第2話 ある疑問。

神様はいつも窓際に寄って歩く人々を見ていた。


どうやら彼は自分にしか見えていないらしい。


授業中にひょいと姿を現し、驚かせる事も時たまあったのだ。しかし、見えない故に誰も神様に気付かず通り過ぎて行く。


それは、見ていてどこか淋しいものがあった。今日は雨が降っているというのに窓を開け、また部屋が濡れている。



何故消え入るような視線で外を見つめているのか。


それもまた教えてくれなかった。



「人間は本当に悲しい生き物だね。どうして同じ人間を嫌ったり憎んだりするんだい?」


「さあ。それが生きているという事だろう、感情があれば誰しも思う事だ」


「そうして息を吸うように嘘を吐くね。君は辛くないかい?」


「……俺がか?辛くはない。人間は人間である事に慣れているからな」


神様は成る程、と呟いて椅子に座る。お気に入りのクッションを膝に抱え目を閉じた。


人間は神様の為に自分とは別の布団を準備したが、寝てはくれなかった。神様はいつも椅子に座り、膝を抱え、クッションを抱いて眠るのだった。



「今日大きな人間が小さな人間を叩いていたんだ。小さな方は弱くてさ、見ていられなかった。結局泣き出してお金を出してたよ」


「お前は見ていて助けなかったのか?」


「もちろん。彼らの運命は変えられないからね……ねえ、人間にとってお金はそんなに大事な物?」


「それはそうだろうな。お金が無ければ飯が食えない、生きていけないのだから」


「水と太陽があれば生きていけるさ」


「……また極端な話だな。安全な家とそれなりの友人とお金も……良ければ娯楽になる物も欲しい」


「強欲だね」


「そうかもしれないな」


「……じゃあ、自分の為に他の人間を蹴落としたり傷付けたり。君もあれらと同じかい?」



「俺は、違う」



見え透いた嘘だった。そのつもりは無い。だが一概にそうとは言えない。


神様はふうん、と相槌を打ってまた窓際に座る。人間は、夕飯の準備をしつつ唇を噛んだ。



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