第31話 カデナ

車に戻り南に下って嘉手納(かでな)に近づくと軍用車やYナンバーの車が増えてきた。

「うわ、あれが基地なの?」

「そうです、あれが沖縄で最大の基地・カデナです」

「野神君に一つだけ聞いて良いかしら。こんな事を聞くのは酷なんだけれど、あなたは米軍をどう思っているの?」

「嫌な質問ですね。基本係わりたく無いですよ、でも知り合いも居ますしね。トラブルだけはごめんですね」


そんな事を話している矢先に道路の遥か前方で観光客らしき日本人カップルと米軍関係者がレンタカーとYナンバーの車を道路脇に止めて揉めているのが見えた。

「野神、止めろ」

「あのなぁ、藤堂。俺はどうなってもしらねえぞ」

「良いから止めろ。放って置けないだろ」

「放っておけ、警察に任せろ」

「止めろって言っているんだ!」

藤堂が後ろから俺の肩を掴んだ。

「好きにしろ!」

声を荒げて車を止めると藤堂が車を降りてトラブっている所に乗り込んでいった。

俺はハンドルに突っ伏していた。

「野神君」

「のっち」

「…………」

双葉さんと御手洗さんが良いたい事は良く判るが俺は躊躇った。

「瑞貴君、私の事は気にしなくて良いから。ね」

一ノ瀬さんの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。

「ごめん、また泣かせちゃったね。俺が何とかするからね。たとえ何があっても俺を信じてくれる? 必ず守るから」

「うん」

人差し指で優しく涙を拭う。

「後ろの席に移って待っていてね」

運転席のドアを開けて外に出て助手席のドアを開け一ノ瀬さんの手を引っ張る。

一ノ瀬さんを後部座席に座らせて深呼吸をして歩き出した。


「大丈夫かなぁ、双葉さん」

「厄介な事になったのは間違いないわね。『Yナンバーの車には気をつけろ』なんて言葉があるくらいだから。藤堂君が先走って問題を起こさなければ良いけど」

「でもあいつは沈着冷静だから」

「そうかしら、熱い男よ。藤堂君は」

「それじゃ、のっちは?」

「底が知れないわね。2人を信じましょう」


俺が現場に近づくと藤堂は米軍関係者とヒートアップしていて、観光客のカップルはただ怯えているだけだった。

仕方なく米軍は藤堂に任せて俺は怯え切っている観光客のカップルに声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「…………は、はい」

大丈夫じゃない様だ、とりあえず少し離れさせて話を聞いた。

ただの接触事故のようだが如何せん言葉が通じないので意志疎通が出来なかったらしい。

「それじゃ、急いでレンタカー会社と警察に連絡を入れて。ここは『カネク』と言えば判るはずです」

「あ、ありがとうございます」

男性が震える手で電話をし始めた。藤堂を見るとまだ揉めている。

額に手を当てて溜息をついて顔を上げると、軍用車が3台通り過ぎて俺達の車を挟むように止まって米兵が数人降りてこちらに向ってきた。

「最悪だ」


藤堂の肩を掴むと払い除けられた。

かなり熱くなっている、殆ど喧嘩腰の怒鳴りあいだった。

「いい加減にしろ!」

藤堂の首根っこを掴んで引き寄せ足を払うと、藤堂が尻餅を着いて俺を睨みつけ向ってこようとした。

「彼女達に何かあったらどうするんだ!」

胸倉を掴んで押し倒すと流石に気づいたのだろう目を逸らして俯いた。

「車に戻れ! 馬鹿が! 少し頭を冷やせ!」

俺が怒鳴り飛ばすと藤堂は苦々しい顔をして立ち上がり渋々車に向って歩き出した。

振り返り米軍関係者らしき男2人に向うと、首を大きく横に振ってNOのジェスチャーをしている。

目を大きく見開いているのを見ると、俺と藤堂のやり取りに驚いているようだった。


「キッド?」

不意に声を掛けられてこちらに向い先頭を歩いてくる黒人の米兵を見る。

「マイク?」

「イヤァー、キッド!」

俺が懐かしい名前を口にすると身の丈が2メートルはあろう大男が抱きついてきた。

「は、離せよ。マイク、苦しいって」

「久しぶり、キッド。何をしているんだこんな所で」

「トラブルだ。巻き込まれた」

昔から頭の切れるマイクは状況を見ただけで粗方の事を理解したようだった。

「OK!」

そう言って米軍関係者と話を始めた。

「マイク、警察とレンタカー会社には連絡したから」

「OK、それじゃ行こうか、キッド」

「はぁ? おい待てよ。マイク!」

殆ど小脇に抱えられるようにして軍用車に押し込まれた。

「マイク、連れがいるんだ。丁重に扱えよ」

「ノープロブレム」


瑞貴君が出て行ってしばらくすると3台の米軍の車が私達の車を挟むようにして止まり。

兵隊さんが数人降りてきて瑞貴君達の方に歩いていった。

先頭を歩いている黒人の人もそうだけど皆体が大きく屈強そうだった。

「どうしよう、双葉さん」

「凛子、落ち着きなさい。今は野神君を信じるしかないわね」

「はい」

でも心配で堪らなかった。あんなに嫌がっていたのに私達の為にトラブルに巻き込まれに行ってしまったのだから。

少しすると藤堂君が戻ってきて後部座席を覗いて助手席に座り込んだ。

「藤堂君、どうなったの」

「さぁ」

「さぁって」

状況が全く判らずに後ろを振り向いて見ても、大きな軍人さんに囲まれてしまっていて何も見えなかった。

しばらくすると軍人さんが私達の横を通り過ぎるのが見えた。

「瑞貴君……」

瑞貴君が一番偉そうな黒人の軍人さんに連れられて前の車に押し込まれている。

我慢できずにドアに手を掛けた。

「凛子、落ち着いて」

「で、でも……」

すると運転席に白人の軍人さんが乗り込んで来てエンジンを掛けた。


心配になりもう一度藤堂君に聞いてみる。

「藤堂君、何があったの? 何で野神君が?」

「判らない」

「一弥! 判らないじゃないでしょ。あんたが止まれなんていうから」

御手洗さんが後ろの席から体を乗り出して藤堂君に喰ってかかった。

「Be quiet」

軍人さんが静かにそう言って車を出した。



マイクに軍用車に乗せられて後ろを確認すると俺達の車で何か揉めているのが見えたけど、軍人に何かを言われて直ぐに納まったようだった。

とりあえず、なるようにしかならないのでマイクの思う通りにさせた。

車はしばらく走りゲートから基地内に入っていった。

「マイク、こんな所に連れてきて何をするつもりだ?」

「キッド、飯は食ったか?」

「あのなぁ、俺達は観光で来ているんだ」

「久しぶりに会ったのにか?」

「判ったよ。食事は済んでるよ」

車が止まりやっと降りることが出来た。

直ぐに一ノ瀬さん達の所に向う。


「野神君、何があったの? まさか」

「なんも、言ったじゃないですか知り合いが居るって」

「それじゃ」

「大丈夫ですよ、問題はありません。ただここは日本であって日本じゃない所ですから」

「良かった……」

「うぅ、怖かったよ!」

一ノ瀬さんが半べそで抱きついてきた。

「大丈夫だったでしょ」

「うん」

「藤堂も時化た面をしてるんじゃねえよ。御手洗さんが可哀相だろうが、馬鹿が」

「すまん」

藤堂が柄にもなくしょぼくれている。

「謝るくらいなら最初からあんなに熱くなるな。クールでいろ、お前らしくない。一つ貸しだからな」

「ああ」

藤堂の腹を軽く小突くと小さく返事をして、照れた様に頭を掻いていた。


「キッド!」

マイクが来いと手で合図をしている。

「しょうがねぇな」

「瑞貴君……」

「あいつは俺より年上だけど弟弟子だから爺ちゃんの」

「古武道の?」

「そう、心配ないよ。何があっても凛子さんは俺が守るからね」

マイクに連れられて広大な敷地の中にあるレストランに連れて行かれる。

中に入るとそこはまさしくアメリカンだった。

はっきり言えばむさ苦しい体の大きな男達がガツガツと食事をしていた。

俺達が入ると声が上がる。

「目立ち過ぎだな。秘書課の3人は外人さんにも大人気と」

「いらない事をメモらないの」

双葉さんに小突かれた。テーブルにすわり適当に飲み物だけを注文するがどれもアメリカサイズだった。

「はぁ……なぁ、マイクお前らあんなもん毎日食べてるのか?」

「キッドも沢山食べて大きくなれよ」

「なるか!」

ここでもこんな役柄だった。それでもマイクのお陰で場が和んできた。

食事を済ませてマイクのワゴン車に乗り換えて基地内を見学させてもらえる事になった。


「凄い、広い」

「軍事施設と住居スペースに分けられていて幼稚園、小学校、それに大学の機能も備わっている所だからね」

「ねぇ、のっち。さっきのレストランの女の子って日本人が多かったけど」

「かなりの難関らしいよ。基地内で働けるのはエリートさんなんだよ」

「御手洗さんなら通るんじゃない」

「いや、遠慮しておくわ」

一ノ瀬さんは俺の腕にしがみ付いて不安そうな顔をしている。

判らなくもないか、俺があんな事を感情に任せて言ったんだから。

「大丈夫?」

「うん、瑞貴君がいるから平気」

全然、平気そうに見えず不安感満載なんですけど……

住居スペースは綺麗に整備されていて住宅の周りには青々とした芝が眩しく見えた。

「本当にここはアメリカなのね」

「そうですね」

その後で戦闘機が展示されている所や格納庫なども見せてくれた。

そして基地内の史跡周りをする。

ゼロ戦の格納庫などが当時のまま保存されていて旧日本陸軍航空隊の飛行場だった事がわかる場所だった。



「キッド、頼みがある」

「なんだ、マイク」

「手合わせを願いたい」

「ああ、もう……好きにしろ。少しだけだぞ」

マイクは大喜びして体育館みたいな武道場に案内された。

床は畳ではなく少し固めのマットが敷き詰められている。恐らく格闘術の鍛錬をする場なのだろう。

「野神君、何をするの?」

「少しだけ時間を下さい。マイクと手合わせをします。一応、兄弟子なんで」

「大丈夫なの?」

「同門ですからね、心配ないですよ」

少し、体を動かして温める。一ノ瀬さん達は少し離れたところで見ている。すると、マイクが呼ばれた。

「ジョーンズ少佐、マクラーレン中佐がお呼びです」

「判った」

あの泣き虫マイクが少佐? 思わず吹き出しそうになるとマイクがサムズダウンしていた。


しばらくしてもマイクは戻って来なかったが、マイクの代わりに柄の悪そうな連中が5人ほど武道場に入ってきた。

明らかに軍の人間だ。体格が良く俺たちより遥かにでかい。

そして顔には日本人が嫌いと書いてあり、その中のリーダー格の少し小柄な男はどことなくあの友長を髣髴とさせる虫唾の走るような奴だった。

「うひょ! ヤマトナデシコ」

「ビューティフル ガール」

そんな事を口々に言っている。

「俺達はジョーンズ少佐の友人としてここにいるんだ。構わないでくれ」

「ジョーンズなんて僕のパパにかかれば一捻りだよ。はぁん」

「皆、とりあえず出よう」

俺が藤堂達に声を掛けると入り口に鍵を掛けられてしまった。

「どけ、邪魔だ」

「逃げるのか、ニップは腰抜けだな」

「俺達は観光でこの島に来たんだ。お前達に用はない」

「はん。こつらは特殊部隊だ。ちょっと遊んで行けよ、まぁ、ここで部外者のニップが居なくなったって誰も不思議に思わないさ」

「この時代にまだ、そんな事を言うか」

「何も判っちゃねぇなぁ」

友長もどきがそう言うと目の前に居た男が口角を上げニヤつくといきなり何かで殴りかかってきた。


一ノ瀬さんの悲鳴と共に鉄パイプでコンクリートを殴りつけた様な音が武道場に響き渡る。

俺は吹き飛ばされて壁にぶつかり壁に掛けてあったと木刀などが体の上に落ちてきた。

そして俺を殴り飛ばした男の手には特殊警棒が握り締められていた。


「おい、おい、いきなり殺しちゃったのか?」

「NO! ニック、手ごたえが無い……」

「さぁ、楽しませてもらおうか」

友長似のニックと大男4人が藤堂達を取り囲んだ。

藤堂も素手で敵う相手ではなく秘書課の3人の盾になるしか出来ない。

泣き続ける一ノ瀬さんが腕を掴まれ悲鳴を上げた。

「イヤァーー み、瑞貴!」

その瞬間、一ノ瀬さんの腕を掴んだ大男の体が崩れ落ち方膝をつくと近くに木刀が転がった。

「な、なんだ?」

「特殊部隊が特殊警棒だ、笑えネェ冗談だな。お陰でチタン製の腕時計が壊れたじゃねえか!」

立ち上がり左手の時計を床に叩き付けるとニックと呼ばれている友長似の男が驚いている。

「そ、そんな馬鹿な」

「何だ? ゴーストでもいるのか?」

「の、野神君?」

「のっち?」

「み、瑞貴君」

「悪い、遅れた。耳がキンキンする、ちょっと意識が飛んだ」

男達が動揺した空きに藤堂が木刀を拾い上げる。

俺が声を掛けようとすると一ノ瀬さんが飛び出してきてしまった。

「凛子さん! 動かないで」

俺の叫び声もむなしく男に捕まり首に腕を回され押さえ込まれてしまった。

「クソ、最近の米軍は人質も取るんだな」

「勝てば良いんだよ、どんな手を使ってもな」

「そうかどんな手を使っても勝てば良いんだな。それが今時の正義か。藤堂、手加減はいらねぇ。剣を持ったお前は無敵だ。ただ、殺すなよ。殺しさえしなければ俺がケツを拭いてやる」

「何をゴチャゴチャ言ってやがるんだ? この状況で」

「売られた喧嘩は全てお買い上げの倍返しなんだよ!」


俺の声と共に藤堂が双葉さんと御手洗さんを背にして木刀を構えた。

普段の藤堂からは考えられない殺気があがる、さすが軍人とも言うべきか直ぐに間合いを開けた。

そして俺はすかさず一ノ瀬さんを押さえ込んでいる男に向かい全力疾走をする。

「野神君! 駄目!」

双葉さんの制止の声を振り切り。

男の目の前でフェイントを入れ。

男の左側に飛び込み右足を軸にバックターンですり抜ける。

そして男の真後ろに左足を着き勢いに任せて体を捻り込む。

遠心力を乗せて手刀を男の脇に叩き込んだ。

鈍い音がして手刀が男の体にめり込み男の体が揺らぎ、一ノ瀬さんを堪らず放す。

右手を引き抜き、後ろ回し蹴りで男の頭に踵を撃ちつける。

男の体が倒れこむ所に体をもう1回転させ、わき腹に止めの膝を叩き込んだ。

声を上げる間もなく男は動かなくなった。

「大丈夫? 怖かったね」

「う、うん」

「もう少しだけ我慢してくれる」

「うん」

俺が声を掛けると一ノ瀬さんが唇をかみ締めて小さく頷いてくれた。


一ノ瀬さんを背にしてニック達に向う。

「さぁ、次はどいつだ」

「お、お前は何者だ……」

「ニックとか言ったな。俺は野神瑞貴。野神流古武道宗家・野神宗司の孫だ」

「ミスター鬼神の孫……こんなチビが」

「島唐辛子はなぁ、小粒でも激辛なんだよ!」

2人目の男がボクシングの構えで向ってきた。

当たれば一溜まりもない様なヘビー級のストーレートがぶっ飛んでくる。

それを右手で払い受け流す。

同時に上段の横蹴りを顔面に向けて突き出す。

突っ込んできた勢いと蹴りの勢いで男が白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

藤堂を見ると梃子摺っているようだった。


「藤堂、ちんたらしてんじゃねえよ」

「ふざけるな、加減が……」

「真面目だな、頭以外なら大丈夫だ。花さんに良い所見せてやれ。気を抜いたらやられるぞ」

「そうは言ってもな」

「ああ、面倒ちぃ。セイぃ!」

雄叫びを上げて藤堂に対峙する2人の内の一人に向かい駆け出す。

男が振り向いた瞬間に俺の膝が男の顔面に炸裂する。

同時に藤堂が風の様に男の横をすり抜け炸裂音が重なるように聞こえる。


「うひょ、痛そう。鎖骨粉砕で肩が亜脱臼。肋骨も5番6番辺りが粉々だ」

藤堂が倒した男を指で突付きながら俺がおちゃらけた。

「野神が……」

「まぁ、うちの姫君達に怪我が無いんなら問題ないか」

「馬鹿! 問題あるでしょ。野神君は」

双葉さんに左腕を掴まれた。

「腕が……?」

「なんも、子どもの頃から鉄パイプの様な爺の蹴りを受けているんですよ」

フルフルと手首を回すと、双葉さんも御手洗さんもそして一ノ瀬さんも呆れた顔をしていた。

「あれだけ自分から横に吹き飛べばなんて事無いよな。のっち」

「のっち言うな、藤堂。それに時計が粉々になっただろ、安くないんだぞ」

「で、あれはどうするんだ?」

藤堂が指差す。そこには腰を抜かして放心状態のニックの姿があった。


「一応、〆ておくか」

俺が横蹴りを入れようとしたところで武道場のドアが開いてマイクが血相を変えて飛び込んできた。

「マイク、遅いぞ」

「き、キッド。これは」

マイクの話ではニックとその取り巻きは基地でも問題視されていたがニックが上層部の身内という事もあり黙認されてきたらしい。

そしてマイクが呼び出された後でマイクの部下が武道場に入っていくニックを見かけて慌てて呼びに来たという事だった。


「で、マイク。なんで俺達が護送されなきゃいけないんだ?」

「ソーリー。一応、あいつらは特殊部隊なんだ。その連中が一般の日本人に潰された。事情説明だけでも」

「あのな、喧嘩を売ったのはあいつらだぞ」

「全員、病院送りにした」

「それで、俺達はフォスター送りかよ」

俺達は全員、軍の車に乗せられて半護送されている。

ご丁寧に俺達のレンタカーまで運んでいた。

「野神君。私達はどうなるの?」

「双葉さん。なんも、心配ないですよ。俺が全力で何とかします」

「なんだか頼りないなぁ。喧嘩は強いのが判ったけど」

「それって、俺がスポーツ馬鹿って事ですか? 御手洗さん」

「だって、のっちは営業成績いつも中の下じゃんか。交渉が上手いとは、ねぇ」

「良いんです、瑞貴君は。これで成績が良かったらモテモテになっちゃうから」

「何だか酷い言われ様な気がするんですけど、一ノ瀬さんまで……一弥、慰めて」

「知らん、もう少し成績を上げろ」

うな垂れていると横でマイクが肩を揺らして笑いを堪えていた。

「笑うな、少佐!」

「イェス サー」

そんな話をしていると到着したようだ。


拘束こそされていないが周りを取り囲まれながら殺風景な会議室の様な所に案内された。

そして、事情聴取が始まるが話は平行線のままだった。

「いい加減にしてくれないか俺達はジョーンズ少佐の知り合いで正規の手続きを踏んで基地内を案内してもらって武道場で手合わせをしようとしただけだ」

「しかしねぇ、もう少し何とかならなかったのかね。何もあそこまでする必要が」

「襲われそうになったんですよ。いい加減にしてください」

煮え切らない相手に双葉さんが口を挟んだ。

「はぁ、我々も頭を悩ませているんですよ、お嬢さん。彼は議員の息子さんでネェ」

行き着く所はそこだった様だ。『権力』俺が一番大嫌いなものだ。

しかし、それに対抗できるのはやはり『権力』でしかないのだろう。

「なぁ、おっさん。トップと話がしたい」

「な、何だね。君は非礼にも程があるだろう」

「もう面倒なんだ。トナカイのルドルフが直々に会いに来たと伝えろ!」

「トナカイのルドルフ……まさか」

「信じる、信じないはあんたの勝手だ。見誤るなよ」

マイク達の上官と思える男が直ぐに連絡を取り始め困惑の表情を見せ始めた。


「ドーナッツ好きのドナルドにホットラインで直に話をしてもいいんだぞ」

この言葉で判ってもらえたらしい。

「それじゃ、貴殿1人で」

「俺はマイク以外の軍人は信用しない」

「しかし……判りました。それでは直ぐ隣の別室をご用意しますので」

話は急転直下で解決した。

ニックと取り巻き以外はお咎めなし、他言無用のおまけつきだったが当然のことだろう。

誠心誠意謝罪をしてくれた事で皆は納得してくれた様だった。





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