第53話 ルールを開示する者

――――――――――14時23分・・・・プライベートルーム


俺は3人の頭を撫で撫でして落ち着かせ、レイが淹れてくれた紅茶を飲みながらくつろいでいると――――


――――――――ピンポンパンポン~~~

―――――現時刻から始まりの都は戦争イベント仕様に変更になります。


そのアナウンスが流れると、街を守るように大きな外壁が現れた。


―――――このイベントは絶対に参加だよな~

――――なんてたって報酬は各自の頑張りに合わせてらしいしな。

――――お前の得意分野のサポート枠もあるぞ・・・頑張れよ!

――――――はわわわ・・・が・・・がんばりまするぅ~~

――――おいおい、何今から緊張してるんだ・・・・開始は18時からだぞ?

――――そう言うお前こそ手が震えてるぞ?

―――――――大丈夫だ・・・ただの興奮で震えてるだけだ・・・ワクワクしてな。

――――へッ・・・まぁ・・・せいぜい頑張りな・・・


街のガヤガヤと賑やかな音がルーム内にまで聞こえるくらいにムードと興奮が高まっていた。


「わぁ~見て見てムクロっち~すっごい大きな壁が出来てるよ!」

「そうだな、想像以上に大きい壁だ・・・」

「これ程までに大きな壁を用意するって事は、相当な戦力を持っていると考えての対策なんだろうな・・・・私も不謹慎ながら燃えてきたぞ。」

「この大きな壁・・・それに空には大きな魔方陣まで展開されていますね。

空中侵入不可領域の魔方陣と言ったところでしょうか・・・・きっと落下物系魔法も何も通らない仕組みでしょう。」

「外にいる皆はこれがグロリア存亡の危機にあるって事を知らずに参加するんだよね・・・・そう言うのって、辛いね・・・」

ユリハがかなしそうな顔をしながら窓の外にいる賑やかにイベント開始を待ちわびるプレイヤー達を見ていた。


そんなユリハを黙って見ていれずに・・・俺はユリハをそっと抱き寄せ、慰めることしかできなかった―――――


「まぁ~た見せびらかしが始まったよ・・・ユリハとムクロっちのイチャイチャシーンどれだけ見ればいいのやら・・・・」

「だが・・・ユリハの言う事も一理ある・・・この事実を知る者たちと知らない物たちとでは賭ける対価の差が余りにも大きすぎる――――

まったくもって、全然フェアじゃない!」

「そう・・・この事実を知っている人たち全員共犯・・・そして、知らずに戦う人たちの分まで戦い抜かないといけないという事もまた事実・・・いまさら真実を話しても後の祭り・・・後はなるようになる事を祈りながら待つことしかできません――――」

エリエントやミスト達は俺とユリハのハグを見ながら、窓の外にいる者達に真実を打ち明けられずにこれから一緒に戦う事に罪悪感を感じながら挑まなくてはならなかった。


――――――だが、その罪悪感も吹き飛ぶような出来事が起ころうとしていた・・・・


――――ん、なんだアレ・・・・人?

――――――人が街の上に・・・・

――――――あんな空中に固定するスキルなんて見たことないぞ・・・

―――――あのプレイヤーは一体・・・・


「よくもまぁ・・・・こんなにも雑魚がわらわらと・・・私は伝令役のスヴァルトの分身・・・・

良く聞け、こちら側の飼われたプレイヤー達よ―――――

これから行われる、戦争の大きなルールを言い渡す―――――それも、嘘偽りない真実のルールをな・・・・」

スヴァルトの分身と言うアバターは空中に展開された魔方陣を突破し街の真ん中上空で維持し、全てのプレイヤーに聞こえるようにこの戦争のルールを話すと言うと、俺たちも慌ててルームの外に飛び出した。


「あのスヴァルトは何かしでかすとは思っていたが・・・・

まさか、自分からに宣戦布告するとは思わなかった―――」

「ムクロ君・・・どうしよう・・・・このままじゃ・・・」

「間違いなく、戦力の分散が狙いだろうな。」

「少しでも戦力を削ることができればあちら側にとっては大きなアドバンテージになる事は明確・・・最初からこうなる事を仕組まれていたのでしょう――――」

「これから一体全体どうなっちゃうんだろ・・・・・」

俺たちはこの位置からでは空にいるスヴァルトに手出しする事は出来ず、ただスヴァルトの話を聞くことしかできなかった――――――


「では・・・話すとしよう・・・・・

まず、この戦争において・・・公式に情報は全て正しい・・・

だが・・・これから話す事は決められた事で書かれてはいなかったルールだ。

まず、この戦争ゲームで何もペナルティ無しで戦うほど詰まらないものはなかろう・・・・

緊張・恐怖・そして・・・死・・・その全てがこの世界に詰まっている――――

そして、この世界で生きたお前たちはこの戦いで死ねば・・・

この女神スヴァルトのペナルティは滅茶苦茶だった・・・・ゲームオーバー時、その使用アバターの全記憶、全アイテム、アバターデータ、名誉、がこの世界から・・・グロリアから消滅を表していた・・・すなわち、ゲームオーバーになると過去にも未来にも向かう事無く、いなかったモノ扱いになると言う事だった――――――――


その狂ったペナルティ内容を聞くとログアウトするもの、恐怖に怯え震えるもの・・・・街は一瞬にして恐怖が伝染し、プレイヤーを犯して行った・・・・・


「くはははは・・・・迷え迷え・・・そして恐怖しろ・・・・

逃げ道は一つしかないのにどうしてもまぁこんなにもゴミのようにわらわらと――――

戦う覚悟もないのに、この場に立つな・・・・恐怖を恐怖で克服できないプレイヤーには期待なんぞしとらん・・・・なぁ・・・・・・・・それでは伝えたぞ、さらばだ・・・・くひゃははははは」

大きく高笑いをしながら、逃げ惑うプレイヤー達をゴミのように見下し・・・珍しいモノを見つけた時のような顔をして俺たちに期待の眼差しをしつつ・・・・また笑い出したかと思えば、魔方陣に自ら体を擦り当てて消滅した――――――


「全プレイヤーに恐怖と混乱を与えるだけ与えて消滅したか・・・・」

「あんなに賑やかだったのに・・・街からプレイヤーがいなくなっちゃったね――――」

「だが、あの様なペナルティを付き付けられたとしても私たちは勝利を目指すべきだ。

真実を知ったからこそ・・・・いや、ムクロの目が死んでいないからこそだな!」

「そうですね・・・ムクロはエラーモンスターとの死闘でも退く事はなかった・・・・

負ければ自分も大変な事になると知ってても、どんなリスクを追ってでもやる時はやるのがムクロです――――」

「そうそう・・・・でも肝心な時は察しが悪い時とか、バカのように可愛い時もあったり・・・・

困ったものだよね~振り回されるこちらからしたら。」

「「「うんうん」」」

クーリアの発言にミストやユリハ達は呼吸を合わせたかのように俺を見ながら頷いていた。


「よし、とりあえず・・・時間まで各自待機だ。」

「はい、了解~でも私は少しアイテムの買い出し~」

「クーリア、私も手伝おう・・・・丁度アイテムを切らしていてな―――――」

「私はマスターの所でお茶を飲んできます・・・最後になるかもしれないので・・・・」

ユリハがそっとルームに入るのが見え、俺はユリハの後を追うようにルームに戻ると・・・・


「ムクロ君・・・・私がもし仮に消えたとしても・・・ムクロ君の大切な人でいさせてくれる?」

「当たり前だ、もし俺が消えたら・・・ユリハは俺の事を忘れてくれてかまわない・・・・」

「え・・・・どうして?・・・・・どうして・・・・そんなこと言うのよ!そんなの・・・できないよ・・・忘れる事なんてできないよ・・・私、ムクロ君がいないとダメなんだよ!

まだまだ、できてないことだっていっぱいあるし・・・・それに―――――

ムクロ君が消えるなら・・・私も消えちゃうから――――」

そう言って、ユリハが俺を抱きしめながら涙を流していた・・・・


「現実の俺は何もできない俺で、このグロリアの世界なら俺は何でもできる・・・・

だからこの世界から俺が消えたら・・・何も無い俺しか残らなくちゃったうだろ・・・・

だから―――――」

「そんなことない!!そんなことないよッ!!

ムクロ君も悠一君も・・・私にとっては両方大切で・・・大好きだから!」

「そうか・・・ありがとうユリハ・・・ユリハが大切な人で俺は良かった。

だから、この戦いは何が何でも勝つ。

絶対に―――――」

「うん、私も全力でムクロ君と・・・一緒にどこまでも行くよ。

大好きなあなたと一緒なら・・・永遠に、どこまでも―――――」

ユリハと俺はギュッとお互いを抱きしめながら、お互いがお互いにとってかけがえのない大切な存在と言う事を再確認し、奥のリビングに向かった―――――


―――――――――――15時45分・・・・・プライベートルーム

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