第5話

その日を境に頻繁に会いに行くようになった。

彼の両親も快く迎え入れてくれた。誠と両親に直接の血のつながりはないらしい。先の戦争で親を失い、親戚である今の両親に引き取られたという。

誠は医師を目指し、勉強をしているのだという。

よく近所の子供に勉強を教えていて、わかりやすいと評判もよく、子供たちに人気だ。家を訪ねてゆくと、しょっちゅう誰かが教えてもらいに来ていた。

時には、近くの学校に教師として行くこともあった。

学友が多く、親たちの評判も良い。

年頃の彼のもとには沢山の縁談が来ていた。しかし、当人はまだ学生の身という理由で全て断っていた。学生で結婚はこの時代では珍しくもない。現に学友の中には結婚している者も多かった。

ある日、小春もなぜ結婚しないのかと聞いたことがあった。

すると、彼はちょっと困ったように笑って「好きな子がいるんだ」と答えた。その一言で、自分の気持ちに気づいてしまい、聞かなきゃよかったと後悔したことは内緒だ。思い人について聞く勇気もなかった。

決して伝えられない想いを抱えたまま小春は彼と会い続けた。時々子供たちと一緒に勉強することもあった。誠に会い、知らなかった世界をたくさん教えてもらった。


とても幸せだった。


終わりは唐突にやってきた。

いつものように家を訪ねると、何やら家先に人が集まっていた。見れば勉強を習いに来る子供や、近所の人々、誠の両親もいる。中には泣いている人もいる。

いつもと違う雰囲気に声もかけられず立ちすくんでいると、小春に気づいた一人の子供が、泣きべそをかきながら走ってきて足にしがみついた。

姉のように慕い、小春になついている女の子だった。

「どうしたの?」

視線を合わせ、やさしく声をかけると、涙でぐちゃぐちゃになりながら、誠が戦争に行くことになったと教えてくれた。

心が跳ねると同時に、納得する自分がいた。近所の若者も次々と戦争に行っていた。いつ誠に命令が下ってもおかしくなかった。

それはとても誇らしいことだという。国のために戦えるということは素晴らしいのだと喜ぶ一方で、二度と帰ってこれないということでもあった。

皆悲しんでいた。その日、小春は誠に会うことなくねぐらに帰った。


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