第4話 ゴキブリ女

 私の名前は小夜啼鶯(さよなきうぐいす)。

 メイド喫茶ベインナガレスで働くメイドです。

 私は、昨日のお昼のまかない料理に、メイドリーダーの綾子からの嫌がらせを受け、ゴキブリの死骸を無理やり体に入れた為、今朝からとても体調がすぐれないのです。

 私は今、オーナーが準備してくれたアパートの寝室のベッドでうずくまっています。

 私は意地でもお店に立ちたいのですが体が動いてくれません。

 今まで自分なりに孤軍奮闘を貫いてきた疲労が重なっているのかもしれません。

 私は今日お店を休む旨を伝えるためにスマホを手に取り、メイドリーダーの綾子のスマホに電話をかけます。

 昨日の騒ぎの直後なので、私は極力彼女と喋りたくはありませんが、仕事の為と自分に言い聞かせます。

 何度目か続いた後、彼女の声がしました。

「・・・・・・だれ?」

 彼女の声を聞いた途端、私の心臓の鼓動が急激に早くなり、昨日の出来事が頭の中を駆け巡ります。

 私は先輩メイド全員に自分の番号を伝え、登録をしておくように指示を出したはずですが、どうやら彼女はそんな事はお構いなしのようです。

「小夜啼です。綾子さん今よろしいでしょうか?」

「物凄く忙しいです。電話切っていいですか?」

 綾子は私に対する嫌悪感を隠そうともせず、悪態をつきました。

(綾子、誰と話してんの?)

(最悪な奴。いちいち電話かけてくんなっつうの!)

(もしかして、ゴキブリ女?)

(そのまさか。朝から超気分悪い)

 綾子と先輩メイド達との会話が聞こえてくる。

私は聞こえない振りをして話を続けます。

「すいません。今日私どうしても体調がすぐれないのでお店をお休みさせて頂きたくて、電話をしました。」

「は?何で私に言うの?」

「私の管理能力が足りなくていつも綾子さんがお店を管理してくださっているので、責任者の方に連絡が必要だと思いまして。」

「・・・・・なんなのあんた。」

「え?」

「本当にいつもいつも自分の事しか頭にないわね!私たちの話なんてまるで聞こうともしないくせに、好き勝手やりたい放題じゃない!」

「すみません。綾子さん何のお話ですか?」

「あんた、オーナーの女だからって調子に乗り過ぎんじゃないわよ!」

(私がオーナの女?どうしてそういう話になっているの?)

「綾子さん、先ほどから何を仰ってるのですか?」

「ほんとうざいわね!ヤリマンはヤリマンらしく男にまたがってなさいよ!」

 綾子の声がどんどん大きくなり、私は堪らずにスマホを耳から遠ざける。

「二度と電話かけてくんな!ゴキブリ!」

 私はあっけにとられ、直ぐに電話をかけ直す気になれたかった。

私は数分後、綾子のスマホに電話をかけ直してみたが既に着信拒否登録をされていた。

 彼女は私に『話を聞こうとしない』と言っていた。

(話を聞かないのはどっちなの?都合いいのはそっちじゃない!)

 綾子は普段、先輩メイド達の勤務シフト管理を行っているので、私が彼女に電話をしたのは当然の話なのだけれども、彼女は私を完全に拒否してきた。

 綾子は異常な程、私を嫌っています。

 彼女との関係修復はもう不可能なくらい悪化しています。

 私も彼女の立場で考えるなら、いきなり来た人間に好き放題されたのなら、気に入らないのは当然だと思います。

 でも、それだけでは私もここまで嫌われはしないとは思います。

 何が原因でこうなってしまったのか、お互い話し合いの場を設けて追及をしないと、解決の糸口が見えてきませんが、今はまだ無理でしょう。

 私もとても彼女を許せそうにありません。

 私は綾子が大嫌いです。

 私の耳には彼女から言われた暴言が強く残っています。

 彼女との電話でのやり取りの所為で、体の疲労度は全く変わってないのですが、意識だけははっきりしてきました。

 私は重い体を引きずりながら、お店に向かう準備を始めました。

 彼女に直接会ったのなら、すぐにでも顔を殴ってやりたいです。

 それでも、私が今体を動かすことができたのは彼女の存在の影響です。

 頭で分かっていても、絶対に認めたくない

 どうせ私は、ゴキブリ女。

それならいっそ、彼女にゴキブリ女のしぶとさを嫌というほど思い知らせてやる。

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