第75話
歩人は帰宅すると、真っ先に客間に向かう。クロエは横になっていたが、歩人が来ると身体を起こした。
「大丈夫ですか?」
「昨日よりはマシという所ですかね」
クロエはそう言って微笑むが、いつもに比べ流石に弱っているように見えた。
「すいません」
「歩人様が謝る事はありませんよ。それより何か用があったのでは?」
「そ、そうです」
歩人は鞄からノートを取り出し、授業中に書いたメモを見せる。
「これは?」
「僕なりに考えてみたのですが、これが実行出来たら、みんな帰る事が出来るんじゃないかと思って」
クロエは真剣な表情でノートを眺めている。
「姫様から、魔力に反応した塔があるとは聞きましたが、なるほど、そういう事ですか」
「正直、僕自身詳しい知識が無いので、あいまいな推測でしかないのですが」
「それは、歩人様に限らず、誰しも同じですよ」
クロエはそう言うと笑顔を見せるが、すぐに何かを決心した様な表情になる。
「やってみる価値はありそうですね」
「本当に?」
「ええ、それも、その塔の近くで行う事が出来れば」
しかしクロエの表情は急に沈んだものになる。
「どうしたんですか?」
「あとは、わたくしの力が戻れば、何も言う事はありません」
「力?」
「こちらの世界では、思った以上に魔力が充填されないので、それなりの時間が必要になるかと思われます」
「どれ位かかりそうなんですか?」
「分かりません。ただある程度無理をすれば何日かで可能かと」
「無理をって」
歩人はクロエを改めて見ると、彼女は力なく微笑む。
「駄目だよ、それでクロエさんに何かあったら」
「わたくしがどうなっても、姫様とオルハンが無事なら」
「そんなの駄目だって!」
「歩人様」
「そんなの、あの2人だって絶対許さないよ」
「だから、お2人には、黙っていて下さい」
歩人は俯くが、すぐに顔を上げる。
「分かった」
「ありがとうございます」
「違うよ、僕はクロエさんが万全な状態でないのに術を使おうとしたら、それを邪魔するから」
「歩人様?」
歩人の言葉に、クロエは明らかに困惑の表情を見せる。
「僕には、それが出来るんだよね」
その言葉にクロエは観念したように溜息を吐く。
「だから、まずはクロエさんが元気になる事を優先しましょう」
「分かりました」
「約束ですよ」
歩人が真剣な表情を見せると、クロエは小さく笑う。
「歩人様も姫様に劣らず頑固ですね」
「そうかな?」
「そうですよ」
「じゃあ、僕は行くね」
歩人が部屋を後にすると、クロエは静かに呟いた。
「そして姫様に劣らずお優しいです」
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