第6話
3人はハンバーガーショップに移動すると、ドールを買ったことで何も買えなくなった歩人は、伸太と兼久の為に席を取り2人が来るのを待っていると、現れた兼久が歩人の前にドリンクを置いた。
「ほら、奢りだ」
「悪いよ、今度返すから」
「良いって、歩人がドールに手を出した記念だ」
自分以上に上機嫌な兼久を見て、歩人はその厚意を受ける事にする。
「ありがとう」
そして伸太が揃うと、それぞれがテーブルの上に購入した物を並べ、兼久はドール用の服が3点に靴が2点、そしてドールアイと呼ばれるカスタム用の眼が1種類であった。
「今日はこんな所だな」
そう言う兼久に対して、伸太の前には何も無かった。
「今日は様子見だ。何せ予約したブツが近い内やってくるから、流石にここで使う訳にはにはいかないしな」
「じゃあ、歩人の番だな」
歩人は先程買ったドールを2人の前に出す。
「改めて見ると、なかなかの美人だな」
「1/6か、しかしこれほどの物を見落としたとは、ちょっと残念だな」
ドールの顔をまじまじと見ながら感心する伸太に対して、兼久は本気で斬願っているように思えた。
「僕も、最初は気が付かなかったよ」
「それにしても、これで5000円って、ドールには詳しくない俺でも意外な気がするが」
伸太の言葉に、兼久は顎に手を当て考える仕草を見せる。
「ちょっといいか?」
「あ、うん」
歩人の了承を得た兼久は、慎重にそのドールを箱から取り出すと、真剣な表情で観察を始めた。
「そうだな、服はメーカーが出した物だけど、この素体は俺も見た事が無いし、恐らくどこかの作家のオリジナルだろうな」
「兼久はドールの事になると、高校生とは思えなくなるな」
「そうだね」
兼久はそんな歩人と伸太をよそに、真剣な表情のまま観察を続ける。
「も、もし気になるなら譲ろうか、僕より兼久の方が」
あまりの真剣さに、思わず歩人はそう口を開いていたが、兼久は笑顔を見せる。
「いや、この子は歩人の元に来るべくして来たんだ。大事にするんだぞ」
兼久はそう言って丁寧に箱に戻すと、歩人に返した。
「あ、ありがとう。そうするよ」
「しかし、それは相当な掘り出し物だぞ歩人」
「実は呪われていたりしてな」
「それは、ありえるな」
珍しく伸太の話に兼久が乗っかったかと思えば、2人して怪しげな笑みを歩人に向ける。
「やめてよ2人とも」
「気をつけろよ、夜寝ている時に」
「実際ウチにもいるけどな、朝起きたら簿妙に動いた形跡がある子とか」
「か、兼久」
兼久の言葉に伸太も顔を強張らせ、歩人も苦笑していたが、そのタイミングで不意に近くの席から話し声が聞こえてくる。
「何か、さっきパトカーが止まってたな」
「オタク狩りらしいぜ」
「マジで」
「いまだに、そんな事やってる奴がいるのかよ」
歩人は思わず聞き耳を立てるが、その時他の2人が立ち上がる。
「そろそろ帰るか」
「そ、そうだね」
「歩人」
伸太はことさら強調した様な笑顔で歩人を見ているが、こういう時の伸太はロクな事を考えていないので、歩人は思わず身構える。
「何?」
「帰ったら、お楽しみだな」
「お楽しみ?」
「そりゃ、脱がして」
「し、しないよ。そんな事」
歩人は顔を真っ赤にしながら否定する。
「しないのか?」
「か、兼久まで」
「いや、着せ替えはするだろ」
自身の慌てぶりに反し、兼久の至極真っ当とも思える意見に、歩人は落ち着きを取り戻した。
「あ、でも、僕は服持ってないよ」
「杏奈さんは持ってないかな」
「母さんはどうだろう。でも、ちょっと秘密にしておきたい気もする」
「そうか、じゃあ家に余っているのがあるから、いくつか譲ってやるよ」
「いいの?」
「ああ、明日家に持っていって良いか?」
「うん、助かるよ」
「それにしても歩人の母さんって、本当に若いし美人だよな」
伸太の言葉に、歩人は身内を褒められる照れを感じ動揺する。
「な、何だよ突然」
「いや、実際うちの母親なんかはさ、歩人の母さん羨ましがっているからな」
「って、母さんの話はいいだろ」
そんな話をしながらハンバーガーショップを後にすると、電車で地元に戻りそれぞれの家路に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます