第4話 死の契約の代償

6月の梅雨に入りかけたころ、

まだカラッとした陽気で日差しもある

風でなびいた、さほど大きくない家の畑の前で

病弱な私は座っていた



「ほらっ取れたよ!お姉ちゃん!」

手に取った小さな実を私に見せつけてきた小さな少年

そう弟のルカだ

まだ5,6歳くらいなのに元気に家の畑を飛び回ってブルーベリーをよく食べていた



「ふふっもうルカ、食べ過ぎよ?

これくらいにしないとブルーベリーがかわいそうだわ」

私は多少食べることは問題ないだろうと思ったが

私がしっかりしなくてはとお姉さんぶっていた


「いいじゃん!こんなにたくさんあるんだよ?

お姉ちゃんの目にもいいかもしれないし」

「だめよ?お父さんだって困っちゃうわ」

弟はえー、と声に出して納得ができないようだったが

少しその顔を見ていると徐々に理解したのか反省はしているようだった


「わかった!でも一つ聞きたいことがあるんだ!」

はきはきとした楽しそうな口調で言う弟に負けた私は理由を聞いた


「なに?聞きたいことって」



「どうして僕は死んじゃったの?」




ぞわっとした、末端の神経が痺れて目ががくがくした


「うわっ!」

驚いて私は飛び跳ねてベットから起きた


ずっと会いたかったからか弟が夢に現れてしまったのか、と妙に理解したが

目をぱっちり開いた私は唾も呑み込めない、

詰まらせたものが通り過ぎたと思い込んだ感情は

いまだに喉を通ってはいなかったようだった


私は震えた手を重ねて目を伏せるように当てた


「…私が聞きたいよ……!」

真っ暗な夜、窓から私を照らすように月の光が入っていた




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教会の辺りは夜には静まっていた

その屋内では夕食を終えた教祖が部屋に帰る頃合いだった



「なんだね?これは」

壮年の男、教祖と呼ばれたラングストは使いに聞いた

「さぁ?差出人も書いていない手紙でしたが中身はまだ拝見してません」

かしこまった様子で使いは言った



「まったくそんなもの受け取ってどうしろというのだね

一応これは見るがな

困るんだよ、死んだ人間を蘇らせてほしいとかいうやつらが来るとね」

ぐちぐちいって教祖はその場所を後にした

使いはやれやれ、といった感じで疲れた顔をして戻っていく



ガタンと扉を開けた壮年の教祖は簡素な部屋の窓際の椅子に座った

そして手紙の封を破り、中身を見た瞬間だった

衝撃を受けたような顔つきで小走りしながら部屋を飛びてていった






それから時間が過ぎた真夜中という頃だった

昼間の人だかりが嘘かのような誰一人見当たらない教会の広場で

走りながら教会から出てきた男、ラングストだ

その男は辺りを首をブンブン振り回しながら何かを探しているようだった

片手に手紙をクシャクシャに握りしめていた




「よう!遅かったな

デートに遅刻するなってわけじゃないけどさ

待ってる身にもなってほしいね」


後ろを振り返ると

黒フードを被りロングコートに身を包んだ少女がラングストの目の前には映った


        あるじ

「お前か…?私の主を殺すといった人間は?」

男は疑うような目で私をうかがっていた



「ああそうさ」

私は顔を上げ気だるそうに答えた


ふふっと教祖が笑い表情が崩れ緊張した空気が薄れた

「お前のようなガキに主を殺すことはできないさ

帰りな」

シッシッと左手を払うしぐさを見せて私を遠ざけた



「主ってのは神様のことじゃあないんだろ?

俺はわかってるさ」

だからなんだという男の顔だった

私は続けて行った



「血の契約は主と契約者を結ぶことだ

その恩恵で契約者は能力を扱うことができる

だがその代償は主が死ぬと契約者は死ぬ」

私は知っている、彼らが何者でどういう人間であるかを

教祖の表情が変わる、それは鋭い目つきでこちらを睨んでいた



「はははっ君は実に愚かだな、勝ち目はない諦めたまえ」

ラングストは指を高く鳴らした


昼間まで息絶えていた獅子が教会の裏庭から現れた

獲物を欲しその牙で喰らわんとする表情だ


「さっさと来るなら来いよ!」

私は懐からダガーを二本取り出し右の片手で振って投げる

刹那、その刃は見事に獅子の両目に刺さり生ぐるしい音を立てた



「なにぃ!」

教祖は驚きを隠せなかった

年端もいかぬ少女一人で猛獣を瞬時に殺して見せたのだ



「おいおいその程度じゃ俺を殺れないぜ?」

ニヤッと笑いながら私は言った

そのまま私は間合いを近づけ歩み寄りながら、殺す時をうかがった

ラングストは自らのコートを投げ捨て私の目の前に広がった時だ

私は間合いを取るために後ずさりして後ろに下がると、左から大きな影が映った

教祖は今だと言わんばかりに彼の大きな右手が私に迫った

そのまま私の頭蓋骨を掴みフードが取れ黒いショートヘアの髪が姿を見せた






「死ぬ前に私の能力を教えてやる!左手は生命を与え、右手は死を与えることだ!

神の怒りを喰らい死ぬがいい!クソガキが!」

怒りに満ちた教祖は痛いくらい私の頭を掴んだ



「ネタばらし早くないか?」

男の大きな右手の隙間から怪しくも黄色く目が光った

そのままムッとした表情で教祖は力を何度も入れようとしている

しかし一向に殺せなかった、なぜだ疑問に思った瞬間だ


物が下に落下するような音がした

右手の関節から赤い雫がこぼれ落ちていく

やがてその速さが増した

右手は綺麗に切り落とされたのだ


「うわあああああああ!」

右手の持ち主は叫び泣いた

今感じている右手の痛み苦しみは今まで奪った者たちの痛みだ、といったとこだ


「俺は殺し屋だ…

殺し屋ってのは仕事で殺ることは作業なんだよ

      ころし

俺らには人の壊し方ってものがある

急所や関節、秘孔であったりな

     それ

俺の目には場所が見えるのさ


この黄昏の眼、トワイライトアイズにはな」


私にはすべて見えていたのだ彼の弱点

いわばその部分をつけば簡単に殺れる場所が

男が辛そうな顔をしながらたじろいでいた


「俺もお前も同族さ

・・・・・

失ったものを得たら、血の契約者だろ」

そうだ、私たちはその場所から生き返った人間なんだ

きっとこの男も失った人間であるだろうと私は感じ取っていた


「不自由な人間が感じるもの何だか知ってるか?

それは劣等感さ

だがそいつはトリガーにもなりえる

人間ってのはよくできていてそれを克服しようとするものなんだ


俺の両目は見えなかったが俺の主が与えたものであり、俺の能力の可能性だった

       ・・・・・

あんたも両手を失っていたんだろ?」

教祖と呼ぶにはおどけていて恐れをなしていた右手を抱えた男はこくこくと頷く



「一つだけ聞かせてくれ

ルカという能力を与えれる主の少年を探しているんだ

何か知らないか?」

そう私の目的はこれだった

息が詰まる、こんなことをするのは不本意だが探すためには仕方がないんだ



「神は私をお救いなさる…」

神父はおどけながらも目を閉じて祈りをささげていて聞く耳を持っていなかった

そのまま同じ答えをただただ繰り返していた


「悪いが俺も仕事なんだ、殺さないことはできない

じゃあな、神様によろしく」


直後彼は息絶えた

胸には一か所だが急所と呼べるような場所に外傷を残していた

私は行き場のない思いを抱えて教会を後にした



「彼は多くの信者の生命を奪い、神の技と言って動物や花に生命を与えていたんだ」

クライヴは淡々と語った


「生命をまるでものみたいに使えるんだな」

俺は明るくなり始めた空をジッと見つめて答えた



「それにしても見事だったよ!これでユリシスも信用を置いてくれるかなぁ」

クライヴは明るくも見えるが私の目には不安そうにも見えた



「どうだかいいように使えるうちは使うだろうけど…

ユリシスの敵対組織は少なくはないからな」

奴らにいいように使われているのは間違いない

だが関わった以上逃れることはできないのだ

背中を見せたらもう居場所はなく生きていけないだろう




「ルカって子見つかるといいね」

私は思うことあって今の気持ちを整理できてなかったからか返事はしなかった

けれどルカは生きている、そんな気がしてならないんだ

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