第3話

思いのほか、ダメージを受けた体を回復するために、2,3日世話になるつもりだった。しかし、助けられてから1週間がたとうとしていた。

何不自由ない生活にすっかり慣れてしまったが、いつまでもいるわけにはいかない。

猫又とばれれば、人間は態度を豹変させる。

人間は妖を怖れる。

誰かをだまそうとか、食べようとは思っていない。しかし、妖の中には凶暴なものも多い。

だから妖である自分は正体を知られてはいけない。早くここから逃げなければならない。

逃げなくてはいけないのに、なぜか離れがたい。

彼のもとを離れなければ。

今日こそ。

明日こそは。

しかし、彼のことを考えると胸が苦しい。


”今日こそ”

久しぶりに天気のいい日だった。意を決し彼の目の前で脱走した。脇目もふらずに、ひたすらに走る。

ある程度走ったところで、振り返ると今までいた家が小さかった。

これでいいのだと自分に言い聞かせる。

胸が苦しい。

忘れなければ。

今までのことは忘れて、元の野良猫としての生活に戻るんだ。

ポロリと一粒涙がこぼれ落ちた。

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