時をこえて
石井寿
時をこえて。
時をこえて、という話です。
大学受験の過去問集に
赤本というものがあり、
「在学生レポート」という
コーナーがありました。
在学生が、
受験生のときの苦労や入った大学の
長所短所を延々と書くというものです。
私は、1年生のときから
このレポートを、
アルバイトで書いていました。
「こんなもん、おまけコーナーだろう」
と思い、
気軽に書いて、出しました。
すると、2年生になったときに、
知らない1年生から次々と
「赤本読みました」
「楽しかったです」
「愛があふれてますね(笑)」
「何度も繰り返し読みました」
と声を掛けられました。
かなり、恥ずかしかったです。
当時は、ネットがなかったので、
本くらいしか、
大学の情報を知る手段は
ありませんでしたが、
それにしても、
おまけコーナーが
こんなに一生懸命読まれるとは、
思いませんでした。
「なんで、こんなおまけコーナーを
読んでるの?」
と1年生に聞いたところ、
「おまけコーナーだから、よく読むんです」
とみんなに言われました。
そうか、おまけって大事なんだ、と
思いました。
そのため、2年生のときの原稿は、
やけに気合を入れて書きました。
すると、それを読んだ次の新入生から
「堅くてちょっとつまらなかったです」
という、やや厳しい反応があり、
「書くのって、難しいな」
と思いました。
さて、それから20年以上が経ちました。
先日、母校の後輩向けに講演する
トークライブに行ったときのことです。
今の学生から、
「石井さんの赤本、読みました」
と言われてびっくりしました。
「そんな昔の赤本を、なんで読んでるの?」
と聞いたところ、
その学生は、
大学のそばにある古本屋で
私のレポートが載っている昔の赤本を買って
勉強していたそうです。
(昔の過去問まで解いておくため)
トークライブの帰りに、
古本屋に寄ったところ、
たしかに、私のレポートが載った赤本が
何冊か売られていました。
私は、こんな昔に書いた話が
今の学生や受験生に届いている、と知り、
うれしくなりました。
と同時に、
「人の書いたものは、
長い時を経てから、
誰かに伝わることがある。
だから、書くときは
今の人だけでなく、未来の人にも向けて、
一生懸命書かないといけない」
と思いました。
時をこえて、伝わるということ。
それは、3年の時をこえてめぐり合った
「君の名は。」の瀧と三葉ほど、
かっこよくはないかもしれませんが、
何かを書いたり、
誰かに何かを伝えたり、
仕事を残したりすることで、
実は、誰でも、
時をこえて
生きることができるのではないか、と
私は思います。
時をこえて、誰かに近づけるというのは、
素晴らしいことです。
もし、時をこえて、
思いがけない人、
大切な人に近づけたとしたら、
それはかけがえのない貴重な財産となり、
その人が生きた証にもなると思います。
きょうも、時をこえて、
いつかの、誰かの心に、
どこか、ひっかかりたい。
そして、
誰かをいつも励まして生きて生きたい。
私はいつも、そう思っています。
時をこえて 石井寿 @ishiihisashi
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