第22話 ホームルーム

あっと言う間に夏休みが終わってしまった。


9月になると10月の半ばにある青高祭に向けてクラスで何をするのか決めなければならない。

ホームルームの時間にクラス委員長が皆に何をするのか聞いている。

私は溜息を一つ付いて窓の外を見ながら夏休みにあった事を色々と考えていた。

こんな時間が唯一ゆっくり出来る時間だった。


高校になると流石に授業をまともに聞いていないとあっという間においていかれてしまう。

そして放課後は部活動が待ち構えている、家に帰ればどんなに疲れていても当番の家事をしなくちゃいけない。


パパは疲れていたらしなくて良いって言ってくれるけれどパパだって仕事で疲れているはずだもん。

それにパパに任せておいたら部屋は直ぐに滅茶苦茶になってしまうんだから。



教室の黒板には喫茶店やらクレープ屋などと候補がいくつも書かれていて男子と女子の間で意見が分かれているみたいだった。

そんな事は今の私にはどうでも良い事だった。


「もう、相変わらずミーナはクラスの事には無関心なんだから」

「しょうがないでしょ。今は演劇部の事だけで精一杯なんだもん」

「で、台詞は覚えたんでしょ」

「うん、一応ね。演技の方は出来ているか判らないけどね」

「パパさんが練習相手なの?」

「だって他に居ないじゃん」

「羨ましい」


一応、麻美はクラスの方にも参加はするみたい。

私には無理かな。

それにパパと演技の練習をしているとどうしてもあの人とパパがダブってしまう。

それは夏の合宿での出来事が大きかったかもしれない。

パパの素顔を間近でみて、月明かりの下でのパパの顔はあの人の顔に似過ぎるくらい似ていた。

銀狼か……パパとは別人の筈なのに。

パパの事を知れば知るほどあの人の事が気になり始めている。


ホームルームが終わる頃には何をするのかが決まったみたいだった。


「とりあえず飲食店は1学年で2クラスだけだから申請をして駄目だった場合はもう一度決を採りますので」


そんな事をクラス委員長が言っていた。


「ねぇ、麻美。何に決まったの?」

「ああ、コスプレ喫茶だって」

「なんだ、本当に安易だね。どうせ今年の文化祭のテーマがあれだからって言う理由でしょ」

「本当にミーナは学校ではクールだよね」


文化祭は生徒会が毎年テーマを決めている。

今年のテーマは『変る』で生徒会長がテーマを発表する時に『今年はハロウィンも近いので来場者にも仮装をしてもらいましょう』なんて本気とも冗談ともとれない様な事を言っていた。

そんな理由からコスプレ喫茶になったのだろう。

他のクラスも同じ様な事を考えているのだろうと簡単に想像が付く。

競争率は高そうだから再度決める事になるだろうと思っていた。

まぁ、文化祭なんて模擬店やお化け屋敷なんかが定番といえば定番なのだから。



そんな私の考えと裏腹にクラス委員長がくじ引きで当たりを引いてきた。

コスプレ喫茶の割り振りを皆で決めていく事になり私は一応ホール担当になっているけれど、演劇部のほうがメインだから関係ないと……


「あら、大久保さんと神楽坂さんのクラスはコスプレ喫茶なのちょうど良いじゃない」

「へぇ? 尚先輩。何がちょうど良いんですか? まさか」

「宣伝にもなるからクラスの方にも参加出来る様にしてあげるわよ」

「そ、それって衣装を着けてクラスに参加しろって事ですか?」

「あら、コスプレ喫茶なんでしょ」

「は、はい」


麻美はそんな私と尚先輩のやり取りを楽しそうに見ている。

麻美はクラスでも演劇部でも裏方の担当になっていた。

私から見れば麻美の方がよっぽどお気楽に見えた。



10月になると本格的に青高祭の準備が始まり校内や校庭では生徒達が実行委員の指示に従いながら慌しく動き回っている。

私は演劇部の衣装でホールをする事でクラスの準備は免除してもらえることになった。

これは麻美がクラス委員長やクラスメイトに掛け合ってくれたんだけど、すんなりOKがでたところを見ると尚先輩と同じような事を皆が考えていた様だった。

そんな理由で私は演劇部の練習に専念できるのだけど。

何もかも始めての事で戸惑ってしまう事が多い。

けれど周りに支えられながら何とかやれているような状態で駄目だしを出される方が多かった。

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