第3話 出版社

円さんの会社はマンションからタクシーで10分ほどの所にあった。

そこは副都心に程近い総ガラス張りの大きなビルで抜けるような青空が写り。

太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

「へぇ、凄いな。インフィニート出版か、ここ数年で急成長をする今や飛ぶ鳥を落とす勢いの出版社ですよね。携帯小説やライトノベルを多く輩出して伸びに伸びている会社じゃないですか」

「コオロギは何者なんだ?」

「えっ? 僕だって世間一般的なことは知っていますよ。常識じゃないですか」

「いや、やけにオタクぽいと言うか。まぁ良いか、大人しくしていろよ」

「円さんが悪魔みたいに意地悪しなければ大人しくしています」

「ほぉ、コオロギがよく言った」

円さんがヘッドロックを掛けて拳をグリグリと僕の頭に押し付けた。

「痛いです」

「痛くしているんだ」

「ゴメンなさい。もう余計な事言いません。意地悪……うぅぅぅ」

「ああ、もう男が泣くな」

円さんは大きな歩幅で堂々としていた。

インフィニート出版の大きな建物に入ると周りからの視線を直ぐに感じた。

円さんに対する憧れや尊敬の眼差しと、円さんの後ろを歩く僕に対する興味と珍獣でも見るような微妙な視線だった。

そんな視線に耐えられず円さんのスーツ姿の背中を凝視して堪えた。


エレベーターに乗り7階に行くと正面が円さんの職場らしかった。

「おーす」

「編集長、遅いすよ……」

「おはようございます……」

「おお、アリスがやっと来たか?」

うう、視線が痛い。着いてこなければ良かった。

どうして良いのか判らない、そう思ったが礼には礼を挨拶こそがコミュニケーションの第1歩だと教えられてきた。

「お、おはようございます」

「おはようございます。えーと? どちら様?」

丸いメガネを掛けた、髪の毛を後ろで1つに三つ編みにした僕と同じ歳ぐらいの女の子だった。

「えっと、あのう、僕は……」

「コオロギ、こっちに来い!」

僕がオタオタしていると円さんに呼びつけられて慌てて円さんの側に向った。

「ゴメンなさい」

円さんを見ると編集室の中を見渡して眉間に皺を寄せて目を細めた。

「山ノ内はまだなのか?」

「ああ、さっき連絡があって現場に直行だと」

ボールペンを咥えながら無精髭を生やした山男みたいな感じの人が、円さんに野太い声でそう言って僕の方を怪訝そうな顔で見ていた。

思わず円さんの後ろに隠れてしまった。

「なぁ、アリス。さっきから気になるのだがお前の後ろのチンチクリンはなんだ?」

ツンツンヘアーでどこかで見た事があると思ったら格闘家の角田さんに顔つきといい体格と言いそっくりな人が円さんに聞いてきた。

「ペットのコオロギだ」

「ブッフォ! ゲフォ、ゲフォ。ああ~もう鼻にコーヒーが入った。ペットって悪い冗談は止めましょうよ。編集長、お陰で死ぬ所でしたよ」

「お前は死んでおけ」

「酷いなぁ、編集長は相変わらず、この鬼!」

「鳴滝(なるたき)、1回死んで見るか?」

円さんに鳴滝と呼ばれている人は背高く茶髪のロングヘアーで端正な顔立ちだけどプレーボーイ風に見えた。

鳴滝さんが噴き出したコーヒーをさっきの三つ編みメガネの子が一生懸命拭いていた。

「悪いな、宇多野(うたの)ちゃん」

「平気です、直ぐに拭かないと染みになっちゃいますよ」

「宇多野ちゃんは編集長と違って優しいなぁ」

「おだてても何も出ませんよ」

そんな会話が聞こえてきた。

すると円さんが全員を見渡して僕の事を紹介し始めた。

「まぁ、ペットは別としてコオロギは俺の下僕だ。今日からパシリのバイトとして雇うから心置き無くこき使ってくれ」

うう、やっぱり円さんは悪魔だった。

下僕ってペットより酷いじゃん、それにパシリって? 

雇うって何も聞いてないよ。

そんな事を考えている僕に構わずに円さんは続けた。

「ほら、男なら自分で自己紹介しろ。グズグズしていると窓から放り投げるぞ」

「は、はじめして。香乃木 進・20歳です。何でもしますので宜しくお願いいたします」

半分ヤケクソ気味で自己紹介して頭を下げた。すると

「よし、良い子だ」と言って頭を優しく撫でてくれた。

ますます円さんの性格がわからなくなってきた。

「はぁ~ん? 香乃木でコオロギか。しかし、いくら見てもへタレ顔なガキだな。俺の仕事の邪魔をしたら吊るすからな」

鳴滝さんは少し苦手なタイプの人だった。

僕の事を睨みつけ毛嫌いしているように感じた。

しかし、それは仕方が無いのかもしれない編集長が連れて来たとはいえ、僕は部外者である事に変わりは無かった。

「あいつは色魔の鳴滝だ。女たらしだけど情報通だから仕方なくここに置いてやっている」

「宜しくお願いします」

「そこで黙々とパソコンに向っているのが常盤(ときわ)だ」

円さんが指差した人はボールペンを咥えたままの山男さんだった。

「宜しくな」

「宜しくお願いします」

すると格闘家の角田さんが立ち上がった。

「俺はここのデスクの嵐山(あらしやま)だ、アリスに苛められたら俺に言ってくれ。こいつとは腐れ縁だからな」

「デスク、そのアリスはいい加減止めてくれないか?」

「バーカ、アリスはアリスだろ。お前の隠し子に秘密を全部ばらすぞ」

「隠し子? 俺はまだ29だぞ。隠し子の訳ねえだろが。バーカ」

なんだか腐れ縁の意味が判る気がした。

たぶん何でもこの2人は気兼ねなく言い合える仲なのだと思った。

「新人の宇多野です。よろしくね、香乃木君」

「宜しくお願いします」

「コオロギに言っておくが宇多野は一応大卒だからな」

「えっ? 円さんそれじゃ宇多野さんって僕より年上なんですね」

「そうだ、苛めるなよ。そして俺がここの女王陛下の円様だ!」

たぶん円さんは冗談じゃなく、本気で女王陛下なんて言っているんだと確信した。

「僕は円さんみたいに人を苛めたりしません」

「ほぉ、もう余計な事は言わないんじゃなかったか? コ・オ・ロ・ギ」

円さんが何かを鷲掴みするようにしながら手を僕の方に突き出し。

あの悪魔の様な笑顔で僕に向ってきて掴みかかろうとした。

僕が身構えると編集室の電話が鳴り鳴滝さんが電話に出た。

「編集長、山ノ内が出先でトラぶって鹿王院(ろくおういん)の原稿取りに行けないって言っていますがどうします」

「仕方が無い、他の奴を行かすと伝えろ。本当に山ノ内は使えない奴だな」

「なぁ、アリス他の奴って言っても、手の空いている奴なんていないぞ、お前まさか……」

「ああん、デスク何を言っているかな、ここに1人居るだろ」

「ば、馬鹿おまえ、鹿王院に気に入られている山ノ内でさえ梃子摺るんだぞ」

「大丈夫だよ、コオロギもガキじゃないんだから」

「俺は知らねえからな」

デスクの嵐山さんが円さんともめて呆れていた。

すると円さんが僕の事を呼んだ。

「コオロギ、小学生にでも判る地図を書いてやるから原稿をもらって来い、いいな」

「判りました。出版社の名前を伝えれば判るのですよね」

「そうだ、これが地図だ。今が昼前だから3時には戻って来い、いいかこれは命令だ」

「はい、それじゃ行ってきます」

僕は円さんから地図と交通費、それにドキュメントケースを受け取って出版社を後にした。


「おいおい、アリス。勝手にあんなガキ雇って平気なのか?」

「バイト1人ぐらい、いくらでもねじ込んでやるよ。それにあいつは行く所が無いんだよ。バイトを突然首になってアパートも焼け出されて、街中で途方に暮れていたんだ。誰かにそっくりだろ」

「まぁ、お前の好きなようにしろ。でもな、鹿王院の所に行かせて『3時に戻って来い』は無茶だ」

「よーし、野郎ども賭けだ。俺はコオロギが戻ってくる方に1万だ」

「うひょー、編集長良いんですか? あんなへタレの為にそんなに大きく出て?」

「良いんだよ、鳴滝。俺はコオロギを信じているからな」

「アリスが人を信じるなんて言うのを初めて聞いたが俺は帰らないほうに1万だ」

デスクの嵐山が呆れて首を振りながら言った。

「よし、俺もデスクに1万。常盤さんはどうする」

「もち、デスクだ」

「宇多野ちゃんはどうする?」

「な、鳴滝さん。わたしは、その、デスクにだって鹿王院さんの所ですよね」

「これで決まりだ。編集長の1人勝ちか1人負け。よし今夜は飲めるぞ」

「そろそろ、仕事しろ。飲めなくなるぞ」

円さんの一声で皆それぞれ仕事を開始した。


編集部の皆がそんな賭けをしている頃、僕は地下鉄に揺られていた。

地下鉄を降りて駅からしばらく歩いた。

鹿王院先生の自宅兼書斎は編集社から1時間程の所にある閑静な昔ながらの大きな屋敷が立ち並ぶ住宅街にあった。

「たしか、円さんの地図だとこの辺なんだけどな。あっ、あった。凄い門構えのお宅だな」

それは昔の武家屋敷みたいなお屋敷だった。

立派な門の表札に鹿王院と達筆で書かれていた。

大きな門をくぐり玄関に向い、着ていたダッフルコートを脱いだ。

「ゴメンください。インフィニート出版の物ですが。原稿を頂に上がりました」

僕がそう言うとしばらくして玄関の引き戸が開き。

落ち着いた感じの和服姿で割烹着をつけた上品な小柄な奥さんらしき人が出てきた。

「あらあら、可愛らしい坊やだこと。上がって待っていてくださいな。さあ、どうぞこちらへ」

奥さんに案内されて座敷に通され背筋を伸ばして正座をする。

脇にダッフルコートをたたんで置くと奥さんがお茶を持って来てくれた。

「寒かったでしょ。お茶でも飲んで温まって待ってくださいね。主人に伝えて参りますので」

「いただきます」

頭を少し下げてお茶を頂く。

奥さんが少し不思議そうに僕の事を見て部屋を出て行った。

「どこかであんな可愛らしい坊やとお会いしたかしら? あなた、インフィニート出版の方がお見えですよ」

「山ノ内なら待たせておけ」

「それが今日は初めていらっしゃった方でとても礼儀正しい可愛らしい坊やでしたよ」

「なんだ、山ノ内じゃないのか? けしからん担当を勝手に変えよって」

「あらあら、あなたは山之内さんがお気に入りですもんね」

「あいつは息子みたいなモノだからな、それで名前はなんと言う奴だ」

「聞くのを忘れてしまいましたわ。聞いて参りましょうか? でもどこかでお見受けした事があるような気がするのですが」

「ああ、もうい良い。わしが直接追い帰してやる」

そう言って白髪交じりで深い緑色の着物に枯色の羽織を着た鹿王院が書斎から立ち上がった。


僕が二口目のお茶を飲んでいると奥の方から初老の着物姿の男性が歩いてくるのが見えた。

たぶんあれが鹿王院先生なのだろうと思い。

茶碗を置き少し、深呼吸をした。

すると鹿王院先生が座敷に入るなり僕に話しかけてきた。

「待たせて済まないな。君は始めて見る顔だね。名前は何と言うのかな?」

「香乃木と申します。初めてお目に掛かります。ご挨拶が遅れ大変申し訳御座いませんでした。本日は山ノ内の代理で参りました。これを気にお見知り置きをいただけたら幸いです」

鹿王院先生の方に体を向けて頭を下げて挨拶をした。

「香乃木君? はて? どこかで……! か、母さんや。直ぐに原稿を持ってこないか何をグズグズしている。ああ、もう良いわしが取りに行く」

そう言って鹿王院先生が慌てて座敷から出て行ってしまった。

僕が少し驚いていると直ぐに鹿王院先生が原稿を持ってきてくれた。

丁重に頭を下げて原稿を受け取り、鹿王院家を後にした。

「もう、あなたは嫌ですよ。いきなりなんなんですか?」

「何であんな方が原稿取りなどしているんだ?」

「あの坊やをご存知なんですか?」

鹿王院が奥さんに耳打ちすると奥さんが目をまん丸にして驚いていた。


僕はかなり早く原稿を受け取る事が出来たので立派な門前で一礼して。

なるべく早く帰ろうと駅に向かい駆け出した。

「ただいま戻りました」

そう言って僕が編集室に戻ったのは2時半を少し回った時だった。

編集室に僕が入るとなんだか朝の時と違い空気が一変したのに気が付いた。

「鹿王院先生から原稿を頂いてきました」

僕が編集長の円さんに原稿の入ったドキュメントケースを渡すと僕が渡したドキュメントケースを自分のデスクの上に放り投げて僕に抱きついてきた。

うわぁ、や、柔らかい物が、か、顔に当たる。

うう、でもなんだかいい匂いがする。

顔が赤くなるのが自分で判った。

「円さん止めてください」

「コオロギ、お前は凄いよ。俺の思ったとおりの奴だよ。よし、ご褒美だ」

僕が恥ずかしがって離れようとしているのにいきなり僕の頬を両手でおさえて僕の唇にキスをした。

顔が真っ赤になり、僕が円さんの裸を見てしまった時と同じ様に全身から力が抜けて床に崩れ落ちた。

「あ、やべぇ。また、やちった」

「おいおい、アリス。いたいけな少年を弄ぶなよ。コオロギは天然記念物並みだな。キスされただけで気を失うなんて。しかし、どんな魔法を使うと鹿王院からこんなに早く原稿を取れるんだ? 往復に2時間としたら実質、鹿王院の屋敷に居たのは30分くらいだぞ」

「さぁな、俺には判らない。しかしコオロギの奴どうするかな。常盤、悪いがコオロギをソファーまで運んで寝かせてくれ。壊れ物扱いだぞ、俺の下僕なんだから」

「ういーす」

山男の常盤が香乃木の体を羽毛の枕を掴むように軽々と持ち上げてソファーまで運んで寝かせる。

すると三つ編みメガネの宇多野が円に問いかけた。

「編集長、またって。香乃木君に何をしたんですか?」

「ああん? シャワー浴びた後に体に巻いていたバスタオル取って全裸をコオロギの目の前で晒した」

「ブフォ! ゲフォ、ゲフォ、ゲフォ! うげぇ~死ぬぅ。編集長の全裸なんて俺でさえ見た事無いのに」

今日2杯目のコーヒーを色魔の鳴滝が盛大に噴き出した。

「バーカ、鳴滝になんか死んでも見せるか。そのまま死んでおけ」

「あ~あ、鳴滝さんはコーヒー塗れでアフターは今日無理ですね」

「優しい、優しい宇多野ちゃん。お願いだからデートしない?」

「私、鳴滝さんに全く興味ないですから、お断りです」

「うう、宇多野ちゃんにまで嫌われちゃった。鳴滝生きていけない」

鳴海が立ち上がり自分の肩を抱きしめて体をくねらせると編集部の全員がサムズダウンしてブーイングを上げる。

編集長の円が缶ジュースを買ってきて香乃木の枕元に座り。

香乃木の額に缶ジュースを当てて顔を覗き込んだ。

「アリスはコオロギにゾッコンか?」

「バーカ、そんな訳ねえだろ。くそ親父狩るぞ。でも、こいつと一緒に居るとなんだか凄く落ち着くんだよ」

「編集長、そう言うのを恋って言うんですよ」

「ああ、うぜぇ。俺はもう恋愛なんてしねえよ、理由は全員知っているだろうが」

「ニブチンなんだか、頑固なんだか」

「鳴滝、本当に殺すぞ。てめぇ」

「ああ、怖い。怖いから出先から直帰しまーす」

「鳴滝、俺のデスクに1万きっちり置いてから行けよ」

「ちっ、覚えていたか。了解です。それじゃお先デース」

そう言いながら鳴滝が1万を机の上に置いて編集部を飛び出していった。

円が溜息をつきながら香乃木の額を缶ジュースで軽く? 叩くとゴンと鈍い音が編集室に響いた。

「コオロギ、いい加減起きろ」


僕はおでこに強い衝撃を受けて目を覚ました。

起き上がりおでこを触ると大きなたんこぶが出来ていて鈍い痛みを感じると目から涙が溢れてきた。

「う、うう、痛いよ……」

「おい、アリス。今のはかなり痛いと思うが?」

「悪かったよ、謝れば良いんだろうが。コオロギ、ゴメンな悪気は無かったんだ。ちょっと力の加減を間違えたんだ」

「力の加減を間違えても叩いたんでしょ」

「ああ、もう。それじゃ俺の頭も殴れ」

円さんが綺麗な髪の毛を掻きむしりながら、僕の目の前に頭を突き出してきた。

女の人を殴る訳にもいかず。

円さんの頭を撫でてみると髪の毛が絹の様にサラサラだった。

「女の人に、手を上げられる訳無いじゃないですか。僕は男ですよ」

「かぁ~コオロギは痺れる事言うね。しかし、コオロギもアリスと同じくらい訳判んない男だな。うぶなのか、泣き虫なのか、それでいて紳士みたいな事言いやがるし。平気で信じられねえ事をこなしやがる。明日からが楽しみだよ」

デスクが僕の顔を見て不思議な事を言っていた。

僕は少しだけ泣き虫だけど普通だと思っているのに。

「帰るぞ、コオロギ」

「はい」

僕が立ちあがると円さんがまた頭を撫でてくれた。

円さんに頭を撫でられるとなんだか判らないけれど心が温かくなるような気がした。

円さんはそんな優しい人です。

「帰るから、全員出すもん出しやがれ」

円さんがデスクや常盤さん、それに宇多野さんから1万円を受け取っている。

「よし、今日は俺の1人勝ちだな。4万ゲットだ」

「円さん、何のお金ですか? それ」

「アリスと賭けをしたんだよ。コオロギが鹿王院の屋敷に行って3時までにかえってこられるか。それで俺たちはあり得ない事に負けたんだ」 

デスクが僕に教えてくれた。

先ほど思ったことを訂正します。

やっぱり円さんは悪魔の様な人でした。

「コオロギ、くだらない事を考えてったら殴るぞ。帰るんだ。4万渡すから俺のために美味しい飯を作れ。いいなこれは命令だ」

再訂正します、悪魔の様な鬼でした。

うわぁ、また殴られた。

「痛いよ、円さん」

「くだらない事考えてないで早く来い」

円さんが僕の首根っこを強引に掴んで引きずる様に編集室を後にする。

僕は残っているデスク達に「お先に失礼します」と言うのが精一杯だった。

そしてなし崩し的に円さんに振り回されるままに円さんのマンションに転がり込む事になったしまたのだ。

「デコボコ漫才コンビが帰ったから俺達も撤収するぞ」

「うぃーす」

「はーい」

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