第30話 誰が食べるんだ

沖縄本島・那覇の初日は移動日になった。

移動と言っても飛行機で一時間足らずだった、空港でレンタカーを受け取りそのままホテルに直行してその日は自由行動になった。



那覇2日目は知らない間にドライブに決定されていた……


「運転は?」


皆に指を指された。


「指を差すな! で何で?」


皆が肩をすくめて両手をひじから挙げた。


「アメリカ人か! 俺の行きたい所に行きますからね」


皆がサムズアップした。


「…………」


撃沈……

早めに朝食を済ませたにもかかわらずウダウダしていると昼前になっていた。


「のっちがグダグダだから」

「うはぁ、俺の責任なんだ」

「そう言う訳じゃないわよ。ただ時間は有意義にネ」

「双葉さんまで……」


そっと一ノ瀬さんを見ると胸の前で小さく両手を合わせていた。

うぅ……可愛過ぎて何も言えない。



沖縄自動車道を北に向けてひた走る。

1時間ほどでインターを降りて町に入ると実弾射撃演習が行われる米軍の大きな施設が見えてきた。

近くの有料駐車場に車を止めて歩き出した。


「な、なんだかディープな町だなぁ」

「御手洗さん、米軍の大きな施設や基地がある町はどこもこんな感じですよ」

「瑞貴君、兵隊さんがいて何だか怖いよ」

「凛子さん、大丈夫ですよ。藤堂が居ますから」


名前を出されても我関せず歩いている、それとも暑くて頭が沸いているのか……


「何で野神君はそこで『俺が守る』って言わないの?」

「だって怖いじゃないですか。藤堂はあれでも羊の皮を被った狼ですから」

「あなたも変らないでしょ」

「双葉さん、俺は猫の皮を被った猫ですから」

「リンクス(大山猫)のクセに」


ここが日本だとは思えない裏通りを歩く、アメリカでも日本でもないカオスの町。

沖縄風に言えばチャンプルー(混ぜこぜ)な町。

夜は歩きたくない様な歓楽街の奥にその店はあった。


「へぇ、店内もチープだな、赤いビロードの椅子って……」

「とりあえず座っていてくださいね。注文してきますから」


カウンターに行き、タコライスチーズヤサイ3つとチキンバラバラ1つを注文して席に戻る。


「のっち、何で3つなの?」

「百聞は一見にしかずです。御手洗さん」


無愛想な姉ネェに呼ばれて取りに行き、水やスプーンとケチャップにサルサソースをテーブルに置いてからタコライスを真ん中に3つ置いた。


「キンタコの元祖タコライスになります」

「…………」

「…………」

「…………」

「野神、誰が食べるんだ?」


秘書課の3名は口をあんぐりと開けて声も出ないようだった。

大盛りのご飯の上に溢れんばかりのタコスミート・チーズ・レタスの千切りが……


「1つは藤堂、1つは俺、1つは3人で」


何も言わずに3人が頷いている。サルサソースをドバドバ掛けて食べ始める。

3人は少しずつケチャップやサルサソースを掛けながらタコライスの山を切り崩し始めた。


「!」

「!」

「!」

「う、美味いな」


何も言わずに黙々と食べる、サルサソースの辛さで水を飲むと汗が噴出す。

お構いなしにスプーンを口に運ぶ。

俺と藤堂が半分くらい食べたところでチキンバラバラが揚げ上がってきた。


「皮がパリパリ」

「中はジューシーです」

「なかなかいけるわね」


秘書課の3人があられもない姿でチキンに齧り付いている。

会社の人間が見たらなんていうのだろう。


「野神君、くだらない事を考えてないでしょうね」

「あはは、会社の皆に見せたいなぁなんて考えてないですよ」


ゴン! ゴン! ゴン! と鈍い音が3回して脛に激痛が走った。


「すいませんでした。許してください……」

「馬鹿が」

「お前は良いよな、何も喋らなくて良いんだから」

「喋る必要が無い」

「一応、メインキャラクターなんだから登場くらいしろ」

「藤堂一弥です」

「……アホ」



車に乗り南に下り石川から西海岸にでて残波岬に向う。

タコライスとチキンバラバラで腹が満たされ誰も喋らない。

ラジオから流れてくるFM沖縄が独特の雰囲気を醸し出していた。

駐車場に車を止めても誰も動こうとしなかった。


「あの、俺に喧嘩売ってます? 倍返しにしますけど」

「さぁ、着いたみたいだから降りましょう。野神君、案内よろしくね」

「双葉さん? 白々しくねぇ?」

「瑞貴君、黒いのが出てる黒いのが。ほら藤堂君も花ちゃんも降りた、降りた」


灯台まで歩いていく、ゆっくりゆっくりって牛か? それとも……

一ノ瀬さんに小突かれた。


「止めようね、変な事を考えるのは」

「凛子さん、何気に黒いです」

「にこっ」


うっ、はぁ~怖……可愛らしい顔の下には何がかくれているんだろう。


「凄い、断崖絶壁だ」

「本当だ、何だか怖いなぁ」

「でも、風が気持ち良いわね」


3人のワンピースが風に揺れる。一ノ瀬さんは相変わらずのガーリーで、御手洗さんは小さな花柄のワンピース、双葉さんはシックな落ち着いた大人のワンピース姿だった。


「綺麗だけど、何だか宮南島と比べてしまうと見劣りするわね」

「双葉さん、あそこは離島の離島ですからね」

「やっぱり沖縄は良いなぁ。のどかで」

「そうですね、御手洗さん。でも忘れちゃいけないのが沖縄は太平洋戦争で唯一地上戦になった場所ですからね」

「瑞貴君、どの位の人が亡くなったの?」

「民間人だけで約10万人……そして米軍が目指していたのがこの残波岬で、上陸したのは直ぐ南にある浜からです」

「確か、鉄の暴風雨よね」

「双葉さん、それなんですか?」

「砲弾が雨の様に降りそいだんです、御手洗さん。地形が変ってしまうくらい」


皆の言葉数が少なくなってしまった。


「まぁ、歴史の勉強はこのくらいにしましょう。これから北谷に向いますけど途中で沖縄が抱えている基地の大きさを知る事が出来ますから」


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