第77話 果たし状と約束

―――――――――22時21分・・・・プライベートホーム


するべき話を終え紅茶を飲みながら皆と雑談をしていると、俺宛てにメールが届いた・・・・

そのメールを読む仕草に気付いたユリハは心配な顔をして俺を見ていた―――――


「大丈夫だユリハ、ただのだ。」

「え!?果たし状!?一体誰が――――ムクロ君・・・また何か変な事に首を突っ込んでない?」

「何やら面白い事を話しているな・・・PVPの申し出なら断るはずがないムクロに送りつけたんだ・・・相当な実力者か、それとも―――――」

「ムクロっちみたいな廃人ゲーマーに戦いを挑む人いたんだ・・・・

モノ好きなプレイヤーもいるんだね~世の中は不思議だね。」

「私はムクロのサポートをするだけだから好きに暴れると言いわ。

ただ、仲間わたしたちの事も考えて行動をするように。」

「皆・・・心配なのか乗り気なのか良く分からないんだけど・・・ムクロ、その果たし状の相手って誰なの?名前くらいは書いてあるんでしょ?」

アヤカの質問に俺は相手の名前と今回のPVPは普通のPVPではない事を話した――――


「まず、今回のPVP・・・いや決闘は俺達vs1での戦いと言う事と・・・相手はイベント前に出会い約束をした・・・・だ――――」

「なッ!?あのハシャが今回の挑戦者なのもビックリだけど・・・・私達全員でかかってもいいのかな?それはなんか正当な戦いじゃないよ・・・・」

「そうだな、ユリハの言うとおりだ・・・・だが、あのハシャだ・・・・まとめて全員と戦いたいと言うことはそれだけ強くなったと言う事か・・・それとも他に別の理由があるのかだろうな。」

「私はムクロが必要とするのなら手を貸すだけ・・・・今までもそうだったから、これからもね。」

「私もエリと同意かな~ハシャは全員でかかってこいや~って言ってるなら乗らない手はないよね~レアドロップするかもしれないし!ワクワク!」

「そのハシャって・・・・話してくれたドクロのモブのような謎キャラ・・・だよね?

相当強いって言ってたけど・・・私達Lv1だけど大丈夫なの?」

アヤカの心配している点はLv差で勝てないんじゃないかと言う誰もが簡単に思いつく明確な差であったが・・・・・


「そうだな・・・のゲームならレベル差は大きなアドバンテージになる。

このグロリアでもそうだ、高ければ高い程ステータスはもちろんスキルも武器も良くなる。

俺みたいにLv1の初期装備のナイフしか持っていないプレイヤーならまず瞬殺だろうな。

だが、このグロリアには秘密があるんだ――――――」

「そう、私がLv15だったあの時・・・ムクロ君はLv1・・・あの戦いは今でも忘れられない・・・・私が初めてPVPで敗北した思い出だから――――」

「え、ちょっと待って・・・・Lv差が14もあってユリハは負けたっていう事!?」

「あぁ・・・この話はグロリア内でも知らない者はいないくらい有名な話だ。

何せ、街の商店街でPVPをするんだからな・・・・」

「リアルでも話題になるくらいに激しい戦いをしたプレイヤーの名前は瞬く間に世界に広がって伝達された・・・・Lv差14の駆け出しプレイヤーが白百合の剣士を打倒うちたおしたと――――――」

「で、その秘密が・・・アバターにもモブにも弱点があって、その弱点に攻撃さえできれば大幅に体力を削り切る事が出来るっていう秘密があるんだけど。

―――――でも、その弱点を見抜く力やLv差で生じるダメージに臆することなく立ち向かえる心の強さがないと到底Lv1がLv15のキャラに勝つことも挑む事もできない話なんだけど・・・・・それを簡単にやってのけたのがこのムクロっちなんだよ。」

「ムクロって本当はすごいプレイヤーだったんだね。

ただのゲームオタクじゃなかったんだ・・・・」

「「「「オタクだよ」」」」

アヤカの発言に対して俺以外の全員が口を揃えてオタクと総称し、俺は少し落ち込んでいると――――――


「え、えっと・・・・じゃあ・・・私も鍛練すればその・・・弱点を狙った攻撃ができるようになるって事?その解釈で間違ってない?」

「まぁ・・・そうだな、鍛練と言ってもモブとアバターじゃ弱点が異なり過ぎて覚えるのは大変だからモブを集中的に弱点を覚えるのがいいな。」

「で・・・・話を戻すけど・・・ハシャとの決闘はどこでするの?

日程とか書いてないの?」

「それなんだが・・・・・・」

―――――――――――


―――――――


――――



―――――――――22時30分・・・3層:眠らない墓場


「まさか決闘の日が今日だったとは・・・・・」

「俺も見た時は驚いた・・・まさかメールが来てその日に決闘だなんて言われるとは一度もなかったからな・・・・それに相手がハシャと分かると断るわけにもいかないからな。」

「そうだね・・・・あの激闘の決着をつけるんだもんね・・・私達も気を引き締めないと・・・・」

「私やエリが付いてるんだから大丈夫だよ!」

「そう・・・・クーリアはともかく私の力は折り紙つき。」

「皆ヤル気十分って感じだね・・・・私は初対面だけど大丈夫かな?」

指定された広場まで来ると黒い切れ目が現れ・・・・そこからハシャが飛び出してきた。


「ワレ・・・先日の約束を果たしに参った・・・・

勝者はやはりと言うべきかそれともやはりと言うべきか・・・・

ダガ・・・どうした・・・その華奢な状態は・・・・Lv・・・1ではないか!」

「ハシャはプレイヤーじゃないから知らなかったのか・・・・ハシャとの戦いの後に始まった黄昏戦争に勝利した際に行われたメンテナンスで全てのプレイヤーはLv1からの開始になってな――――――」

「そうか・・・・ならば仕方ない・・・・ワレもこの世界の女神の計らいによってこの世界での正式な住人となった身・・・・ワレを消す事も可能だったはずのあの女神は、ワレをこの世界に固着させるとは何を考えているのかさっぱりだが・・・・仕方ない、お前たちの準備が整うまでワレもお前たちに少しばかり助力してやろう・・・・・ただし・・・ワレはワレの好きなように行動する・・・・命令も指示も一切合切通じぬ事を覚悟しておけ―――――」

「これからは協力関係だって言う事だな・・・・頼もしい限りだ。

それじゃ、ひとまず・・・・よろしくな――――ハシャ。」

ハシャはフンと一息して手を振ると俺たちにNPCの貴重なフレンドコードが届いた・・・・

どうして貴重なのかと言うと、このコードはAIの入っているNPCから得られる物で、自分がNPCに気に入られないと配布されず自分からフレンド申請ができない事もあって貴重となっている。


「ほえ~ハシャからフレンドコードもらっちゃった~」

「コレってそんなにすごいものなの?

って・・・・Lv66・・・・かなり強いキャラって事は確かだね・・・・」

「Lvもそうだが・・・あのムクロとサシで戦って生きているのはハシャアイツくらいだろう。」

「それにハシャはこの世界の住人となったと言う事で、この世界の秩序に従わなければならない存在になり・・・従来よりも危険ではなくなった事も大きな意味を持つ―――――つまり、信用してもいいと良いと言える。」

「そうだね、強い仲間が入った事は良い事だけど私達は私達で強くなって見せるから・・・・ハシャは私達が強くなるまで待ってて・・・・」

「ハッハッハッハ!!それでこそワレが見込んだお前たちだ・・・新参者もいるが・・・ムクロの眼に止まったと言う事は・・・があるのだろうな・・・それも踏まえて楽しみにしておくとしよう・・・・ワレの力が必要になればいつでも呼ぶが良い・・・・では・・・さらば―――――」

ハシャは大きく笑いながら裂け目に消えていき、残された俺達にはただの静寂だけが残されていた――――――


「戦いもなく無事に終わったし・・・・帰るか。」

「そうだね、今の私たちじゃ戦ってもやられていたと思うし・・・・今後のプランも考えないといけないしホームに帰還だね。」

「わ、私は・・・ぜ・・・全然余裕だったけどね!?」

「クーリア手と足と体が震えてるわよ・・・・でも、まさか私たちに与するとは思わなかったけれど――――」

「そうだな・・・・だが、今では奴もこの世界の住人・・・ならばそれは遠回しに仲間と言っても過言ではないだろう。」

「私は皆さんに着いて行くだけだから・・・私が一番この場に相応しくないイレギュラーだと思うから・・・・」

シュンとするアヤカの肩をパンパンと叩きそんなことはないぞと皆の方を向くとユリハ達は笑顔で近づいて来た―――――


「私達は仲間なんだから!そんな顔しないで!ね?

ほら、顔を上げて・・・笑って!に!」

「アヤカは私達の仲間だよ~これからもね!

分からない事があったら私に聞いて!

私にもわからない事は皆に聞いて!」

「うむ、これぞグロリアの醍醐味・・・新たな仲間との打ち解けあいだな!」

「皆・・・・ありがとうございます!!!

こんな私だけど・・・よろしくお願いします!!!」

「ところでムクロ・・・・アヤカは私が教育した方が良い?

きっとあの子はこのグロリアの何かを変えると私は感じたのだけれど・・・・」

「そうだな・・・・でもエリの教育はちょっとスパルタだからもう少し皆と楽しみながらでもいいかな・・・・今すぐ強くならないといけない訳じゃないしな・・・とは違うから―――――」

俺はアヤカの今後の成果を期待し胸を躍らせながら全員でホームに帰還した―――――


――――――――――22時45分・・・・プライベートホーム

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