おもてなし

ある夏の日のスーパーマーケット。杉三と、蘭が買い物にきている。レジにやって来た二人。

レジ係「はい、2300円になります。」

杉三「と、なると、どれを出せばいいのか。」

蘭「ああ、この人は読み書きができないので、僕が教えます。杉ちゃん、この緑に近い色のお札が1000円だから、これを二つ出して。」

杉三「(財布をあけて)どれ?」

蘭「これだよ。野口英世。これをおばさんに、渡して。」

と、千円札をだす。

杉三「はい、これ。」

と、レジ係にてわたす。

蘭「つぎに、銀の小さくて丸いものを三つ出して。しかも、軽いものではなく重いもの。」

杉三「これ?」

蘭「そう、それが100円。それをもうひとつ。」

杉三「とった。」

蘭「さらにもうひとつとって、全部を店員さんに渡して。」

杉三「はい。(と、店員の手の中に入れる。)」

レジ係「はい。2300円、ちょうどいただきます。」

蘭「じゃあ、食品をみんな袋にいれて帰ろう。」

レジ係「蘭さんも大変ね。ご自身も体がお悪いのに、一生懸命指導して。」

杉三「僕は蘭の生徒じゃないぞ。友達だから。」

蘭「誰かが教えないと、いずれ、こまりますから。」

レジ係「偉いわねえ、あ、いまね、この店がオープンして10年になるから、記念にキャンペーンをやっているの。この箱にはいっているくじをひいて、サービスカウンターまで持っていってくれる?それによっては、豪華な商品を用意するわ。ほら、ひいてみて。」

蘭「いや、そういうのはちょっと。」

レジ係「いいえ、来ているお客さん全員にやってもらっているの。」

と、竹の筒をだしてくる。

杉三「おばさん、やさしいね。やってみるよ。」

蘭「杉ちゃん、よした方が、」

と、言うより早く、細い棒が落ちたおと。

レジ係「はい、(棒を拾い)あら、すごいわね、みて、一番よ。」

杉三「ただの黒い棒なのに、一番ってよむんですか。」

レジ係「そうよ。じゃあ、それをもって、サービスカウンターまでいって。」

蘭「ごめんなさい、数字の概念を彼は理解していないので、これは取り消しに。」

客「いつまでも、もたもたしてんなよ、秋めくらのせいで、俺たちが迷惑なのに、気がつかないのか!」

蘭「ご、ごめんなさい!杉ちゃん、はやくこれをサービスカウンターに!」

と、頭を下げて、杉三と一緒に、車いすでサービスカウンターにいく。

蘭「すみません、いまおみくじを引かせていただいたんですが、ご覧の通り僕らは相応しくないとおもうので、取り消しを。」

杉三「なんで?引いたのは僕なのに取り消し?」

蘭「当たり前だよ、あのポスターみてごらんよ。」

杉三「白い灯台なの?」

蘭「ああ、そうか、回りに書いてある文字を読めないんだよね。いい、あれは東京スカイツリーといって、僕らの生活のために使う電波塔なんだよ。」

店員「おめでとうございます!特賞として、東京スカイツリー入場券を差し上げます。」

蘭「け、結構ですから。」

杉三「それはどこにあるんですか?」

店員「東京都です。新幹線で一時間ちょっとのりまして、東京駅から、シャトルバスでいくことができます。」

蘭「棄権します。僕も彼も、遠い外国に行くようなものですから。」

杉三「いえ!いきます!東京にいきたい!」

店員「じゃあ、入場券二枚、さしあげますから、ぜひ、いってきてください。お二人とも車いすで生活されているようですが、バリアーフリーもしっかりしていますから、心配することはないですよ、楽しんで行ってきてくださいね!」

杉三「やった!ありがとうございます。」

と、祝儀袋に入ったチケットをうけとる。

蘭「とうとう、とったか。」

と、ため息をつく。


杉三の家。蘭は夕食の支度をし、杉三は縫い物をしている。そこへ、仕事から美千恵が帰ってくる。

美千恵「ただいまあ、ああ、今日も疲れたわ。あら、蘭さん、いらしてたのね。いつも、杉三の面倒を見てくれてありがとう。」

蘭「お母様、ちょっと相談したいんですが。」

美千恵「あら、どうしたのかしら?」

蘭「杉三さんが、スーパーの福引きで東京スカイツリーの入場券を引き当てたんです。彼には、東京は過酷すぎる。歩けないだけでも恐ろしい場所なのに、文字の読み書きができないときたら、地獄のような有り様になります。そんな思い、彼にはさせたくはない。だから、いかないように、彼を説得してくれませんか?」

美千恵「蘭さんは、この間の、アリスさんに再会したときもそうでしたけど、考えすぎよ。ああいうところは、外国人の方もたくさんいますし、ボランティア活動もやってるから、ちゃんとしてくれますよ。東京のディズニーランドでは、アトラクションに乗りたい自閉症の子供がいた場合、別室て待たせるとか、工夫しているそうよ。それよりまだ新しいんだから、きっと、しっかりやってくれますよ。明日あたりいったらどう?私も、明日は職場の親睦会があるし、アリスさんも、アメリカツアーで、来月にならないと戻れないんだったら、いまいけばいいのよ。いってらっしゃいよ。」

蘭「そうですか、、、。わかりました。じゃあ、新幹線でいこうかな。」

美千恵「そうよ。いってらっしゃい。それに、いまは、みんなのタクシーもあるし。」


翌日。二人は黒の着流しをきて、新富士駅に向かった。駅はすぐ近くなので、簡単についた。

二人は、車いすエレベーターで、ホームに上がり、駅員さんに車いすを押してもらって、新幹線に乗り込んだ。

杉三「すごいなあ。新幹線って、初めてのったよ。」

蘭「そうだね。」

杉三「どうしてそんなに不安なの?」

蘭「何でもないよ。」

杉三「東京はどんなところかなあ。」

蘭「人が多くて、辛いところだよ。」

アナウンス「まもなく、東京に到着いたします。」

蘭「なんだ、もうついたのか。」

杉三「駅員さんたち、待っててくれるかな。」

蘭「どうだろう。」

新幹線は、東京に到着する。駅員が二人待機していて、二人は手伝ってもらいながら、新幹線を降りる。

駅員「どちらまでいかれますか?」

蘭「東京スカイツリーまで。」

駅員「なら、みんなのタクシーを利用するといいですよ。車いすの方お二人でしたら、すぐのれます。」

蘭「ああ、ワンボックスのタクシーのことですね。ありがとうございます。じゃあ、利用してみます。」

駅員「はい、八重洲北口にタクシー乗り場がありますので、そこへいってください。お気をつけていってらっしゃいませ!」

二人は、駅員に手伝ってもらいながら、車いすエレベーターでホームをおり、八重洲北口にいく。タクシー乗り場にいくと、ワンボックスのタクシーが数台待機している。

蘭「すみません、お願いできますか?」

運転手白鳥「はいどうぞ。」

と、後ろのドアをあけて、用意してあったスロープをだし、二人をのせる。

運転手「運転手の白鳥です。どちらまで?」

蘭「東京スカイツリーまでお願いします。」

白鳥「わかりました、みんなのタクシーは、小型車と同じお値段ですので、そんなにかかりませんからね。」

蘭「あ、意外に安いんですね。」

白鳥「はい、スカイツリーにいきたい方は、障害があっても、たくさんいますからね。じゃあ、出発いたします。」

と、タクシーは動き出す。

杉三「みんな親切なんですね。」

白鳥「そうですよ。おもてなし、ですからなあ。」

杉三「なんですか、おもてなしって。」

白鳥「はい、先日、東京でオリンピックが開催されることになりまして、その標語になったんですよ。」

杉三「そうなんですか。」

白鳥「はい、だから、私どもも、こうしておもてなしをしているわけで。どんなお客さんにたいしても、常に笑顔で、親切 なおもてなしをいたします。」

杉三「だから、みんな優しいんだね。駅員さんたちも優しかったですね。」

白鳥「ははは、うれしいな。もうすぐ到着ですよ。きょうは天気もいいから、景色が素晴らしいでしょう。」

タクシーはスカイツリータウンにある、タクシー乗り場に到着する。

白鳥「はい、ありがとうございます。2000円です。割り勘しますか?」

蘭「じゃあ、千円ずつ。はい、こちらですね。杉ちゃん、これと、同じものを出してみて。」

杉三「同じものを?」

蘭「このお札。このおじさん、何て言う人だったっけ?」

杉三「えーと、えーと。」

蘭「昨日、レジであげたのだよ。」

杉三「あ、野口英世!」

蘭「そう。じゃあ、野口英世さんがのっているお札はどれ?」

杉三「これかな?」

蘭「そう。正解正解。それを、一枚。運転手さんに渡してあげて。」

杉三「はい。」

白鳥にてわたす。

白鳥「はい、受けとりました。お二人はご兄弟ですか?」

蘭「いえ、単なる友人です。この人が自閉症で読み書きができないから、こうして介助しているんですよ。」

白鳥「それはそれは、偉いですね!素晴らしいじゃないですか。じゃあ、スカイツリーを楽しんでくださいね。」

と、後ろのドアをあけて、二人を降ろす。

杉三「運転手さん優しいんだね。ありがとうございました!」

と、手の甲を向けてバイバイする。

蘭「さあ、杉ちゃん、いこうよ。」

二人は案内表示に従ってあるきながら、スカイツリー展望台の入り口まで行く。チケットを提示して受付をすませ、係の案内に従いながら、エレベーターに乗り、展望台にいく。


展望台

杉三「わあ、すごい!綺麗!」

と、硝子越しに見えている東京の景色に感激している。

蘭「綺麗だね。」

杉三「蘭ちゃん、君もみようよ。一周回ってみたい。」

二人は展望台の人垣を掻き分けて、移動する。杉三は、景色に釘付けになっている。

蘭「ほら、いつまでも、とまらないで、移動してよ!杉ちゃん。」

杉三「でも、ここ、きれいだもの。赤い屋根が、四角い建物ばっかりのなか、アクセントになって綺麗。」

蘭「赤い屋根?」

杉三「もう、四角い建物の間にはいっている赤い屋根は、誰も住んでいないのかなあ。ああいう家が、本当に家だよね。僕は四角い建物には住みたくない。」

客「ちょっと二人とも退いてよ!写真とりたいんだから!」

蘭「あ、すみません。杉ちゃん、この人たち写真とりたいんだって。」

杉三「僕は、もう少しここに。」

客「あんたたち、障害があるから、半額でここにきたんでしょうけど、いい気にナなってんじゃないわよ!早くどいて!」

杉三「ちがうよ、僕らはスーパーからチケットをもらったんだよ!」

客「まあ、余計に嫌な人たちね!」

蘭「ごめんなさい!ご迷惑をおかけして。これで、勘弁してください。ほら、杉ちゃん、行くよ!」

と、千円札を渡して、杉三の右手を叩く。

杉三「わかったよ。」

二人、下り用のエレベーターに乗り込んで、一階までいどうする。

杉三「一周したかったのに。」

蘭「いいさ、もう一回来れば。」

と、12時の鐘が鳴る。

蘭「もうこんな時間か。お昼を食べて帰ろうか。」

杉三「どこで食べる?」

蘭「ああ、すぐそこに食堂があるよ。」

二人、食堂まで移動する。食堂はごった返している。

店員「いらっしゃいませ。二名様ですね。ただいま、片付けをいたしますので、こちらのお品書きをみて、おまちください。」

蘭「わかりました。」

と、お品書きを受けとる。

蘭「杉ちゃん、これがお昼。寿司とうどんのお店だ。」

と、お品書きを見せる。

幸い、文字だけでなく、写真も表記されていたため、杉三も理解できる。

杉三「じゃあこれ。まぐろと、きしめんと、茶碗蒸しと、マンゴーがはいっているかごに。」

蘭「A懐石ね。僕もそれにするよ。」

店員「片付けができましたからどうぞ。」

と、一番奥の席に案内する。

店員「ご注文決まりましたか?」

蘭「A懐石二つ。」

店員「はい、わかりました。」

と、厨房にいく。

蘭「やっぱり東京だなあ。平日なのに、こんでいるよ。」

杉三「みんな何の電話しているのかな。」

確かに、客のほとんどがスマートフォンや、タブレットなどを操作している。

蘭「さあね、いま流行りだからね。」

杉三「東京の人はみんなやさしい。だからまた来たい。」

蘭「それは、どうだろ。でも、スカイツリーはちゃんと配慮してくれていたね。それは、認めるよ。」

杉三「まだ来ないのかな。」

蘭「混んでいるから、時間がかかるのかも。」

蘭の顔が青白くなってくる。血の気がひいてきて、蘭は、胸を押さえて踞る。

杉三「蘭ちゃん?」

蘭「う、、、。」

杉三「蘭!」

恐らく、強心剤が切れたのだろう。しかし、なにかを食べたあとに飲まないと、また別の大変なことになる。

杉三「蘭!ど、どうしよう!」

蘭は、返事をしたいようだが、苦しさで言葉はでない。

杉三「た、助けてください!お願いします!」

他の客は、スマートフォンをみたまま。

杉三「助けて!蘭を助けて!お願い!」

杉三は、蘭の背をさすってやる。その顔にはみるみる涙があふれる。

客「自分で通報すればいいじゃないか、携帯、ないの?」

杉三「僕は読み書きができない、、、。」

客「へっ!そんななりして?そんなわけないじゃないか。甘えてんじゃねえよ!」

杉三「本当なんです!」

他の客たちは、見てみぬふりをし、次々に席をあけていく。客の数より店員の数が少ないのは当たり前で、客が我先と帰ろうとするので、店員たちは、支払いの対応で精一杯。料理人たちも、急に客が注文を取り消したために、てんてこ舞いになっている。

杉三「ねえ!助けて!助けて!東京の人はみんな優しかったよ!」

不良A 「お前みたいな知恵遅れは、国からいろんな援助をもらいながら、自分では、なにもできないばかなもんだ!これでも飲んで頭を冷やせ!」

と、杉三の頭上に大量の水をぶっかけ、顔には唾液を吹き付けて、車いすを蹴る。

杉三「やめて!蘭を助けて!」

不良B 「うっせえんだよ!やっちまおうぜ!」

と、杉三と、蘭を蹴飛ばし始める。彼らには、このような出来事は、もはやうるさいというより、面白いのかもしれない。


タクシー乗り場

みんなのタクシーが到着する。すると、数人の中年の女性たちが、とおりかかる。

女性「怖いものみちゃったわね。あの人、本当に読み書きができないのかしら。」

女性「あるみたいよ。ディスレクシアっていうんでしょ。言葉は流暢にはなせるけど、文字の読み書きができないって。」

女性「できれば助けてあげたかったど、あんな不良に絡まれていたらたまんないわよ。私が怪我したら、うちの子達もいるし。」

女性「そうよね。物騒な世の中になったわ。しばらく、スカイツリーはお預けした方がいいわよ。他の店をさがしましょ。」

タクシーのなかから、その会話を聞いていた運転手は、何かピンときた。運転手はタクシーを飛び出し、寿司屋に向かって走っていった。


運転手白鳥が寿司屋に飛び込むと、

声「どんなお客さんにたいしても、常に笑顔で親切におもてなしをいたします。」

不良C 「あーあ、バカだよなあこいつ。しんじまえばいいんだよ。」

白鳥「こら、やめろお前たち!」

不良B 「おじさんも、この人の仲間?」

白鳥「彼を病院につれていくから、どけ!」

不良A「やっちまえ!」

白鳥「馬鹿野郎!」

と、それをいった不良をひっぱたく。

白鳥「痛いだろ!お前たちはそれと同じことをやっているんだぞ!」

不良C 「だったら何をやったらいいんだ!」

杉三「運転手さん、この人たちも、傷ついてる。」

不良A「どういうことだ、、、。」

杉三「居場所が、ないんだ。」

不良A「当たり前だ。学校の先公にも、親にも、勉強ができないからって、差別されて、そのうえ、こまっている人に優しくしようなんて。俺たちは、どこへいったら、必要とされるんだろう。ただ、親が勝手にやったとしか思えない。」

杉三「そうでしょ。」

白鳥「この人を病院までつれていく。君たちもてつだってくれ。」

不良A 「わかりました。」

と、蘭を背負う。

不良A 「めちゃくちゃ軽いな。」

白鳥「じゃあ、店主さん、このカードで、食事代を払いますよ。」

と、自分で持っていたスイカで、食事代を払う。

白鳥「ほら、もう一人のお客さんの車いすをおしてやれ。」

不良B「わかりました。」

と、杉三の車いすを押す。

杉三「みんな優しいんだね。」

不良C「その男、もういっちまったんじゃねえのか?」

不良A 「 いや、まだ息があるぞ。」

全員、タクシーのりばにいき、運転手は、 セカンドシートに蘭をねかせて、杉三をサードシートにのせる。

白鳥「じゃあ、ここまでだ。ありがとうな。」

と、タクシーを走らせる。

不良A 「 おいかけようぜ。なんだかすごく悪いことをした気がするんだ。」

不良C 「必要ねえよ。どこの病院にいったかも、わからねえじゃねえか。」

不良A 「 たぶん、日本医科大学じゃないかな。ここからだと。嫌なら俺、一人で行くよ。」

不良B 「栄一、お前負け犬になったのか?」

栄一「負け犬なんかじゃないよ。じゃあな。」

と、あっけなく二人の不良たちと別れて、走っていく。


日本医科大学病院。

待ち合い室で、杉三が座っている。

杉三「蘭、大丈夫かな。」

そこへ汗をふきふき、白鳥がやってきて、

白鳥「もう大丈夫だそうだよ。」

杉三「よかった。」

と、ほろほろと泣き出す。

そこへ、走ってくる音。あせだらけになった、栄一が駆け込んでくる。

栄一「あ、やっぱりここでしたね!蘭さん、どうなりましたか、気になって追いかけて参りました!」

白鳥「ああ、目が覚めれば大丈夫みたいだよ。」

栄一「本当に、すみませんでした!治療費は必ず払いますから!」

白鳥「もし、嫌じゃないんなら、張り倒してもいいんだけどね。」

栄一「はい、張り倒してください。僕はそれだけのことをしました。僕をぶん殴って、殺してくれても構いません。」

杉三「だめだよ、命までなくすのは。」

栄一「1つだけ言わせてください。タクシーという商売は素晴らしいと思います!どっちにしろ、僕には帰る場所はありません。だから、死んだっていいんです。」

杉三「てを組んだら?この運転手さんと。居場所が、どこにもないのなら、憧れに逃げるのは、普通のことだと思うから。」

白鳥「よし、君を養成乗務員として、白鳥タクシーの社員としてむかえよう。」

栄一「あ、ありがとうございます!」

杉三「よかった。」

看護師「みなさん、伊能さんがもとに、もどりましたよ。」

と、蘭をつれてくる。

杉三「蘭!蘭!よかった、よかった、本当によかった。」

と、蘭の着物の袖に顔をつけてなく。

蘭「心配かけました。ごめんなさい。」

看護師「富士についたら、必ず診察してもらってくださいね。」

蘭「承知しました。ありがとうございます。」

栄一「東京駅まで、おくります。」

蘭「ありがとう。」

杉三「東京の人は、みんなやさしいね。」


病院の駐車場。白鳥が運転席にのり、蘭と杉三は、栄一の介助でタクシーに乗り込む。夜になった東京駅にたどりつき、二人は、礼を言って富士に戻っていったのだった。

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