第19話 キャラだから
その週の日曜日。俺は会社の小会議室にいた。
友長の件で休日に会議室を使わせてくれと会社側に説明して許可を取てあった。
会社の会議室にはネット回線が引かれている。
回線には俺が会社で使っているノートパソコンが接続されており。
俺の対面には友長が普段使っているタワー型のパソコンが接続されていた。
先だって友長にお前の力を試してやると言うと目を輝かせて俺の挑発に乗ってきたのだ。
「言っておくがこれが最初で最後だからな」
「ええ、構いませんよ。先輩に僕の力を見せ付けてやります。負けたら何でも言う事聞いてくれるんですよね」
「ああ、約束する」
「それじゃ、先輩の彼女とデートさせてください」
「お前が勝てばな」
友長に対する俺の返事に一ノ瀬さんの顔が強張るが、後ろから双葉さんが優しく抱きしめて落ち着かせていた。
「もしも、俺が勝った場合はそれなりの覚悟は出来ているんだろうな」
「絶対に負けませんから覚悟なんてしないです」
どこからその自信が出てくるのかが判らないが本当に1回死にたいらしい。
「万が一、僕が負けたら先輩の好きなようにしてください」
「判った」
「のっち、あんた本当に大丈夫なの?」
御手洗さんが俺の顔を覗き込んだ。
俺は友長との対決の立会人に藤堂を呼んだのだが何故か秘書課の3人も会議室にいたのだ。
「さぁ、始めよう」
俺の言葉がスタートの合図になった。
簡単なゲームだ。
俺のノートパソコンにはNOELの廉価版のセキュリティーソフトがインストールされており使っているOSは日本で一般的に使われている物だ。
そして友長のパソコンには自分が組み上げたセキュリティーソフトが入っていてOSも少し毛色が違った。
ハッカーなんて崇高なもんじゃないクラッカー勝負だ。
先に相手のパソコンに侵入した方が勝ちになる。
あっという間にゲームは終わった。
「友長、お前は本当に口だけみたいだな。もし他のパソコンにリンクさせているのならこれで全部終わりだ」
「そんな……」
友長が立ち上がり呆然としている。
それは友長のパソコンが死んだ瞬間だった。
あまりにもあっけなく終わってしまったので見ていた4人も呆然としていた。
で、会社の近くのレストランに拉致される嵌めになってしまった。
「のっち、何が起きたのか説明しなさい」
御手洗さんがテーブルに手を着いて体を乗り出して迫ってきた。
「ち、近いですよ。顔が……」
「野神君、あれはハッキングでしょ。つまり」
「双葉さん、それは違います。俺がしたことはクラッキングです」
「何が違うの?」
「ハッカーと言うのは元々高度なコンピューター技術と能力を持って何かを創造する人の事を言い、クラッカーはそういった技術や能力を悪用して破壊したりする人の事を言うんです。因みにハッカーを名乗る奴等の殆どがクラッカーです」
「でも、一般的には」
「そうですね残念ながら、でもそれはメディアが混同しているからなんです」
「しかし、野神にあんな能力があるなんてな」
「藤堂、あれは能力でも技術でもないただの犯罪だよ」
「でも、野神なら悪用なんかしないだろ」
「どうだかなぁ、俺はハッカーだから」
「ハッカー言うな、お前が」
惚けた顔をすると藤堂に小突かれた。
「でも、のっちなら個人情報なんて直ぐに手に入りそうね。今度、頼んじゃおうかな」
「それはプライバシーの侵害ですよ。御手洗さんの個人情報でも公開しますか?」
「ば、馬鹿。お嫁にいけなくなっちゃうじゃない」
「ええ、お嫁にいけなくなるような事しているんですか?」
「ああ、のっち。鎌かけたでしょ」
「なんも」
「しばく!」
メニューの角で思い切り御手洗さんに叩かれた。
「うう、痛い」
「はいはい、痛くない、痛くない」
頭を押さえると一ノ瀬さんが頭を撫でてくれた。
「さぁ、出ましょうか。お邪魔みたいだし、残りの時間は2人きりにしてあげましょ」
「たまに覗き見している人達がいますけどね。双葉さん」
「痛っててててて」
双葉さんに頬を抓まれると一ノ瀬さんが拗ねていた。
「もう知らない。野神君はいつも一言多いんだから」
「キャラだから」
「へぶぅ……」
一ノ瀬さんの肘鉄砲がわき腹に炸裂して俺は撃沈した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます