第2話
「はあ?」
これをトンネルと言うには絶対に距離が足りないと俺は思った。
山だとか地下だとか、もともとある自然のものにわざとそれなりに距離のある道をつくるって言うのが、俺の中の「トンネル」のイメージだ。
だから、これは「穴」だ。
それにこいつはさっき自分で、この穴を「穴」と言っていたじゃないか。
気が済んだのか俺の上半身の側に戻ってきた少女を、俺は再び
そんな俺なんてどうでも良い様子で彼女は説明する。
「昔から別世界に通じてるって言えば『トンネル』でしょ? 川端康成の『雪国』だって主人公はトンネルを抜けたわ。『トト○』だって『○と千尋』だって」
「なら、
抜け出た先はただの学校の裏山なんだから。
雪国でも湯屋でも無いし、見回してもトト○は居ない。
少女は一つ溜息をついた後、俺の脇に手を差し込んだ。
「え?」
「なら自分の目で見てよ」
そして俺の下に仰向けに潜り込んで、ブロック塀に両足をついて踏ん張った。
「え? は?! ちょ」
「引っこ抜くわよ」
「えぇっ?!」
脇腹がジョリジョリする。
「痛っ!いでででで」
めっちゃ痛い。
けれどすぐにそんなことはどうでもよくなった。
……胸が当たっている。
「ばっ! ちょっ」
流石にまずい。本人は何とも思ってなさそうな顔をしているけど、まずい、まずい。
まずいったらない。
慌てて地面に両手をついて身体を離す。
(なんだこのアングル…)
まるで女性を押し倒しているような視界に焦っているうちに、いつの間にか俺の下半身は壁の一番キツイところから抜け出ていた。
わずかに自由になった足を慌てて自力で引き抜いた後は、急いで少女から距離をとる。
「立って」
「え?」
今度は土の上に座る俺の両手を取って、少女は立ち上がった。
当然、俺も上へと引っ張られる。渋々立ち上がるしかなかった。
「もう、何なんだよ」
「影、見てみなさいよ」
「はあ?……え」
地面に伸びるブロック塀の影には、あるはずの穴が空いていなかった。
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