第5話 酒場とシードル、グリフォンの旗

あれから北に向かい歩いてきた私たちはビエルゾンについていた

夕方が過ぎ、町が夜の顔に色づき始めたころ頃、私たちは組織のもの

つまりユリウスの人間が来る酒場へ向かっていた

店の外に大きな酒樽と夜の街を照らすランプを備えた外観だった

中はやや薄暗がりのわずかな照明とバーのカウンターや小さなテーブルしかない

どちらかと言えば質素な部屋だった

先客が何人かいたがカウンター前の一番端にいる男の隣に私は腰かけた


「シードルを一杯」

「三リーヴルになります」

良い体格をして髭を蓄えた店主であろう男性は対価を要求した

私は小奇麗で小さな財布からリーヴル紙幣を三枚取り出してカウンターに置く

そうして男は古ぼけたラックからグラスを取り出し、シードルを注いだ


店主はどうぞ、と手を差し出したので私はグラスに口づけてシードルを含んだ

甘酸っぱい味わいが広がった後に僅かにも苦味が残る

果実の多かった農園で過ごした私にとっては馴染みある林檎の発泡酒だからか、

よく好んで仕事が終わると飲んでいた


「よくやった、ブルージュは引き続き我々が見守る。

次の仕事の話がある。中に入ってくれ」

店主はうつむきながらそう静かに呟き、カウンター奥の扉を開いて言った

私は言われた通り飲みかけのシードルを置いたまま案内された部屋の中に入った



開いた扉の先は小さめな異様な雰囲気の部屋だった。

この国のガルデア王国の国章グリフォンが描かれた旗が大きな奥の壁につるされていて、

幾つか長身のマスケット銃も立てかけられている。

中央の円形のテーブルに二人の男が座っていた。

その一人の見覚えのある男が急に立ち上がり明るい顔で駆け寄ってきた。


「レディ!いやー生きててよかったお仕事お疲れ様、今日もありがとうね!」

金髪高身長の爽やかで軍服を着て身なりの整った男だった

満面の笑みと呼べるほどにこやかに笑っていて周りの目を気にしてすらいないようだった


エバン、昔からこの男だけはいけ好かなかった

組織に入ってから様々なことを教わったが彼にはあまり敬意は払えなかった

悪気はないのかもしれないがまるで私に対して負い目も感じていないように感じたからだ



「それはどうも、で次の目的なんだ?」

その話に違う男が話し込んだ

「サンドラが動き始めた、彼らも契約者集団を編成しようとしている。

彼らが力を持ち始める前に潰す必要がある。

お前の任務は北の町オルレアへ行き、イシュトという学者を保護することだ」

がたいのいい筋肉質で落ち着いた男は言う

この男はマティス、何もない私に殺しのすべを教えてくれた恩があり

そしてユリウスの幹部、私の契約者としての主でもあった



「保護なんて俺には向かない、俺がすることじゃあない」

「我々が保護できればいい、問題は奴らの手に渡る前にこちら側に引き入れることだ」

「それはそいつが殺される危険でもあるのか?」

少しの間沈黙が私たちを包んだ

大柄な男はふぅっと下をうつむいてまたこちらの目をしっかりと見つめて言った




「詳しくは言えないが奴らは彼を欲しているということだ。

我々も同じこと、悪いがこれ以上は言えない」

そこまでユリウスについて深く知る必要はなかったが、私は弟の情報に近づいているのか

不安でならなかった。

だから一言零した

「ルカの情報がもしわかったら教えてくれ」



間を開けてマティスは続けた

「約束はできない、が努力はしよう」


先に進まずにはいられなかった

なぜなら私が生きる先にあるものはもう弟のことしかなかったからである

扉をひらき私は店を出る

夜の外は寒く風がたなびいていて向かい風が私に吹き付ける

それでも明かりから明かりへ私は歩いた

北へ北へと先を急ぎながら

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