんだけど・・」
ハル 「あぁ、まだ記憶書き加えてなかったね」
晴心の頬に口づけするハル、驚いて晴心がハルに顔を
向けると、唇が触れ合う。
その瞬間、晴心の記憶にハルとの日々が付け加えられる。
XXX
(回想)フラッシュバック
ランドセルを背負ったハルが、この家に来た日。
XXX
一緒に過ごした中学生時代、そうして、高校合格発表の日、
手を取って喜び合う二人。
XXX
(晴心の夢)フラッシュ
その夜晴心は夢を見る。
ランドセルを背負ったハル。
ハルの出した小指に、自分の小指を絡めた、あの約束。
ハル 「友達だよね、ウソはつかないって約束だよ」
晴心 「うん、ウソはつかない」
XXX
(回想戻り)
晴心 「ハル・・好きだよ」
ハルの肩を抱き寄せる。
ハル 「・・・えっ、その記憶は・・」
晴心 「・・・」
ハルを押し倒す晴心。
ハル 「・・・加えてない・・」
戸が開いて、のいんが入ってくる。
のいん 「もう寝るの?」
そのまま固まる晴心とハル。
のいん(12)が、ベッドの二人の横に寝転ぶ。
晴心 「ぇっ・・・」
ハル 「お兄ちゃん、もう寝たいみたいなの・・」
のいん 「たまにはお風呂入ったら・・」
ハル 「!・・イヤ」
ハッとして、晴心を突き放すと、床に転げ落ちる晴心。
晴心 「イタタ・・・毎日入ってますけど・・」
肘を擦る晴心、ハルとのいんがベッドでふざけ合う。
ハル 「くすぐったいよ・・タオル取らないで!」
のいん 「キャキャ!」
晴心 「・・・」
起き上がってベッドの上のハルを見ようとするが、
ハルのキックが顔面にヒットする。
晴心 「・・・ウグ」
昇天する晴心。
○ 高校 教室 翌日
翌日、高校の教室の机で向かい合って座る二人。
お弁当を取り出すハル、冷やかすクラスメイト。
敬 「いいな、ラブラブで、可愛い彼女で料理上手!」
紗子 「わぁ、美味しそぅ!」
栄治 「理想的だよね、神スタイルだし、しかも同居してる
なんて」
(回想)フラッシュバック
和菓子店 キッチン
ニイノ 「これを、レンジで、チィン!して」
渡された冷凍食材を見回すハル。
ハル 「それだけでいいんだ!」
ニイノ 「ご飯にはこれを混ぜる」
ふりかけをハルに渡す。
ハル 「おむすび!」
目を輝かせるハル。
XXX
紗子 「同棲でしょぅ!」
敬 「同棲なんていいのか?」
晴心 「ヤキモチ焼くなよ、運命なんだよな、・・俺ら」
ハル 「・・・」
ハル、笑顔でうなずきながら、晴心の口に、いちごを突ける。
ハル 「お前はネコか!、動物は、努力して食料を手に入れること
で満足する、猫以外は・・」
晴心 「はい、猫です・・」
ハル 「・・・鳴いて」
晴心 「・・ニャン」
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