第3話

 翌朝、朝食をとっていた歩人だが、昨夜の事がニュースに取り上げられると、思わずその手を止めてテレビの画面に集中する。


 ニュースによると老朽化によって解体作業中のビルが突如として倒壊しており、映像ではその現場を上空のヘリから映していたが、ある一点を中心に放射状に物が吹き飛び、同時に中心に近い程黒く焼け焦げていた。


 その事から爆発が起きた事は明確だが、行われていた解体作業自体にその様な爆発が起こる可能性は考えられず、何らかの原因により溜まっていたガスに引火した可能性や、何者かによる爆発物の使用の疑いも視野に入れて、間もなく警察による現場検証が始まると報じられた。


「なんか思ってたよりも凄い事が起きたんだ」


 歩人は向かいに座っている、母親の杏奈に向かってそう告げるも、杏奈は真剣な表情でニュースを見たまま、歩人の言葉に反応を示さない。


「母さん?」


「え?」


 そこでようやく杏奈は、歩人に何事か話しかけられている事に気付き、歩人を見る。


「ごめんなさい。ちょっと考え事してたから」


 杏奈の言葉に歩人が不思議そうな表情を見せると、杏奈は普段通りの笑顔を見せる。


「大したことじゃないの、それよりそろそろ家出ないと遅れるわよ」


「あ、そうだね。そろそろ行くよ」


 歩人は朝食の残りを急いで口の中に放り込み、咀嚼しながら玄関へと向かうと、杏奈もその後を付いていく。


「気を付けて行ってらっしゃい」


「うん、行ってきます」

 

 登校中はおろか、学校に到着した歩人の耳に入ってくるのは、やはり昨夜の爆発事故であり、ホームルームが始まるまでの時間、歩人も友人達とその話をしている。


「一体なんだろう?」


「爆弾とかいう話もあるんだよな。そんな危ない奴がこの街にいたりするのかよ」


 そう答えたのは、歩人の親友の一人である有馬ありま兼久かねひさ。歩人と兼久は幼馴染で、家も近所の間柄である。


 成績優秀で、更には父親が大きな会社の社長という事もあり、知力と財力を持ち合わせ、尚且つ身長も高く顔立ちも整っているという、一見非の打ちどころがないと言っていい存在であった。


 当然、女子の人気は高いが、本人は主に自身の趣味に夢中な為か、女子とは距離をとっている。


「物騒な世の中だね」


「実は宇宙人からの攻撃かもよ」


 笑いながらそんな荒唐無稽な事を言い出すのは箱崎はこざき伸太しんた


 歩人と伸太の出会いは中学の時であったが、互いの趣味が興じて高校に入った現在でも親友関係を維持していた。


「何を言っているんだ。相変わらず妄想の世界で生きている様だな」


「お前は、ユーモアも分からんのか」


「こんな状況で、よくそんな事が言えるもんだ」


「こんな時だからこそ、心に余裕を持つのが大事なのさ」


 兼久と伸太は口論を始めるが、これは2人にとっていつものお約束で、2人は仲が悪いわけではなく、むしろ互いに認め合っているからこそ、遠慮せずに思っていること素直に口に出せる間柄である。


 そして、そんな2人のやり取りを、歩人が呆れた様子で眺めるのも既にお約束になっていたが、それも予鈴が鳴り強制終了となった。


「そう言えば、帰り行くんだろ」


「ああ、もちろん」


「行くよ」


 去り際の伸太の問いに、兼久と僕は笑顔で答える。


 その後のホームルームでも昨夜の事が担任から話されたが、ニュースで報じられた様に、爆発物の可能性がある以上、現場付近に近づく事を禁止され、不審者や不審物といったものに気を付ける事などが皆に伝えられた。

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