第12話 適わないな
朝、目を覚ましてカーテンを開けると青い空が広がっていた。
そんな空とは相対するように俺の体の中にはモヤモヤした物が蠢いていた。
まさしく月曜病、ブルーマンデーそのものだった。
「おす、野神。早いな」
「おはー」
「なんだ、なんだ。朝パラから不景気な面して」
「朝だからだろ。月曜の朝」
月曜は連絡事項や書類に目を通してから仕事が始まる。そしてパソコンに向い始めると藤堂が話しかけてきた。
「昨日のデートはどうだった」
「デートじゃねえよ」
「男と女が2人で出掛けるのをデートって巷じゃそう言うんだよ」
「はいはい、そうですか」
仕事に集中して余計な事は考えたくないのに藤堂が話しかけてきてイライラし始めていた。
藤堂の気持ちも判らなくは無いが放って置いて欲しかった。特に今日だけは。
「で、どこに行ったんだ?」
「ピクニック」
「ピクニック? どこに?」
「そこ」
「そこ?」
「公園」
「お前、本気か?」
「本当だ、その後でたぬきに行った。大将に聞いてみろ。俺が侍を連れて来たかどうか」
藤堂が携帯を取り出した。大将に確認でもするのだろう。
しばらくすると腕を掴まれた。
「野神、ちょっと付き合え」
「はぁ? 仕事中だ」
「ここでも俺は構わないぞ」
パソコンの電源を落として立ち上がり溜息を一つ付いて藤堂の後を歩き出した。
階段で屋上にでも行くのだろう。
途中の廊下から御手洗さんらしき人が手を振っているのが見えたが気付かない振りをした。
屋上に出るなり藤堂が俺に向ってきた。
「お前、何を考えているんだ」
「お前に話す必要は無い」
「彼女の気持ちが判らないのか?」
「藤堂には関係ねえだろ! そんなに気になるなら、彼女にお前がアタックすれば良いだろうが」
「野神、本気で言ってんのか?」
いつもは沈着冷静な藤堂がヒートアップしている。
「たりめえだ、ゴチャゴチャ口出すな!」
「彼女が探していたのはお前だ! 次に会う約束はしたんだろうな」
「するか、そんな……」
「げっふぉ」
俺が言い放ち終える前に、藤堂の左フックが俺の腹にもろに入った。
顔を殴らない所は流石が営業マンだ。
蹲ると藤堂が右を放つのが見えると同時に誰かが屋上のドアを開けた。
「ふざけろ!」
咄嗟に声を上げて拳を振り出すと藤堂の右フックが俺の体に打ち付けられた。
「げほ、げほ、げほ」
「そこまでにしなさい、これ以上は報告するわよ」
双葉さんの声が屋上に響いた。
御手洗さんが連絡したのだろう事は直ぐに察しがついた。
「藤堂君。あなたの気持ちも判らないでもないけれど、今日の凛子はとても楽しそうに仕事をしているわ。その意味が判るわよね。それに野崎君、あなたって子は何で本当の事を言わないの。たぬきに行きたいって言ったのは凛子でしょ。それにあの子はとても喜んでいたわ、いっぱい野神君とお喋りできて野神君の事を教えてもらったって」
「俺、仕事に戻ります」
藤堂が屋上から出て行く、蹲る俺に双葉さんが近づいてきた。
「あなた、最後の一発わざと受けたでしょ」
「双葉さんには敵わないな」
そう言って横になり、そして屋上に大の字になった。
「あれは自業自得です。それに、人を好きになった事ないから怖いんですよ」
「野神君。本気で言っているの?」
「ええ、恋愛する余裕なんて無かったですから。だからただのガキなんですよ」
「後でゆっくりね。仕事に戻りなさい。あなたならあの程度のパンチなんて訳無いでしょ」
「ははは、マジ敵わないや」
それ以来、藤堂とは話もせず別行動をしていた。
そんな事があった2日後の水曜日の朝、俺と藤堂は課長に呼ばれた。
「藤堂君と野神君には申し訳ないんだが今度の日曜日の午前中だけ休日出勤扱いで住倉商事との野球の試合に行ってもらいたいんだ。一課の代表として。大丈夫かな」
「課長、なんだか決定事項みたいな言い方ですけど」
「まぁ、上から直接だから頼んだよ。羨ましい限りだね、秘書課の美女が応援に行くらしいから、くれぐれも失礼のないようにね」
羨ましいのならお前が行けと思ったが、課長の『秘書課』の一言で俺も、そして恐らく藤堂も理解した。
誰が野球に出る社員を選抜したのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます