天の子

富士市内にある、柏村病院。二十三の診療科を有する大病院である。その中に、循環器科と書かれた診察室。

女医「本当にこまりますよ。何事も放置はいかんのです。」

蘭「仕方ないじゃないですか。仕事はしなきゃなりませんから。女性の方は、みんなそう言いますけど、僕は所帯持ちですからね。」

女医「まあ、男性であればそうかもしれませんけどね、もう少し自分に優しくなったらどうです?奥さんにもききましたよ。自分が演奏活動をしているから、あの人は無理をしなくてもいいのに、何にもいうことをきかないって。」

蘭「また、余計なことを言うんだから、あいつも。」

女医「余計なんかじゃありません。奥さんの気持ちを考えてあげてください。」

蘭「これだから、女医ってのは困るんだ。強いて言えば、怠けろと言いたいんでしょ、そんなことしてたら、体が鈍ります。それに仕事があったほうが、よっぽど楽です。こんな病院、来るべきじゃなかった。やっぱりいつもいってるところに、いきますよ。」

女医「もう、好きになさってください。」

蘭「ええ、喜んで。」

と、車いすを動かして、診察室を出ていく。

待合室。アリスが待っている。

アリス「お帰り。どうだった?」

蘭「あんまり良さそうなひとじゃないな。」

アリス「体の方を聞きたいんだけど。」

蘭「変わってないよ。仕事を怠けろとか、余計な難癖を付けられただけ。」

アリス「それって、心配なんだけどね。」

蘭「女の医者は、口がうまくない。感情で動くから。仕事を怠けてはいられないよ。」

アリス「悪化したわけじゃないのね。ここ数日、苦しそうだったから、紹介したんだけど、それならいいわ。あたし、車だすから。」

蘭「ああ、悪いね。頼むよ。僕は、診察料を払うから。」

アリスは、玄関を出て、駐車場にいく。蘭が、受け付けに診察料を支払いにいくと、

そこには、先客がいた。小学生程度の男の子。隣で、女性が受付と話している。

少年「おじさん、こんにちは。」

蘭「こんにちは。今日は、おばあちゃんと一緒にきたの?」

少年「おばあちゃんじゃないよ。」

蘭「じゃあ、おばさま?」

少年「ううん、ママ。」

蘭は、驚いて女性をみる。

女性「はい。母親です。」

しかし、彼女は白髪がたくさんあり、一見すると、老婆のように見えてしまうのである。一体、年は幾つなのだろうか?

女性「順平、このお金で、あそこの自動販売機から、飲み物を買っておいで。」

蘭「順平君ですか。かわいいお名前。」

順平「わかったよ。」

と、一人で、自動販売機のあるところへいき、金を入れ、ポカリスエットを買ってもどってくる。膝には、二本のペットボトル。

女性「どうして二つも?」

順平「このおじさんにあげるの。五百円あったから、足りるでしょ。」

蘭「僕にですか。」

順平「だって、車いすの人は、地面に近いから暑いって、学校の先生が。はい、おじさんにポカリスエット。」

蘭「ありがとう。君は偉いね。」

女性「それだけが取り柄のようなものですから。勉強も運動も全然だめなんですよ、この子。」

蘭「成績より、優しい心の方が大切です。順平君、ありがとうね。おじさん、頂いていくよ。」

と、鞄の中にペットボトルを入れる。

女性「タクシーをよばなきゃ。」

と、同時にアリスがやってきて、

アリス「蘭、車玄関の前にとめたから。」

順平「あ、外人さんだ。」

アリス「まあ、よくわかるわね。」

順平「うん、髪が黄色だから。」

アリス「あら、最近は、日本人でも黄色に染めるひとも多いわよ。」

順平「でも、青い目の人はいないでしょ。」

アリス「まあ、図星だわ。よく気がつくわね。」

女性「順平、カフェで待ちましょう。タクシー、一時間待ってって。」

順平「混んでいるの?」

女性「仕方ないわ。」

アリス「介護タクシーですか?」

女性「ええ。この子が通院しているので、通常のタクシーでは、迷惑と言われていて。」

蘭「お金もかかるでしょう?」

女性「仕方ないですよ。初めて乗ったときは、ものすごい大金でしたけど。いまは、仕方なく出してます。」

蘭「何かおかしいんですよね。あのサービスは。財布のなかは、火の車になりますよね。」

アリス「ねえ、いっそのこと、一緒にのったらどう?二人ならなんとか乗れるわよ。お宅はどちらですか?」

女性「富士見台です。」

アリス「まあ、随分遠方なんですね。それなら、なおさら乗ってほしいわ。あちらのあたりは、土地勘があるから。ねえ、お名前も教えてちょうだいよ。あたしは伊能アリス。で、この人は伊能蘭。」

女性「ありがとうございます。私は宮本れい子。息子は、順平です。」

順平「宮本順平です。よろしくお願いいたします。」

蘭「ちゃんと挨拶ができるんだ。えらいな。じゃあ、一緒に乗ってくださいね。」

れい子「じゃあ、よろしくお願いします。」

と、頭を下げる。


走る車のなか。

アリス「どうして柏村病院に?どこか悪いのですか?」

れい子「はい。私たちも、どこが悪いのかわからないのです。」

アリス「じゃあ、精密検査とか、やるんですか?」

れい子「やってもらいましたけど、、、。」

アリス「ああ、結果まちですか?」

れい子「ええ、、、。」

蘭「あんまり、詰問しないほうが。」

アリス「ごめんなさい。私の、悪い癖だわ。」

れい子「いえ、とんでもないです。今日、紹介状をもらってきたんですが、ちょっときいてもいいでしょうか?」

アリス「は、はい。何でしょう?」

れい子「子供の精神科のある病院は、どこでしょうか?」

アリス「児童精神科、、、ですか。あたしは縁のない世界なので、全然わからないです。蘭は知らない?」

蘭「名前はしっているけれど、具体的にどこにあるのかは、僕もはっきりと知らないんです。」

れい子「そうですか、、、。インターネットで調べても、見つからないので、困っておりました。」

アリス「ねえ、杉ちゃんのお母さんなら知ってるかも。」

蘭「そうか、その手があったか。ちょっと電話してみるよ。」

と、スマートフォンを取り出して、電話をかける。

蘭「ああ、もしもし、、、。あ、あそこですか。はいはい。ありがとうございます。じゃあ、お伝えします。ご協力、、、。えっ?杉ちゃんが待ってる?」

アリス「なんも心配要らないわ。杉ちゃんって、おじさんの一番仲良しの人なのよ。ちょっと変わってるけど、とても優しいのよ。」

蘭「そうですか。もう、カレーをつくりはじめてしまったか。」

アリス「カレー作るのがすごく好きで、必ずご馳走してくれるのよ。」

順平「僕、カレー大好きだよ。」

れい子「一体、何なんでしょうか?」

アリス「はい、蘭の親友の方で、影山杉三さんという、歩けない方がいるんです。彼は、読むのも書くのも計算もできません。」

順平「僕もおんなじこと言われてるよ、ママに。」

アリス「でも、初対面のひとには、必ずカレーを作ってくれます。そのカレーは栄養満点で、ものすごく美味しいんです。」

順平「僕、食べてみたい。おんなじことを言われる人が、そんな美味しいカレーを作れるなら、食べて確かめたい。」

れい子「そんなこといわない、、、。」

蘭「杉ちゃん、君が一生懸命おもてなしをしようという気持ちはわかるよ。でも、」

順平「おじさん、杉ちゃんさんに、僕は食べてみたいと言ってると伝えて。」

蘭「食べてみたいってさ。あんまり辛口にはするなよ。小さい少年なんだからね。」

声「わかったよ。」

蘭「じゃあ、僕らは向かうから、作っておいてね。」

と、電話を切る。

蘭「すみません、カレーを食べていってください。彼は、自閉症のため、思い付いたものは、取消できないんです。」

れい子「自閉症、ですか?」

蘭「はい。医学的に言えばそうなるそうです。」

れい子「じゃあ、強いこだわりかあったりしますか?」

蘭「はい、ものすごいのがありますよ。いつでもどこでも大島をきています。言葉の発音もあまりはっきりしませんし、一度質問すれば、答えが出るまで質問を繰り返したりします。」

れい子「そうなんですか、、、。うちの子も、そうではないかと、学校の先生から言われていて。」

蘭「でも、彼は流暢にしゃべれるし、理論的に話せるから違うと思いますよ。」

アリス「そうそう。理由を説明したりとか、弁解したりとか、できないもの。杉ちゃんは。」

れい子「ちょっと、参考にさせてください。」

蘭「まあ、いけばわかると思いますけどね。」

れい子「わかりました。」

順平「ああ、僕はやっぱり馬鹿なんだ、、、。」

れい子「順平のためなのよ。」

アリス「あんまり言わない方がいいわよ。傷ついちゃうかもしれないじゃない。」

れい子「皆さんそういいますけど、私は、なにもわからないのです。質問すれば、みんなおんなじことをいう。私は、何を手本にしていきればいいのか。」

蘭「間もなく、到着します。もしかしたら答えが出るかもしれません。」

数分後、車は杉三の家の前で停車する。

蘭はアリスに手伝ってもらい、車を降りて、玄関の戸をあける。

蘭「杉ちゃん、つれてきたよ。カレーはできた?」

声「もうできてるよ!」

蘭「じゃあ、お客さんつれて入るからね。」

アリス「お二人もお入りください。」

母子は車から出る。

順平「わあ、美味しそうなにおいだ!」

れい子「ほんとうですね。」

美千恵が出てくる。蘭の車輪を拭きながら、

美千恵「お待ちしておりました。杉三が、どうしてもカレーを作るといってきかないものですから。どうぞ、召し上がってください。」

順平「お邪魔します。」

美千恵「あら、お行儀のいいお子さんね。」

れい子「それだけは、できるんです。むしろ、儀式みたいなことが、この子は大好きなのです。」

美千恵「そんなこと気にせずに。召し上がってください。」

れい子はしぶしぶ、順平をつれてなかにはいる。

全員、台所に入る。杉三が、カレーを皿にもり、テーブルに置く。

杉三「待ってたよ!今日は子供さんということで、ハンバーグカレーを作ったよ。」

順平「お兄さん、ありがとう。」

美千恵「まあ、お兄さんなんて。お兄さん何て呼ばれる年じゃないわよね。」

杉三「そう。もう、45なの。」

れい子「そうなんですか、、、。つまり、ご夫婦なのですか?」

美千恵「いえいえ、親子です。」

れい子「そ、そんなわけ、、、。」

美千恵「あたしなんて、もう、高齢者ですよ。」

杉三「年の話は食べてからにしようよ。せっかく作ったんだから。」

アリス「そうよ。杉ちゃんのカレーは、食べなきゃ損よ。さあ、いただきましょうよ。」

全員、テーブルに座り、カレーを食べる。

順平「美味しい!すごく美味しい!こんなカレー、食べたことない!」

蘭「辛すぎはしないかい?」

順平「大丈夫!」

アリス「甘口のルーを使ったの?」

杉三「ううん、僕は読み書きできないから、蜂蜜で加減した。」

れい子「読み書きができないんですか?」

美千恵「はい。生まれたときから、一度も自分の名前を書いたことはありません。」

れい子「それなのに、どうして超高級なホテルにありそうなカレーが作れるんです?お母様が手伝っているんですか?」

美千恵「いいえ、自己流です。全部勘なんですよ。ルーのブランドも、水の量も、トッピングする野菜や肉も。」

れい子「先程は、自閉症とききましたけど?」

美千恵「はい、言われてますよ。病院にも通ってます。それは、仕方ないですから、もう手は出しません。」

れい子「どちらに?」

美千恵「静岡病院ですよ。子供のころから、ずっとお世話になってるんです。児童精神科の。」

れい子「では、そこで診断されたんですか?」

美千恵「そうですね。でも、診断書はなくしました。」

れい子「どうして!」

美千恵「精神科なんて、大したことありませんよ。ただ、病名だけ教えてもらったら、さよならした方がいいんじゃないかしら。」

れい子「でも、紹介するって、おっしゃってましたよね?」

美千恵「まあ、病名が付くまではいけばいいわよ。でも、それ以降は全く役にたちはしない。だって、単に暴れて、薬を出されるだけだし、薬が根本的な問題を解決してくれる筈はないわ。あなた、まだ、お母さんになって間もないようだから、病院は紹介するけど、あんまり役に立たないことは、覚えておいてね。」

れい子「話がちがうじゃないですか!私は

病院を紹介してくれると思っていたのに!」

美千恵「あなたが、間違っていることを、是正したかったのよ。そのためには、きてもらわないと、始まらないでしょ。だから呼び出したの。」

れい子「じゃあ、本当に私が悪いんですね!私が、ダメな母親でなければ、あの子はいじめられずにすんだんですか?私はあの子を救いたくて、一生懸命聞いているのに、なんで何も教えてはくれないんですか?」

蘭「ちょっと待ってください。お母様がいるなら、お父様がいますよね?お父様は、何もてを貸してくれないんですか?」

アリス「おじいさまや、おばあさまのような、ご家族はいないんですか?」

れい子「高齢出産というのは、本当に悪事だとよくわかりましたわ。」

アリス「貴女、おいくつなんですか?」

れい子「45です。年をみれば、家族構成も、わかるんじゃ。」

蘭「でも、お父様はいるんじゃ。あ、もしかしたら、」

れい子「主人は、私がこの子を産んですぐに倒れて、、、。」

蘭「つまり、なくなったと?」

れい子「違うんですよ。逆をいえば、それで困っています。主人は肺の疾患のために、療養していて、私が世話をしなきゃいけないんです。世間の人は、私が介護しないとダメな嫁といい、順平の用事をしないと、育児放棄だといいます!私は、あの二人の召し使いじゃないんです!」

と、いい、テーブルをばあん!と叩く。

美千恵「どんな時代にも、どうしても通らなければならないことはあります。仕方ない時もあります。いまが、その時なんですよ。きっと。」

アリス「れい子さんは、どんな仕事をしているのですか?」

れい子「中学で、物理を教えていました。夫が倒れて、いまは、側にいなきゃいけないので、これまでの貯金で。」

蘭「そういうことですか、、、。」

不意に台所から声がする。

声「杉ちゃんのカレーって、本当に美味しい。作り方を教えてよ。ママに作ってもらうんだ。」

声「いつも、適当に作ってるからなあ。それに、あきめくらだから、具体的に何々とはかけないよ。」

声「そっかあ。パパに食べさせてあげたかった。」

声「パパに?優しいね。」

声「パパは、ずっと病気で寝ているんだ。だから、ママはいつも怒ってる。でも、馬鹿な僕は勉強もなにもできないから、カレーでも食べれば、楽になってくれるんじゃないかな。」

声「どうして馬鹿なの?」

声「だって、みんなが笑うんだ。馬鹿馬鹿って。僕はどうしても、みんなと同じことを、ノートに書けないから、先生が怒るの。だから、みんな僕の事を、馬鹿馬鹿というんだ。でも、カレーをつくったら、馬鹿と呼ばれる回数も減るんじゃないかな、と、思って。」

声「回数が減ると何かいいことあるの?」

声「ママが、もっともっと、笑ってくれるの。ママは、僕が馬鹿なのは、自分が悪いって思っているから。」

蘭「おませだけど、中身は単純素朴な子供ですね。」

アリス「そうよ。そうじゃなきゃ不自然よ。あたしたちのアルバニアでは、鼻垂れ小僧様みたいな子供はいっぱいいるんだから。多少、裸足で汚くても平気な親もいるわよ。」

蘭「多分、病院にいかせないで、彼の長所を伸ばした方がいいですよ。いまの言葉通りなら、学校で傷ついて、思春期に問題を起こすこともあり得ます。」

美千恵「障害がある、というよりは、個性的な子供、と、考えたらどうかしら。」

アリス「一体、何で精神科を受診しようと思うんですか?」

れい子「はい、あまりにも勉強ができないので、学校の先生から、育てかたが悪いと言われてしまったんです。それに、この子、言葉は丁寧なくせに、点数がとれなくて、生意気だともいわれました。だから、一度精神科で聞いてみてくれと。」

アリス「あたしの国なんて、生意気な子は一杯いました。でも、病院にはいきませんでしたよ。誰も。日本は、変な身分制度が、まだあるんですね。」

蘭「その教師も変な人ですね。それなら、退学しても良いんじゃないかな。幼いころに、そんな身分しか与えられないで、傷ついた子が、僕のところへ刺青を依頼した例はたくさんありますよ。先程も言いましたが、何か好きなものを持たせた方がよっぽどいい。少なくともこの時代は。」

れい子「でも、学校はどうなんです?将来に向けて、行かせなければならないんじゃありませんか!」

蘭「そういうのは、捨てた方がいいでしょう。無理矢理いかせたら、思春期あたりで、跳ね返りがきますよ。」

れい子「でも、ある程度、学歴はあった方が。」

蘭「跳ね返りがきたら、お母さんでは、対処できませんよ。お父さんが動けないのならなおさらです。役に立たないことに縛りつくより、彼の本当に好きなことをやらせてあげれば、それを頼りに生き抜いていけますよ。教師をされていたみたいだから、なかなかたどり着くのは難しいとはおもいますが、教師と、お母さんを切り離した方がいいでしょう。」

美千恵「順平君は、あなたの生徒じゃありません。息子です。」

れい子「はい、、、。わかりました。」

と、柱時計が、7回鳴る。

れい子「まあ!こんな時間!すぐに帰らなければ!主人も待っているわ!」

アリス「車をだしてきます。お送りするわ。」

れい子「順平は、」

蘭「台所にいますよ。」

れい子「順平!帰るわよ!」

と、台所の戸をあける。中はカレーのにおいが充満している。

杉三「上手にできたね!偉い偉い。いま、たっぱをだしてあげるからね。」

と、茶箪笥をあけてたっぱをとりだし、水洗いしてカレーを流し込む。

杉三「はい。たくさん食べてちょうだいね。」

調理台には、カレールーだけではなく、見たことがない調味料がいっぱい。

れい子「カレーを作っていたの?」

順平「杉ちゃんに教えてもらったの。」

杉三「家族にも食べさせたいっていうから、作り方を教えてあげたんですよ。いやあ、上手ですね。僕より、ずっと頭がいいなあ。」

れい子「このスパイスは?」

杉三「みんなカレーにいれました。」

れい子は瓶のひとつを手に取る。値札がついており、1080円、とかかれている。

れい子「こんな高いものを使うんですか!」

順平「だから、美味しくなるんじゃないか。」

れい子「こんなものを、こんなに沢山つかうなんて、不経済です!余計なことをしないでください。洗脳にも当たるんじゃないですか!順平、帰りましょう。カレーは捨てなさい!」

順平「でも、」

れい子「いい加減にしなさいよ!」

と、順平のほほを平手打ちする。

アリス「かわいそうですよ。いま、車をだしましたから。」

れい子「結構です!歩いてかえります。今日は余計なことをしてくれてありがとうございました。じゃあ、順平、いくわよ!」

と、カレーを流し台にぶちまけ、泣いている順平を引っ張ってでていってしまう。

蘭「杉ちゃん、君が悪い訳じゃないよ。勘違いするなよ。」

杉三は、両手で顔を覆って泣く。

杉三「余計なこと、、、。」

美千恵「そうよね、あんなに張り切ってカレーを作ったのに、あんな反応じゃ、泣いても仕方ないわよ。」

アリス「大丈夫よ、全部が全部、ああいう反応をするはずがないんだから。杉ちゃんのカレーが美味しいのは、みんな知っているわよ。」

杉三「食べ物は、余計なものなんかじゃないよ。それなのに、ああいう反応しかでなかったのは、僕が、本当に馬鹿と言うことなんだね!そうなんだね!」

と、頭をテーブルに打ち付ける。

美千恵「わかったから。部屋にいこうか。」

と、杉三を車いすごと、彼の部屋に連れていく。

アリス「しかたないわね。あたしたちは、笑っておしまいにできるけど、杉ちゃんには、できないから。」

蘭「当たり前のことが、できるんだから、幸せと思わなきゃね。」

アリス「そうね。健康は宝だわ。でも、あの男の子は、本当に発達障害かしら。」

蘭「どうなんだろうね、すくなくとも、

精神科でみてもらう必要はないとは思うんだけど。」


一方、れい子は、とても小さいアパートに帰ってきた。順平は大変眠たそうであった。玄関のドアをあけると、げっそりと痩せた男性が、一人でテーブルに座り、ラーメンを食べていた。れい子の夫、恵介だった。

恵介「どこへいっていたんだ?薬の時間はすぎたのに。」

順平「あのね、新しいお友だちのところにいってきたよ。」

恵介「それは、二人でいってきたのか?」

順平「うん。」

恵介「わかった。もう眠いようだから、部屋でゆっくり休みなさい。」

順平「ありがとう。また明日ね。」

順平は、自室にいってしまう。

れい子は、息子の部屋のふすまが閉まる音を確認し、テーブルに座る。

れい子「あなた、どうして順平にはやさしくて、私にはつっけんどんなわけ?」

恵介「順平は子供だからだ。」

そういい、咳をした。

れい子「病気に逃げないでよ。このままじゃ、うちは一文無しになる日もちかいわよ。」

恵介「しかたないじゃないか。そういうときもあるんだよ。」

れい子「(テーブルを思いっきり叩いて)そう!あたしはあんたと、順平の小遣いみたいにこきつかわれるしか、生き甲斐がないのね!もう、いいわ!あたしがいなかったら、あんたたちはやっていけないのに、そういう態度しかとらないのなら、もう、好きにさせてもらいますから!どうなるか、思い知らせてやる!」

といい、荷物をまとめて出ていってしまう。

ホテルの一室。れい子は、コンビニにある求人雑誌を手にとり、片っ端からページを開く。年齢も学歴も不問で、売春とは関係ない仕事となると、なかなかみつからない。やがて疲れはてて寝てしまった。

次の朝。ホテルを出て、カフェに入った彼女は早速電話をかけはじめた。三度目に電話をかけると、

声「はい、青春の里です。」

れい子「求人誌をみてお電話しましたが。」

声「いつから働けますか?」

れい子「これからすぐいけますが。」

声「じゃあ、来てください。」

れい子「はい、すぐに参ります。」

と電話を切り、コーヒーのグラスを返却して、飛び出していく。

その、青春の里というのは、いわゆるデイサービスであった。こういう施設であれば、猫のても借りたいほど、人手が足りないので、詳しい説明もなくれい子は採用された。さらに、従業員寮も完備していたから、すむ場所もこまらない。やった、やっと私なりの生き方が見つかった、と、れい子は大喜びであった。


数ヵ月後。杉三と蘭は、いつも通りにショッピングモールに買い物にいった。

蘭「そんなに気を落とすなよ。君が他の人より傷つき安いのは知っているけど、いつまでも落ち込んでいては、いられないんだよ。」

杉三は、なにも言わないで泣いているだけであった。

蘭「そんなに辛いなら、カールおじさんとこいく?大島を買えば、少しは明るくなるんじゃない?」

と、二人の前を警察官が走っていく。

警察官「こら、待て!何回補導すれば気が済むんだ!」

見ると、幼い少年が、カップラーメンを持って、逃げていったのだった。

杉三「あっ!」

蘭「ど、どうしたの?いきなり声をだして!」

杉三「あの子、順平くんだ!」

蘭「そんなわけ、、、でも、杉ちゃんの勘はいつも当たるから、、、。」

声「やめてください!こうしないと父が、」

蘭「この言葉使いは確かに、、、。」

声「理由はあってもいけないことは、いけないことだ。署にいって、話を聞かせてもらおう。」

と、警察官につれられて、やってきた少年は、まさしく宮本順平であった。

杉三「順平君!どうして!どうして捕まらなきゃならないんです?」

警察官「カップラーメンを万引きしたんです。これで、三度目です。」

蘭「待ってください。彼の家庭は、重大な問題があります。万引きをしなければならない理由は、そこからなのです。すこし、話を聞いてやってくれませんか?」

警察官「しかしですな、子供であるとはいえ、最近の子は平気で悪さをしますからな。」

杉三「順平君、お母さんは?」

順平「いえを出ていった。僕のせいで。」

杉三「家を出た?帰ってこないの?」

順平「うん。もう貯金も全然ない。」

蘭「お父さんはどうしてる?」

順平「お父さんはもう動けない。」

警察官「君は、どうして初めからそれを言わないの?」

杉三「お母さんに知られたくないんだよね。お母さんに、これが知られたら、お母さんを楽にさせるどころか、もっと嫌になるからね。そうでしょ?」

警察官「子供なのに、そこまで考えるのか?」

蘭「感性のよい子供ならそうでしょう。彼は特別ですよ。とりあえず、彼を親元に返しましょう。そして、彼の生活を助けましょう。このような事態であれば、大人が何とかしなければなりません。」

警察官「しかし、」

蘭「一番の被害者はだれですか?」

警察官「わかりました。じゃあ、連れていきますよ。」

順平「杉ちゃんも蘭も、一緒にきて!」

杉三「わかったよ。」

警察官「ちょっと、車いすの方は、」

順平「もう、警察なんて、何にも役にたたないんだね!」

警察官「わかりました!いきますよ!」

と、スマートフォンを出す。


順平のアパートのまえに、ハイエースがとまる。ドアをあけ、杉三と蘭を警察官が下ろす。順平が持ってきた鍵で玄関のドアを開けると、ゴミ捨て場のような腐敗臭が充満している。

警察官「な、何てこと。」

蘭「掃除や洗濯もしてないんだね。」

杉三「順平君、お父さんは?」

順平「一番奥の部屋にいるよ。」

と、いって部屋に入っていく。玄関には、段差がないので、杉三も車いすのまま、部屋に入ってしまう。

蘭「ちょっと待て!」

というが、杉三には、聞こえていないらしい。

声「パ、パパ!しっかりして!」

という声と、杉三の泣き声。

蘭は、車いすを動かして奥の間に無理矢理入る。

四畳半くらいの狭い部屋に、恵介が布団に横になっていた。枕の回りには、おびただしい血のあとで、ひどく汚れていた。蘭が恵介の額に手をあてると、火のようだった。

杉三「ど、どうして何も返事がないの!」

意識がもうろうとしているのだろう。

蘭「今すぐ、病院まで運んであげてくれませんか!」

警察官「わかりました!救急車を手配します!」

数分後に救急車が到着した。隊員は、手早く恵介をストレッチャーにのせ、救急車にのせる。

順平「僕もいきます!杉ちゃんと一緒にいきます!」

杉三をみて、隊員たちは、嫌な顔をする。

蘭「連れていってあげてください。」

警察官「こちらからも、お願いします。」

隊員「わかりました。」

と、杉三と、順平をのせて走り去っていく。

警察官「あそこまで放置するとは、奥さんも困りますな。」

蘭「そういう例はたくさんありますよね。

母親に、なりきれてないというか。はやく、お母さんを見つけてやらなければ。」

警察官「わかりました。早急に調査します。」

蘭「お願いします。」

警察官「順平君は、どうします?」

蘭「うちで預かりますよ。」

警察官「ありがとうございます。施設につれていくよりは、いいとおもいますから。」


デイサービス青春の里。

お年寄りの、食事や排泄などの世話をしているれい子。

彼女は、捨ててはいないものがあった。時々、財布から出してそれを眺めるのだった。そう、順平が創ったキーホルダー。

上司「れい子さん、お皿洗いやってもらってもいいかしら。」

れい子「すみません、私も企画部にいれてくれませんか?」

上司「ああ、あなたは庶務の方が向いているわよ。掃除とか、料理とか、それを十分にやってから、行事企画をしたらどうかと。」

れい子「(カチンときて)私だって、外で働いているんですから、なにか、ポジションが欲しいんですけど。」

上司「まだはやいわよ。学校の先生だったひとが、こういう仕事になれるのは、まだまだかかるわよ。それまでは、実務的なものをやってちょうだいね。」

その言葉には、皮肉がこもっていた。

れい子「でも、」

上司「でもじゃないわよ。教師というひとは、ただ、上から物を教えるだけで、なんの役にも立たないでしょ、そういう人はね、こっちも困るのよ。ある意味では、若い働き手を減らしている、原因にだってなるんだし。」

といって、他の場所にいってしまう。

れい子は、がっくりとおちこむ。

ここまでやっても、自分らしさはみつからない。それより物をいうのは、彼女の経歴と、家族構成だった。教師をしていたこと、夫を棄てたこと。これが、またたくまにお年寄りたちの間に広まっていた。人の噂が好きで、耳の遠いお年寄りは、人の批判ばかりで、自分の不幸を嘆くのをやめない。れい子はそう定義していた。

数日後

上司「れい子さん、貴方とお話をしたいって、刑事さんが。」

れい子はドキッとしたが、すぐに覚悟をきめた。エプロンの紐をしめ直して、玄関にいった。

刑事「はじめまして。勢多ともうします。」

れい子「はい、なんでしょうか?」

刑事「宮本順平君のお母さんですね。」

れい子「そうですが。」

勢多「彼を連れて帰ってもらえますか?」

れい子「うちには主人もいるはずですが。」

勢多「奥さんは、何も知らないんですか?いま、大変なことになっているんですよ。」

れい子「大変なことって、」

勢多「はい。ご主人は、いま、静岡のガンセンターにいます。どうして、あそこまで放置したんですか?肺癌の、ステージ4、つまり、末期癌です。」

れい子「し、知りませんよそんなこと!」

勢多「だからこそ、順平君は万引きを繰り返していました。もう、貯金もなくなっているそうですよ。」

れい子「そんな、」

勢多「もどってやってくれませんか。」

れい子「もう、余計なことを言わないでください!せっかく自分の道を見つけたのに!」

勢多「またきます。」

と、いい帰っていく。

その夜、れい子はガンセンターの電話番号を調べ、電話をかけてみた。

声「はい、静岡ガンセンターです。」

れい子「あの、そちらに、宮本恵介はいますか?」

声「ご家族の方ですか?」

れい子「面会にいきたいんです。」

声「申し訳ありませんが、プライバシーの理由が、、、。」

れい子「あ、どこの病棟にいるかだけで、構わないです。」

声「さようですか。はい、緩和ケア病棟にいますよ。」

れい子「わかりました。ありがとうございます。」

と、電話を切る。

急に力が抜けて来るが、

れい子「私は仕事はやめない。自立するんだから!」

翌日。れい子はいつも通りに出勤し、いつも通り、仕事をしたつもりだったが、

職員「れい子さん、どうしたの?なにか、上の空だったわよ。質問してもこたえないし。」

れい子「かぜでも引いただけよ。大したことはないわ。」

職員「そう?れい子さん、もうちょっとしっかりしてね。」

れい子「わかってるわよ。」

その翌日の夕方。勤務を終えたれい子のスマートフォンがなる。

れい子「はい、宮本です、あなた、誰?」

声「杉三です。」

れい子「どうして私の番号を?」

杉三「いま、順平君のスマートフォンをお借りして。どうしても心配だったんで、順平君に代理でかけてもらいました。」

れい子「と、とにかく、そっちの状況を教えて。」

杉三「教えはしませんよ。来てくれなきゃ。」

れい子「主人はどうなっているの?」

杉三「ほんのわずかしか時間がないそうです。」

れい子「順平は、」

すると、電話は途切れてしまう。裏ではすすりなき。

れい子「杉三さん、肝心なことは、しゃべらないんですか!」

杉三「だって、あまりにもかわいそうすぎて言えないんですよ。もう、とっくに決まってしまいました。」

れい子「もう、とっくに決まった?決まったって何が?ちょっと杉三さん!」

杉三「いまは、蘭のところにいますが、さっきまで福祉局がきて話をしていました!不妊症の、ご夫婦のところにいくんですよ。みんなそれで納得したけど、僕はどうしてもかわいそうで、こうしてお電話を差し上げた次第ですよ!」

れい子「え、、、。」

杉三「お分かりになりましたか!」

れい子「どうして勝手に!私の許可もないのに!」

杉三「だから、そういうきもちがあるのなら、彼を家につれて帰ってくれませんか。そうやって、行方をくらましたから、恵介さんだって悪くなったわけですし!自分の夢もいいけれど、もっと大事なことを忘れていますよ!」

れい子「そんな、、、。」

と、泣き出しそうになるが、あることを思い付く。

れい子「ありがとう杉三さん!」

と、電話を切り、従業員寮に飛び込んで、簡単に荷物をまとめ、飛び出していく。

一方、蘭の家。

蘭「いつまでも泣いてちゃだめじゃないか。仕方ないことは世の中しょっちゅうあるんだから!」

杉三「そんなこと言ったって、」

蘭「福祉局の方も言っていたけど、孤児院にいかせるよりはましだよ。血は繋がってなくても、新しい家族がとても良い効果をだすことだってあるさ。だから、仕方ないものは仕方ないんだよ。それに杉ちゃんには、順平君を預かることだってできないじゃないか。」

杉三「そんなこと、、、。」

蘭「自分の身の程をよく考えろよ、って、いったって君には通じないのは、わかっているけどさ。」

杉三「一番、かわいそうなのは、誰?」

蘭「杉ちゃん、、、。こっちの方が辛いんだよ!」

と、インターフォンがなる。

アリス「こんな時間に誰かしら。」

と、玄関のドアを開けて、

アリス「れい子さん!」

れい子「順平はどこに?」

アリス「一体、何をするつもりですか?ご主人も放置して、今度は順平君まで洗脳するつもりですか?何を考えているんです!」

れい子「順平を連れて帰ります!順平を返して!」

蘭「いいえ、お断りします。もう、里親になってくれる人は決定してしまいました。明日、引き渡すようになっていますので。」

れい子「そんなもの、とりけしてください!実の母親がこうして言うんですから、その方がより、効果的なんでしょう!」

アリス「いいえ、あなたは、母親不適格と見なされるはずです。福祉局の先生方にもそう指摘されました。だって、あなたは、ご主人も見殺しにしておきながら、息子さんを返せなんて、そんなわがままが通用すると、お思いですか?」

れい子「主人も、私が連れて帰ります。良い病院を探したりします!」

蘭「もう、遅いんですよ!」

と、蘭が何か抱えて持ってくる。中では、カタカタという音。れい子は、それをみて、卒倒しそうになった。そう、彼女の夫は、すでにあの世の人になってしまっていた。

れい子「夫の分まであの子を幸せにします。だから、順平を返してください。」

蘭「お断りします。前歴がありますからね。彼も、このような最期には、僕らとしては、させたくありません。彼には、幸せになってほしいんです。帰ってくれますか?」

杉三「待って!」

蘭「杉ちゃん!」

杉三「許してあげて。お母さんだもの、息子さんを愛さない人なんかいませんよ。ただ、やり方を知らないだけで。」

蘭「杉ちゃん、君も見たでしょうが。恵介さんの最期。やり方を知らないどころか、旦那も子供もすてて、行方をくらまして、旦那を殺害したようなもんだよ。」

杉三「恵介さんは、病院に運ばれた次の日、亡くなった。」

蘭「で、そのときどうだった。奥さんに連絡しろと、ガンセンターの方に言われたけど、できなかったでしょ。荼毘に付した時だって、みんな僕らがやって、出席した人は、」

杉三「あんな優しい人が逝って、残った息子はかわいそうだなあ。」

蘭「そう、口にしてたよね。杉ちゃん。君はあのとき、天地が割れるほどの大泣きをして。それなのに、どうしてこの人を許せるんだ?」

杉三「たったひとつの宝物だからだよ。」

蘭「保険会社の宣伝じゃないんだから。おかしな比喩はつかわないでよ。とにかく、この人は、順平君のお母さんにはなれないね!」

アリス「二人とも、言い合いをしないの!蘭、あんまり怒ると、また血圧上がるわよ!」

蘭「本当は怒鳴り付けてやりたいくらいだよ!」

アリス「とにかく、お引き取りください。うちは、そう言うわけですから。」

杉三「良いことがある。いの、忘れな草をれい子さんに彫って!」

蘭「な、なんでまた。」

杉三「毎日その刺青を見たら、忘れなくなるんじゃないか。君は、よく、彫るときにそういっていたじゃないか。」

蘭「確かに、そういう例もあるけど。」

杉三「前例があるならやってよ!そうすれば、いつまでも残るよ!ねえ、彫ってあげてよ!ねえ、いの!」

蘭「でも、彫ると様々な弊害がでるのも確かだよ。」

杉三「いいさ、それは過去の罪と思えば。どっちにしろ、背負って生きていかなくちゃならないんだ。過去は。」

アリス「名案じゃない!そう考えれば、入れ墨も、悪いものではなくなるわ。ぜひ、彫ってさしあげてよ。」

れい子「蘭先生。」

蘭「え、、、。」

れい子「彫ってください。それを彫って、私の根性を叩きのめしてください。立ち直りには多少痛くても、我慢します。」

蘭「僕は、流行りのマシーン彫りはできないので、痛みは大きくなりますが、構いませんか?」

れい子「ええ。構いません。いままでの罰として受け止めます。」

蘭「では、ちょっとこちらにいらしてください。」

と、蘭は彼女を仕事場に連れていく。

蘭「そこに座って。腕を出してください。」

れい子「はい。」

と、れい子は袖をめくり、いすに座って、左腕を差し出す。

れい子「おねがいします。」

蘭は道具を取り上げる。

一晩中、蘭の仕事場から、すすり泣きが聞こえてくる。

翌朝、太陽が上り、青空が広がる。

蘭「できました!」

アリスが鏡をもってくる。肘からしたの左腕には、美しい忘れな草。

アリス「素晴らしい!」

れい子「自分じゃないみたい。新しい自分みたい。」

と、子供が走ってくる音がして、、、。

順平「おじさんおはよう!今日の朝御飯は?」

と、仕事場のドアが開き、そこにいたのは、、、。

れい子「順平!」

順平「ママ!」

れい子は、順平をしっかりだきしめる。

れい子「ごめんね、、、。ダメな親で。」

順平「僕は、ママが大好きだよ!」

杉三「順平君、よかったね!本当によかった!」

蘭「かなわないよね。結局。実の親子には。」

アリス「そうね。」

れい子「おうちへ帰ろうか。ママ、パパのお墓にも行きたいから。」

順平「うん、いく!」

れい子「本当にありがとうございました。皆さんのお陰です。これからも、母として頑張ります。」

順平「ありがとうございました!」

二人、丁重に頭を下げ、蘭の家を出ていった。

青空が、素晴らしい朝だった。まるで、汚れを受け付けない青であった。そして、忘れな草は、れい子の腕で、輝いていた。


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