第2話
雨の多い季節。
だが、ここ数日は晴れが続いていた。
僕はあれから、あの時の彼女に逢えないでいた。
にじいろの雨のの中、真珠の涙で僕の肩を濡らし
柔らかな唇を僕の唇と重ね合わせた美しい
あの時の記憶は、未だに僕の頭の中にこびり付いて離れない。
もう一度、逢いたい。
もう一度、逢いたい。
………………
もう一度…逢いたい!!
出会った公園は、実は僕の家からは少し遠回りだ。
それでも何となく、あの場所を通っていれば
いつかは彼女に、また会える気がして。
…いや、いつかきっと逢える。
バイト帰りに、公園の前を通ってみる。
毎日、毎日。
今日も、彼女はいない晴れた日の夜。
次の日も、その次の日も…彼女はいない。
もう逢えないのかな…。
また数日が過ぎてゆく。
その日は、虹のような雨が降っていた。
…全く期待をしてなかったといえば嘘になる。
今日は雨…もしかしたら…
もしかしたら雨の日に…
僕は、あの公園の前を通ってみる。
今日は…
…まさか、ね。
今日はあの時のベンチに、女性が座っている。
一度だけだが、見た覚えのある黒い髪。
…もしかして…。
「あの…」声をかけてみる。
女性が振り向く…。
…やっと逢えた…あの時の彼女だ…。
何故だろう…今日も真珠の涙を流している。
理由を聞いてみたい。
「あの…」もう一度声をかけてみる。
その途端、僕の首に彼女の細く白い腕が絡みついて来た。
耳元に、彼女の嗚咽が鳴り響く。
…今日もまた、泣いているんだ…。
「…ごめんなさい…このまま…」
「少しの時間でいいんです。このまま泣かせて下さい…」
天使のような囁きが、涙交じりで僕の耳から脳までを駆け抜けていく。
「…はい…」自然と口から発せられる、僕の言葉。
僕と彼女はベンチに座って、またずっと手を握り合っていた。
不思議なことに、響いているのは雨の音だけ。
最初に逢った日の夜に響いていた、ピアノのような美しい雨音が
また響いてくる。
それはまるで二人のためのコンサートのように僕たちを包み込んで
美しい音を奏で続ける。
いつまでも、いつまでも。
どれくらい経っただろうか。
彼女はふと立ち上がり、ペコっと頭を下げて
虹の雨が降る中、去って行ってしまった。
もう一度逢えてよかった。
でも、また逢えるといいな。
強制的に現実に戻される中、僕はずっとそればかりを考えていた。
ああ…またあの公園に行ってしまった…。
私は期待していた。あの公園に行けばきっと…
他人に、期待してはいけない。
わかっている。
例え公園で一時の安らぎを得たとしても、現実に戻ればまた…
戻らなければ…戻りたくないのに、何故戻ってしまうの…?
「お帰り。遅かったね…」
「…ごめんなさい…許して…」
「許すも許さないもないよ…」
…ああ…何故ここに帰って来たんだろう…。
何処かへ…逃げたい…
何処かへ…
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