第7話
剛志が帰った後、小春はしばらくその場を動かなかった。夜になってさらに雪が強くなる。
人通りも少なくなり、誰も大木の猫に気づかない。誠はおととい亡くなったという。行けない自分の代わりに孫の剛志に伝言を頼んだという。
剛志は一緒に暮らそうと言ってくれた。しかし小春はそれを断った。
小春は満ち足りた気分で大木の下で体を丸めた。
「小春」
聞き間違うはずもない、それは誠本人の声だった。
顔を上げると、思い出の中の誠が立っていた。若いままの姿。書生の格好の誠は嬉しそうに再び名前を呼び、両手を広げた。
「誠!」
猫の姿から、彼に会っていた人間の小春へと変化し、その胸に飛び込む。
涙があふれ、再び触れた彼に今度こそ後悔しないように思いを伝えたのだった。
翌朝、一晩中降った雪によって道は白一色に染まっていた。凍てつく朝の冷たさの中、大木に積もった雪が朝日にきらめく。
大木の根元には雪の上に綺麗な三毛の猫が一匹横たわっていた。
三毛猫が最後に見た夢を人々は知らない。
終わり
猫の見る夢 雪野目 晴 @yukinomeharu
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