第9話 心配
高校生になり数ヶ月が経ち学校には慣れたけれど、普段の生活は今までどおりという訳には行かなくなっていた。
パパは変らず優しいだけど少しだけ距離を感じる時がある。
それは親離れさせるためなのかもしれないけれど私にはもどかしく。
そして私はパパを異性として意識してしまい甘える事が出来ないでいる。
年頃と言えばそう言う年頃なのかもしれない。
買い物も友達(主に麻美と)行く様になり、パパと出歩く機会は殆ど無くなった。
これが普通の高校生と親の距離なのかもしれない、それでも心のどこかではパパに甘えたい気持ちが燻っていた。
「ミーナ、また過去を彷徨ってるの?」
「違うよ、ただ外を歩いてるカップルを見てただけ」
「彼氏でも作ったら人生変るかもよ」
「そう言う麻美はどうなのさ、彼氏でも出来たの?」
「あはは、それは無いかなぁ。でもミーナは相変わらず告られる事、多いんでしょ」
「本当に面倒臭いんだよね」
同級生や上級生までもが幼く見えてしまい心がときめくどころか嫌悪さえ感じてしまい、必然的に冷たい態度を取ってしまう。
それ故に月の女神から氷の女神なんて言われる様になってしまった。
なんで私が女神なのかさえ自分自身では未だに理解できなかった。
「デレるところが無くなったらツンとクーが顕著になったって言うか愛想笑いくらいしてあげれば良いのに。そんなんだから上級生のお姉様方に睨まれちゃうんだよ」
「だって仕方が無いでしょ。私は嫌がってるのに相手が言い寄ってくるんだから。それを僻まれたって私の責任じゃないし私にはどうする事も出来ないでしょ。それなら氷やブリザードなんて言われていた方が100倍マシだよ」
「それと夜遊びするのも程ほどにしておかないとパパさんが心配するよ」
「心配するわけ無いじゃん。パパだって会社の若い女の子と宜しくやってるんだから」
「ふぇ? それって恋人が出来たって事なの?」
「どうかな、何回か違う女の子と仲良くデートしているの見たことがあるもん」
「で、焼きもち焼いて夜遊びなんだ。それでミーナは態々パパさんの会社の近くで遊んでるんだよね」
「そうじゃないよ、あの辺りは知り合いの店も多いからだよ」
「でも良くない噂も聞くし危ないよ」
「大丈夫だよ、麻美は心配しすぎだよ」
でも、麻美の心配は現実の物になる。
それは夏休みを控えた週末の事だった。
いつもの様にちょっとだけ大人ぽいワンピースを着ておしゃれをして夜の街をブラブラしながら、時間があれば時々パパに良く連れて来られたワインバー『vino』に顔をだしてマスターとお喋りをするのが楽しみになっていた。
「美奈、いい加減にしなさい。ここは未成年が来て良い店じゃないし、夜の街は危険がいっぱいなのよ」
「もう、マスターのお説教を聞きに来たんじゃないもん。サングリアが飲みたくて来たの」
「あなたに飲ませるワインなんてこの店には置いてないわよ」
「意地悪、じゃ良いもん、ほかのお店で飲むから」
「はぁ~絶対にそれだけは駄目よ! しょうがない100歩譲って1杯だけなら飲ませてあげる。その代わり飲みたくなったら必ずここに来なさい良いわね」
「やったー、ありがとう。ケンちゃん」
「ケンちゃん言わない!」
マスターは何だかんだ言っても私に1杯だけなら飲ませてくれる。それもサングリアだけなんだけど、それも殆どジュースに近い物だって判る。
前に一度だけパパが飲んでいたチンザノを一口飲んだ事があるけれど、その時は訳が判らなくなり大騒ぎになりそうになった事がある。
良く覚えていないのだけどマスターと男の人が介抱してくれて気が付いたらお家のベッドの中だった。
それ以来、マスターはサングリアしか出してくれないし私もサングリアしか頼まないことにしている。
まぁお酒には変わりないけどね。
「本当にしょうのない子ね。優ちゃんの育て方が悪かったのかしら」
「私の責任だもん」
「そう思っているのなら夜遊びも程ほどにね。ゲーセンなんかで知らない男の子とはしゃいでいちゃ駄目よ」
「えっ、何でマスターがそんな事を知っているの?」
「この街はそう言う街なの。特に私みたいなアンダーグランドにいた人間は横の繋がりが広いのよ。それに優ちゃんはこの街では顔が広いのを知っているんでしょ。その優ちゃんの娘が夜遊びなんてしていたらそんな情報は直ぐに耳に飛び込んでくるわ」
「マスター、何でパパはそんなに顔が広いの? 仕事柄?」
「それもあるけれど、優ちゃんは私達の英雄だもの」
「あのパパが? 信じられないょ」
「信じられない?」
「無理だよ」
マスターは嘘を付く人じゃないけれど優しいだけが取り得のパパが英雄だ、何て信じられなかった。
あれはいつの事だろうちょうど今頃の季節だと思う。
パパとデートして『vino』に初めて連れて来られた帰りだと思う、初めてワインバーなんかに連れて来られて嬉しくってはしゃぎ回ってた。
「ミーナ、危ないよ」
「へーきだもん。きゃっ」
「すいませんでした」
誰かにぶつかり尻餅を付くとパパがぶつかった人に頭を下げていた。
「危ないって言ったのに」
「ゴメンなさい」
パパが私を抱き上げるように立たせてくれると男の人の罵声が聞こえた。
「人にぶつかってゴメンで済むと思ってんのかぁ?」
「そう言われましても子どもがぶつかったのは謝りますし。怪我をされた訳ではないでしょ」
「はぁん? 怪我してなけりゃ謝れば済むのか?」
「本当に申し訳御座いませんでした」
一生懸命にパパが謝っているのに怖そうなお兄さんはいきなりパパの胸倉を掴み揚げたの。
周りの人は見てみない振りをして通り過ぎていくだけ。
私が誰かに助けを求めようとした時にパパの体が目の前で倒れた。
怖そうなお兄さんを見ると拳を握りながら不思議そうな顔をして、パパの体を蹴り飛ばして人込みに消えていった。
「参った。ミーナ怪我は無い?」
「パパ! ゴメンなさい」
自分の不注意でパパが殴られて蹴られたのが悲しくって涙が溢れてくる、パパに謝りながら抱きついていた。
「ふうん、そんな事があったのね」
「パパはその後で格好悪い所を見せちゃったねって言ってたから。喧嘩なんてしたことないんだと思う」
「そうかしら、私は素敵だと思うわよ。だって相手はガラの悪いチンピラみたいだったんでしょ。もし美奈に何かあったら困るでしょ。謝って自分が殴られて事が収まるのなら優だったら躊躇わずそうするわよ」
「でも、女の子としたら守って欲しいじゃん」
「守り方も色々よ。美奈をこんなに立派なレディーに育てたんだしね。優は半端なく強いわよ、あんなに優しいんだもの」
「優しいと強いの?」
「少し違うわね。人は守るものがあればいくらでも強くなれる。そして時には鬼にもね。まぁ優は名前の通り優しいから優柔不断に見えるけれど頑固よ、そうじゃなきゃあんな事出来ないもの」
「あんな事?」
「あら? お喋りが過ぎたみたい。美奈も飲み終わったのなら帰りなさい。優に知られたら私が只じゃ済まなくなるからね」
「はーい、マスターがパパに嫌われたら遊びに来られなくなっちゃうもんね。バイバイ!」
私がカウンターを立ってドアを開けると奥から人が出てきた気がして慌てて外に飛び出した。
「あなた、その格好って……本当に頑固なんだから」
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