第7話 トリオって、古!
午後は流石に社内に居づらくて、外回りの仕事を回してもらった。
定時ギリギリに会社に戻り約束の時間までブラブラと時間を潰してから藤堂と『vino』に向う。
「帰りて~」
「本当に嫌そうだな」
「当たり前だ、何で俺がお前の姉さんに呼び出されなきゃいけないんだ?」
「さぁな、行けば判るだろう」
大通りから裏通りに入りしばらくすると『vino』の看板が見えてくる、階段を下りると木のドアを藤堂が開けた。
「あら、藤堂ちゃん。いらっしゃーい、今日は子ども連れなの?」
「子ども言うな。けん……」
「それを言っちゃ。めっ!」
マスターの名前を言おうとすると目潰しの様に長い指が飛んできた。
「危ねぇなぁ」
「瑞貴ちゃんもね」
「瑞貴言うな。マジで叫ぶぞ」
「嫌ぁ~ん」
マスターが頬に手を当てながら腰をくねらせた。
藤堂がそんな事にはお構いなくマスターに尋ねた。
「姉貴と待ち合わせなんだけど」
「あれ? お姉さんは来てないけれど。お姉さんのお友達なら来ているわよ」
「藤堂の姉さんの友達?」
マスターの言葉に俺は嫌な予感がした。
「それって、もしかしてうちの会社の人?」
「そう、花のトリオが揃い踏みよ」
「トリオって古! 藤堂、悪い。帰る」
一応、突っ込みを入れて踵を返しドアに向おうとすると藤堂が声をかけてきた。
「アホが。真実を知るチャンスだろうが」
「いいよ、もう会社辞めるから」
その瞬間、ゴツンと鈍い音が店内と俺の頭の中に響きわたった。
「殴るぞ」
「痛ってぇ! 殴ってから言うな!」
俺が頭を抱えてしゃがみ込んで居ると、どこからか携帯の着信音が聞こえる。
藤堂がスーツの内ポケットから携帯を取り出した。
「姉貴からだ」
「なんて?」
「ほれ」
そう言って藤堂が携帯を俺の目の前に差し出した。
『香蓮ちゃん達が待っているからね。お姉ちゃんはこれから仕事なの(ハート)』
「罠にまんまと嵌められた……」
一気にマリアナ海溝に気持ちが沈む。
深海6500が深く深く潜行するように……
「とりあえず行くぞ」
「好きにしろ」
ゾンビの様に腕をダラッと下げてうな垂れて藤堂の後をついて歩いた。
「おいおい、そんなのっち始めて見たぞ」
藤堂の背中を見ながら奥の個室に向かう。
個室からは女の子が喋る声が聞こえていた。
「失礼します。藤堂です」
「いらっしゃい、待っていたわよ」
最初に挨拶をしたのは『姫』こと藤堂の姉さんの大親友の双葉香蓮さんだった。
そしてその隣には一ノ瀬さん。
奥には御手洗さんが座っていた。
この『御手洗 花(みたらい はな)さん』が秘書課のナンバー3だ。
流石に一ノ瀬さんと双葉さんがいては目立たないかもしれないが。
それでもハイレベルには違わなかった。
ショートカットで目鼻立ちがはっきりしている。
一ノ瀬さんと双葉さんを足して2で割ったようなオールマイティーな人らしい。
因みに通り名は『小町』と呼ばれていた。
その御手洗さんが俺の事を睨みつけていたが、俺は構わず一瞥して藤堂の横に座った。
グラスにワインが注がれて香蓮さんが乾杯の音頭を取った。
「それじゃ、チンチン」
「お疲れ様です」
「こうして、お2人と顔を合わすのは初めてよね」
「そうですね」
俺の機嫌の悪さを察して藤堂が返事をした。
「う~ん。何か調子が狂うわね。いつもの野神君はどうしちゃったの?」
「ああ、こいつですか? 騙されたから頭にきているんじゃないですか?」
「騙したつもりはないのだけど。こうでもしないと来てもらえないと思って美雪にお願いしたのだけど。ゴメンなさいね」
因みに美雪とは藤堂の姉さんの下の名前だった。
「香蓮さん、こんな奴に謝る必要ない。凛子さんを傷付けて」
御手洗さんのきつい言葉に俺が立ち上がろうとするのを藤堂が冷静に制して、俺を見てから藤堂が立ち上がった。
自分の姉が一枚咬んでいた事を気にしているのだろう。
「こんな雰囲気で呼び出されたのなら失礼させていただきます」
「花! 今すぐ謝りなさい。どうしてあなたはいつも先走るの? あなたの悪い癖よ。それに誰の為にこの席を設けたと思っているの? 友達としては正解かもしれないけれど、これが仕事なら完全にアウトよ」
香蓮さんの叱責が飛んだ。
「香蓮さん、すいませんでした」
「謝る人が違うでしょ」
「野神さん、藤堂さん。出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」
御手洗さんが立ち上がり唇をかみ締めながら頭を下げた。
御手洗さんは座っても中々顔を上げなかった、恐らく香蓮さんに叱責されて今にも泣き出しそうだったのだろう。
俺はそんな御手洗さんを見てクールダウンした。
御手洗さんが怒り出し、そして双葉さんが裏で手を回してでも俺をここに来させた理由はただ1つだけしか無いからだ。
それは一ノ瀬さんの為だろう、しかし俺には理由が判らなかった。
「ふう~、御手洗さん。そんなに気にしないで下さい。それに双葉さんも。俺は気にしてないですから。仕切り直しましょう」
そう言って俺は立ち上がった。
「おい、野神?」
「マスターに用事だよ。帰ったりしないから心配するな」
藤堂が心配そうに声をかけてきたが軽く返事をして、ヒラヒラと手を振りながらカウンターに居るであろうオカマもといマスターの方へ向った。
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