第6話 生きる為の世界を見た眼
ここが生きていた世界だろうか
ふと疑問に思う、いま目の前に何があるんだろう、と
空の色、部屋に入る感覚、ブルーベリーの花の形、庭の農園の広さ、育ててもらった両親の顔。
記憶、意識やそれに連想させる私を形作るもの
もう心はただまるでガラクタのように壊れた自分がいた頃
昔、私の目が見えなくなった頃の話
目が見えなくなった私はどうやら布団の感触のある場所で意識が起きたようだった
少しして目が疼いた、まぶたを動かすと鈍痛と呼べる痛みがそこに広がる
「痛ッ……!」
瞬間、それはあの時殺された血だらけの両親と燃え盛る畑、
そして仮面をかぶった男、気味の悪い道化師が頭を駆け巡った
あの日から一日は立ったんだろうか
「そうか…私の居場所もうないんだ」
小さく虚ろな意識の中、私は声にならない音で呟いた
それからどれくらいかわからないが
私の感覚で半日は過ぎていそうなほど長いと感じた時間がたったころ
コツコツと軽く弾みのいい靴音、それが聞こえなくなり数秒だった
扉が軋むのが聞こえて、急にガタリと閉まったのが耳に入った
「君か、両親を失った農村に住む少女は」
とても低く威厳のある声といった印象だった
いくつか私より年上でおそらく大人の男だろう
どうやらここは病院で私のことを知って心配した人間が訪れたと私は錯覚した
「君には生きるか死ぬか選択してもらう」
私は心になかで少しだけ驚き、その後死を受け入れる恐怖に襲われそうになったが
心の真ん中にえぐられた様な空いた丸い穴は感じるという感触もあまりに残っていないようだった
「私はもう生きていく力を失ってしまったわ。
もう私には何も残っていないですから」
私はグッっと手に力を入れた
哀れな自分の姿に生きてゆく力はなかった
「復讐をしたくはないか?
仮面の男を殺すために、我々のところへ来ないか?」
私は銃弾を打たれたかのように前を向き、体は直立した
けれど気持ちは漠然としていて、今の状況を理解できない私は返答をためらう
「私は…わからないです」
とっさに私は発言していた
「三日後に答えが欲しい、それまでの食事は出そう」
男は決めていたのだろうか、ある程度予測してここに来たんだろう
私はそれからジッと前を向いて何かを見つめるように考えた
男が立ち去ろうと扉に手をかけて少し開いたような音がしたときだった
「どう死んでいくかは私の知ることではないが、
どう生きていくかは私が決める」
そう聞こえるように彼は言って部屋を後にした
私には彼とそれを取り巻く者を知らず理解が及ばなかった
しかし、その言葉には妙に私に生きる居場所を与えると言ったように聞えた気がして
ならなかった
意識せず過ごしてきた毎日に比べてまるで短く過ぎる三日だったのは覚えている
もし弟が生きながらえているなら、助け出すことができるなら生きるという理由も
あるのではないだろうか
そんな日が過ぎて彼は現れた
私に返答を求めるためだったが、私の心はもう決まっていた
これからどんなことが待ち受けているだろうか
私の心臓は昨日より今日、今日より明日へと鼓動が増していった
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